潤に会えたら、抱きしめて、キスして…ってそれしか考えてなかった俺。
それなのにまさか、
『おまえのこと…俺にくれんの?」』
そんな台詞が口をついて出るなんて思いもしなかった。
そこからはもう感情が昂るわ、欲望まで次から次へと溢れるわで。
気が付けば奪い尽くすように潤の肌の上にキスを落としていった。
それなのに肝心なところで行き詰る俺に、それでもいいよと笑ってくれる潤にホッとして。
相変わらずヘタレな自分に嫌気がさす。
だけどさぁ男同士ってどうやるんだよ。
繋がるところなんか一つしかないのはなんとなく分かるけど、無責任に潤を傷つけることなんか出来るわけもなく。
今まで女性とはそういうことだってシてきたけど、それは自分の欲求を満たすためだけの行為であって。
始まる前から終わった後まで、相手のことを気遣うなんてしてこなかった。
それなのに、潤を苦しめたくない、潤を大切にしたい…そんな思いで自分の気持ちを押し殺すなんて。
こんな自分知らねぇよ。
仕事の後で相当疲れてんのか、俺の腕に纏わりつくようにくっついて意地でも離れず、すやすやと寝息をたてている潤の頭をふわりと撫でる。
「しょぉ…くん、…起きてたの?」
「うん」
「ね、シて…?」
「ん?」
潤が自分の顎をくいっと上げるから、引き寄せられるように口付けた。
「しょぉくん、」
「うん」
「好きだよ…」
そう言って瞳を閉じる潤は、また夢の中へと戻ってしまったのだろうか。
寝顔を眺めながら、どうしてこんなにって。
たったそれだけのことなのにって。
ぐっと目頭が熱くなるなんてどうしちまったんだよ俺。
こんなに自分以外の誰かを、愛しいと思うなんて。
「俺も…、」
これ以上を口にすれば、きっと大人げなく泣いてしまいそうな気がして。
もう一度潤の唇に自分の唇を合わせると、
「ふっ、」
潤の漏らす吐息が、だんだんと艶めかしくなってきて。
そのうち、白い肌がだんだんと紅く色付いてきて。
「そんなしたら、また、シたくなる…」
耳元を撫でるぬるい温度に。
また簡単に、翻弄される。
***
ごろり、寝返りをうつ。
目を閉じたまま、片腕を広げてシーツの上を滑らせると、そこにはいるはずの人がいなかった。
うっすらと目を開けて確認する。
だけどそこにあるのは枕だけ。
ハッとして起き上がった。
「夢!?」
そんなわけないよな。
だってまだ、あいつの熱い体温をしっかりと覚えてる。
それに、艶めかしく俺の名前を呼ぶ声に妖艶な仕草、俺の頬に触れた細くて冷たい指。
その全てを鮮明に思い出せる。
カチャリと寝室の扉を開くと、途端に魚が焼けるような香りが鼻腔をくすぐった。
「あ、おはよ翔くん」
対面式のキッチンの向こうに、お玉を手に持つ潤の姿が見えて。
「ごめんね、勝手に冷蔵庫の中のもの使っちゃった」
「え、あぁいいよ。つか超いいにおい」
「冷凍庫にあった鮭も使っちゃった」
つか、冷凍庫に鮭とか入ってたんだ。
たまに母親が来ては冷蔵庫の中を補充してるみたいだけど、
「全然食べてないじゃない。外食ばかりじゃ駄目って言ってるでしょ」
なんて小言を言われるのにもすっかり慣れて。
それに補充したところで自炊なんて出来ないのだから、結局捨てることになるというのに補充を止める気配は無い。
まぁ、多分それをココに来る目的にでもしてるんだろうけど。
だけどまぁ、今回に至っては、母親の努力の甲斐もあって、恋人の手作りする朝飯にありつけたわけだけど。
「うーーーま!」
「ちょ、翔くん、よく噛んで食べなよ」
「だって超美味いんだもん!」
「もぉ、ほっぺたにごはん粒ついてる」
「どこ、」
「左だよ、口の近く」
「んー、、、」
なかなかたどりつけないでいるごはん粒を見かねて、潤が指で摘まむ。
そしてそれを自分の口に持っていって食べるかと思いきや、満杯である俺の口の中へと無理矢理詰め込んだ。
「ふふっ、翔くんリスみたい」
ほっぺたに詰め込みすぎだよ、なんてさらに詰めたおまえがそれ言う!?って思ったけれど…、だしのきいた味噌汁をすすれば心までほっこりして、そんなのもどうでもよくなった。
もしかして胃袋を掴まれるってこういうことを言うのだろうか。
大満足の食事を終え食器まで片付けてくれて。
それから寝室に移動した潤は、今度はベッドのシーツを剥がしていく。
「洗ってくれんの?」
そう聞けば、
「汚しちゃったから」
なんて顔を真っ赤にするから、そのギャップに頭がクラリとした。
だってさぁ、妙に男らしかったり、妙に可愛らしかったり、マジでいろんな表情見せるもんだから。
「ちょ、翔くんっ、今から洗濯するんだってば」
「洗濯する前だから汚れたっていいじゃん」
俺は何度でもおまえに触れたくなってしまうんだ。