「はっ、はあっ、はあっ、」
果てた途端に二人してシーツの上に倒れ込んだ。
酸欠の身体になんとか空気を取り込みながらチラリと潤さんの様子を伺えば、彼も彼で苦しそうに肩で息をしていた。
「ったく、がっつきやがって」
これだからガキは、なんてぶつくさと文句を言っていた潤さんの視線も俺の方に向くから、その綺麗なアーモンドアイの瞳にひさびさに石化しそうになるのを慌てて回避する。
「そうだ…」
潤さんが、ふとそんな言葉を口にするから、最後の言葉でもきっと告げられるんだろうと身構えた。
だけど潤さんが紡いだのは、
「今から少し、キャンプの時に屋上でしていた話の続きをしようか」
そんな言葉だった。
***
「翔、起きろ」
そんな潤さんの声と、肩をゆさゆさと揺さぶられる感覚に意識を取り戻す。
そうだ、俺はさっきまで彼と心を伴わないセックスをして、それから潤さんに聞かれるがままに自分の話をした。
夢は無くても、趣味とか好きなことの話は尽きなくて。
だけど一番好きなのは潤さんだって、ずっとそんなことを考えていた。
だけど話を続けていくうちに、潤さんが俺に幻滅したのは屋上で話をした後からだったということに気が付いて急に口を噤んだ。
だってあれから様子がおかしいのは明らかだし、俺に対して全く笑顔を見せてくれなくなったから。
そんな俺の様子があまりにも眠たそうに見えたのか、そろそろ寝ようとそう言ってシーツの中へと潜り込んだ。
「早く顔洗って朝飯食って、俺ももうそろそろ出なきゃ仕事に遅れちまう」
最近では全く食欲が湧かなくなっていた俺も、さすがに潤さんの作った飯なら話は別で。
キッチンへ移動すると、テーブルの上にずらりと並べられた料理に、ごくりと喉が鳴る。
ご飯に味噌汁に玉子焼きに焼き鮭、仕事が忙しいはずなのにわざわざ買ってきてくれたのだろうか、納豆まで置いてあった。
今までのことが…まるで夢だったんじゃないかとすら思えるほど、それは幸せな食卓のようだ。
だけど知ってる。
マッチ売りの少女がマッチに火が灯っている間だけ見ることの出来た暖かい幻。
今俺が見ている景色も、きっとそれに近い。
それにしても潤さんってば、夜の三時過ぎに帰ってきて仕事して、それからセックスして話をして。
それなのに朝飯の準備まで。
ここまでされたらさすがに、もしかしてまだ少なからず俺のことを…なんて勘違いしそうになってしまう。
「いただきます」
そう手を合わせて、味噌汁を口に含む。
当たり前に美味い。
じわじわと染みわたるようにそれは身体の細胞一つ一つへと広がって漲る。
そんな時間がただただ幸せで。
こんな朝がこれからもずっとずっと、永遠に続いていけばいいのに。
そんなことを考えてしまったら最後、あっという間に目頭が熱くなってしまった。
「翔」
「……ん、」
「今日も学校…だよな?」
「うん…?」
「これ、渡しとく」
そう言って潤さんから一枚のカードを手渡されて素直に受け取る。
見るとそれは名刺で、そこには大手レコード会社の名前と聞いたことも無い人の名前が記されていた。
「瀧澤…」
「うん、そこにある番号に連絡して、できれば今日中に」
「え、なんで?」
「内容はその人から直接聞いてくれ」
「………、」
「大丈夫だよ、何も心配ない」
ただ連絡するだけでいい、ってなんだそれ。
キョトンとする俺に潤さんは、
「あとこれ」
そう言ってUSBをテーブルに置いた。
「中に、デモが入ってる」
「……あ、」
思い出した。
『この曲潤に送っておくから、帰ってから続きやってみて』
キャンプの時確かにそう智くんに言われて。
まさか本当にこの曲にラップをつけろというのだろうか。
「大埜さんと約束したんだろ」
「や、だって…、俺なんかにそんなことっ」
「翔、やるって言ったんなら責任持ってやれ」
パソコンは俺の部屋の使っていいから自分の持ってる媒体に落とし込めって。
潤さんはそう言って、ごちそうさまでしたと綺麗に両手を合わせると食器を下げ始めた。
「ごめん、俺もう行かないと。自分のは自分で片付けておけよ」
「…うん、」
ぼんやりと名刺を見つめる俺の頭を潤さんはポンポンと叩くと、
「翔、頑張れよ」
そう、久しぶりの久しぶりに俺に微笑みかけてくれた。
