イチオクノホシ 22(翔潤) | 櫻の妄想小説置き場【可塑的かそてき】

櫻の妄想小説置き場【可塑的かそてき】

【可塑的かそ・てき】思うように物の形をつくれること。 塑造できること。
主にラブイチャ系よりは切ないネガ多めです。
※このブログにある物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

潤に会えたら、抱きしめて、キスして…ってそれしか考えてなかった俺。

 

それなのにまさか、

 

『おまえのこと…俺にくれんの?」』

 

そんな台詞が口をついて出るなんて思いもしなかった。

 

そこからはもう感情が昂るわ、欲望まで次から次へと溢れるわで。

気が付けば奪い尽くすように潤の肌の上にキスを落としていった。

 

それなのに肝心なところで行き詰る俺に、それでもいいよと笑ってくれる潤にホッとして。

相変わらずヘタレな自分に嫌気がさす。

 

だけどさぁ男同士ってどうやるんだよ。

繋がるところなんか一つしかないのはなんとなく分かるけど、無責任に潤を傷つけることなんか出来るわけもなく。

 

今まで女性とはそういうことだってシてきたけど、それは自分の欲求を満たすためだけの行為であって。

始まる前から終わった後まで、相手のことを気遣うなんてしてこなかった。

 

それなのに、潤を苦しめたくない、潤を大切にしたい…そんな思いで自分の気持ちを押し殺すなんて。

こんな自分知らねぇよ。

 

仕事の後で相当疲れてんのか、俺の腕に纏わりつくようにくっついて意地でも離れず、すやすやと寝息をたてている潤の頭をふわりと撫でる。

 

「しょぉ…くん、…起きてたの?」

「うん」

「ね、シて…?」

「ん?」

 

潤が自分の顎をくいっと上げるから、引き寄せられるように口付けた。

 

「しょぉくん、」

「うん」

「好きだよ…」

 

そう言って瞳を閉じる潤は、また夢の中へと戻ってしまったのだろうか。

寝顔を眺めながら、どうしてこんなにって。

たったそれだけのことなのにって。

ぐっと目頭が熱くなるなんてどうしちまったんだよ俺。

こんなに自分以外の誰かを、愛しいと思うなんて。

 

「俺も…、」

 

これ以上を口にすれば、きっと大人げなく泣いてしまいそうな気がして。

もう一度潤の唇に自分の唇を合わせると、

 

「ふっ、」

 

潤の漏らす吐息が、だんだんと艶めかしくなってきて。

そのうち、白い肌がだんだんと紅く色付いてきて。

 

「そんなしたら、また、シたくなる…」

 

耳元を撫でるぬるい温度に。

また簡単に、翻弄される。

 

 

 

 

***

 

 

 

ごろり、寝返りをうつ。

目を閉じたまま、片腕を広げてシーツの上を滑らせると、そこにはいるはずの人がいなかった。

 

うっすらと目を開けて確認する。

だけどそこにあるのは枕だけ。

 

ハッとして起き上がった。

 

「夢!?」

 

そんなわけないよな。

だってまだ、あいつの熱い体温をしっかりと覚えてる。

それに、艶めかしく俺の名前を呼ぶ声に妖艶な仕草、俺の頬に触れた細くて冷たい指。

その全てを鮮明に思い出せる。

 

カチャリと寝室の扉を開くと、途端に魚が焼けるような香りが鼻腔をくすぐった。

 

「あ、おはよ翔くん」

 

対面式のキッチンの向こうに、お玉を手に持つ潤の姿が見えて。

 

「ごめんね、勝手に冷蔵庫の中のもの使っちゃった」

「え、あぁいいよ。つか超いいにおい」

「冷凍庫にあった鮭も使っちゃった」

 

つか、冷凍庫に鮭とか入ってたんだ。

たまに母親が来ては冷蔵庫の中を補充してるみたいだけど、

 

「全然食べてないじゃない。外食ばかりじゃ駄目って言ってるでしょ」

 

なんて小言を言われるのにもすっかり慣れて。

それに補充したところで自炊なんて出来ないのだから、結局捨てることになるというのに補充を止める気配は無い。

まぁ、多分それをココに来る目的にでもしてるんだろうけど。

 

だけどまぁ、今回に至っては、母親の努力の甲斐もあって、恋人の手作りする朝飯にありつけたわけだけど。

 

「うーーーま!」

「ちょ、翔くん、よく噛んで食べなよ」

「だって超美味いんだもん!」

「もぉ、ほっぺたにごはん粒ついてる」

「どこ、」

「左だよ、口の近く」

「んー、、、」

 

なかなかたどりつけないでいるごはん粒を見かねて、潤が指で摘まむ。

そしてそれを自分の口に持っていって食べるかと思いきや、満杯である俺の口の中へと無理矢理詰め込んだ。

 

「ふふっ、翔くんリスみたい」

 

ほっぺたに詰め込みすぎだよ、なんてさらに詰めたおまえがそれ言う!?って思ったけれど…、だしのきいた味噌汁をすすれば心までほっこりして、そんなのもどうでもよくなった。

もしかして胃袋を掴まれるってこういうことを言うのだろうか。

 

大満足の食事を終え食器まで片付けてくれて。

それから寝室に移動した潤は、今度はベッドのシーツを剥がしていく。

 

「洗ってくれんの?」

 

そう聞けば、

 

「汚しちゃったから」

 

なんて顔を真っ赤にするから、そのギャップに頭がクラリとした。

だってさぁ、妙に男らしかったり、妙に可愛らしかったり、マジでいろんな表情見せるもんだから。

 

「ちょ、翔くんっ、今から洗濯するんだってば」

「洗濯する前だから汚れたっていいじゃん」

 

俺は何度でもおまえに触れたくなってしまうんだ。

 

 

 

 

 

フォローしてね…