外務大臣に挑んだ女(16)
12月6日(木)
ホテルには岩城事務所の久保田秘書、遊説隊には吉野事務所の野地秘書、そして遊説スタート地点には私が担当するという役割分担で、午前7:30からそれぞれの場所での行動を始めた。
8:00の遊説スタートの前の30分間は、遊説カーをバックにして、朝の通勤ラッシュの車中に、手を振りアピールするのだが、今日は私が菅野候補の代わりだ。
手を振り返されると凄く嬉しい、クラクションなんて鳴らされたら涙が出る程嬉しくなる。白手袋をしていてもチギれるほど手が冷たいが、皆で頑張って手を振る。
玄葉候補の遊説カーも表れた、同時刻に同じ場所からのスタートだ。直径50kmの第三選挙区内に3人の立候補者と言う密度から考えて、中々無い偶然だと思う。ライバルの遊説カーの中を覗いたらバッテリーが8個積んであった、これならば行灯の電気は切れないだろう。
岩城事務所の久保田秘書から電話が入った
「10分遅れて菅野候補が到着できます」
どうやら、候補者不在の遊説だけは避けられそうだ。
玄葉候補の遊説隊に挨拶に行った
「先に遊説を始めて下さい、我々は10分位遅れて出ますから」
譲った形だが、実は候補者が遅れているのだった。玄葉遊説隊は勿論元々、候補者は不在と言う余裕の戦いなのですがね。
岩城事務所の久保田秘書の車に乗って菅野候補が到着した、後部座席のドアを開けてあげた、菅野候補がゆっくりと下車した、中腰のうちにハグした
「大丈夫がい?何とか皆で頑張っぺない」
菅野候補が立ち上ってから更にしっかりとハグして、ホッペをくっつけた耳元で言った
「アーユーオーライ?ウイーキャンヘルプユー バディアンドメンタル ビコーズ ウイ ライク ユウ」
英語の先生には通じないかも知れないカタコト語だったが、菅野さちこ氏はニッコリと笑った。
何とかスタート出来た、皆でしっかりとフォローして遣り遂げたい。
県議会の公務終了後に須賀川事務所に戻ったのが午後5:00、今日は6:00から須賀川市内大東公民館での、イルミネーション点灯式への顔出しに呼ばれている。私は菅野候補の運転手に場所を確認して教えなければならない。
道の分からぬドライバーが何とか会場にたどり着いた、私は現地に居るはずの支援してくれている市議を訪ねた、菅野候補はすっかり元気を取り戻していた。
屋外と思っていたイベントは屋内だった。限られた空間の公共団体主催の会合には入れないと判断し、菅野候補は白河事務所での会合に向かわせる事とした。選挙ではこう言う段取り違いは多々起こるものだ。
「悪り~ない、どこかで埋め合わせすっからない」
と言ってくれた市議に
「12日の須賀川市個人演説会に沢山の人を連れて来て下さい」
とお願いした。段取り違いでも、禍でも何でもかんでも福と成したい。
今日の新聞辺りからは、自民圧勝!との内容の選挙の情勢分析記事が出始めた。公示後2日間でこれは無いだろう、褒め殺しキャンペーンと感じる。週刊現代などは、東北では小沢一郎氏の選挙区以外は自民党候補が全員当選、我が菅野候補などは玄葉候補にダブルスコアで勝つと出ている、根も葉もない記事だと思う。
最も世論に影響のあるメディアが最もアテにならないと言う事実が、現在の我が国の重い病気の一つなのだと思う。
夜の緒会合廻りが終わって戻った菅野候補の点滴が、午前0:00に終わるのを、池田記念病院のロビーで待った。新築の病院で綺麗だし、思ったよりも寒くないのが、寒がりの私にとって相当の救いだった。
点滴室から出て来た菅野候補の声はとても元気だったが、念の為、手を引いて私の車迄導いた。
私の車が軽自動車だからか、あまり暖房が効かない為か、それとも車があまりに粗末な為か、菅野候補がクスッと笑った。気力、体力共にギリギリの状態で活動している、ある意味笑いが必要な菅野候補にとっては、ボロ車も役に立つ事が有るのか、私も思わず吹き出した。
「ホテルの部屋が使いづらい」
と言いだした。
「連泊できるホテルが、あそこだけだったんですよ」
「2段ベットが邪魔なのよね、普通のツインに変えて欲しいの」
「んじゃ俺が聞いてみますから」
屋外よりは少しマシかな、という程度の室内温度の車中に我慢して貰いながらホテルに到着、フロントで聞いてみたが、ホテル需要の多い震災復興期である現在、そんな簡単には希望の部屋は見つからない。
「荷物を置くと狭いのよね」
「そう言えばホテルのオーナーにお菓子を貰ったんですよ」
話は急に飛んだりする、特別なリズムの持ち主だ、
「2段ベットの上の段に荷物を置けば広く使えるのでは?」
「わーそうですね、そんな事にも気付かなかったのね」
「んじゃ入浴して休んで下さい、菅野さんの体に無理をかけない様に極力ケアしますから、明日は午前6:30須賀川事務所なので6:15ホテル出発ですから」
私が寝たのは午前2:00だったが、菅野候補の心身共のダメージと比べれば大した事ではない、頑張ろう。