彼の企画提案したアイデアは、
彼の働いている会社に、想像を絶する莫大な利益をもたらした。
会社の経営陣は、彼の功績に報いるべく、
次のような雇用条件を提示した。
「あなたの使う金を生産手段(投資資金、起業資金)と消費手段に分け、
個人的な生活に要する消費手段に限り、全て会社負担とする」
彼の生活は何もかも無料となった。
どんな高級レストランで、どんな高級料理を食べようとも、タダ。
どんな高級バーで、どんな高級ワインを飲もうとも、タダ。
どんな高級マンションに住もうとも、タダ。
どんな高級ホテルに泊まろうとも、タダ。
どんな高級家具を買おうとも、タダ。
どんな高級服を買おうとも、タダ。
どんな高級ドレスをつきあっている女性にプレゼントしても、タダ。
どんな豪華客船に乗って世界一周をしようとも、タダ。
世の中のものが全て無料と化した。
彼は、段々虚しくなった。
合法的な万引き、合法的な無銭飲食の感じになった。
好物の植物がいっぱい生えている草原に住む、
天敵のいない草食動物みたいな自分だった。
彼が精神構造に異常のある人間なら変質的な楽しみなどを、
持つことができたのかもしれない。
しかし、彼は困ったことに正常な精神の持ち主だった。
彼が自殺したのは、世の中のものが全て無料になってから、
わずか3年後であった。