「男は、処女処女とうるさく言うくせに、なぜ未亡人に対し、
異常な興味を示すのかわかりません」
ある雑誌の人生案内を担当していた女性の言葉である。
なるほど、言われてみれば、矛盾した変な心理である。
この心理は、まじめな恋愛の場合でも、強烈に男を支配する心理である。
女性の側から見ると、この変な心理は理解しにくいものかもしれない。
男のほうから見ると、この不可解な心理は、実は単純そのものである。
男の奥底にある心理、それは、
「人の使い古しはいやだ。でも、人の持っているものは欲しい」。
身勝手というか、自分勝手というか、
男自身もあきれる、駄々をこねるガキの心理なのである。
しかし、それが本音だから仕方ない、脳味噌の構造がそうなっているから仕方ない。
若い美人の未亡人が、なぜ、しきりに映画や小説のヒロインになるのかというと、
男がもっている、人のもちものを欲しがる心理を微妙に、
そして強烈にくすぐるからである。
夫が死んでいるのだから、人のもちものではないはずなのであるが、
男の感覚としては、「死者のもちもの」なのである。
「死者のもちもの」…ここが大事なポイントである。
この「死んでいる」というところが、重要なのである。
男の感覚として、
前の夫は、生きていてはいけないのである。
前の夫が、もう二度と、女性の前に現われることはないと断定できる場合でも、
生き別れと死に別れは値打ちが全然ちがうのである。
男に与えるインパクトが全然ちがうのである。
まあ、理屈では、どっちも同じなのであるが、
男の心理としては、
前の夫は、生きてこの世をうろついていてもらっては具合悪いのである。
前の夫が、生きていたら、女性は使い古しになり、
死んでいたら、女性は、いまなお、人のもちものということになるのである。
未亡人を手にいれることは、

夫を殺してその妻を奪ったかのような錯覚を男にもたらすのである。
この、合法的に、禁断の異次元に迷い込むような、目もくらむような感覚が、
男の頭を確実に錯乱させるのである。
容姿だけで価値判断する場合の話を考えれば、
男を惹きつける力において、
若い美人の処女に対抗できる女性は、この世のどこにも、ありえない。
…はずなのであるが、未亡人だけは、唯一例外になる可能性がある。
(ただし、若くて美人でなければいけない。おばあさんは駄目)。
というわけで、
まじめな小説やドラマや映画やアニメにも、未亡人が、
ヒロインとして、しきりに登場することになるのである。