MATCH239 S | 櫻の妄想小説置き場【可塑的かそてき】

櫻の妄想小説置き場【可塑的かそてき】

【可塑的かそ・てき】思うように物の形をつくれること。 塑造できること。
主にラブイチャ系よりは切ないネガ多めです。
※このブログにある物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

なんだかんだで結局忙しい日々。

潤に寂しい思いをさせたくないと思って、そのために時間はちゃんと割いてるつもり。

それでもやっぱり少しは我慢もさせていると思うから、ごめんっていつも思ってる。

こいつの大丈夫は全然大丈夫じゃないって学んだこともあって、今までは遅い時間は遠慮していた連絡も、最近ではこまめに入れるように心掛けてるつもり。

 

だけどどっちかというと俺の方が、彼に会えない日々が続いていて心が悲鳴をあげる寸前。

この忙しさを乗り切れば、これからは毎日あいつを抱き枕にして眠れる、それだけが今の俺の活力になっていることは間違いなかった。

 

「もしもし?潤?」

 

真夜中の電話を悪いと思いながらも彼を呼び出せば、

 

「もしもし、しょぉ?」

 

すでに眠っていたのだろう、擦れ気味な声で名前を呼ばれた。

 

「ごめん、寝てた?」

「ううん、」

 

きっとこの返事も大丈夫と同じ意味だよな。

だけどさ、ううんって言ってくれてるのはきっとこの電話を嬉しいと思ってくれてる証拠で。

俺がこの時間に電話をすることを後ろめたく思わないための言葉の選択だって勝手に決めつけちゃってるけど、いいのかな。

 

「どおしたの?」

「うん、引越しの日程決めたからその連絡」

「あぁ…いつ?」

「月末の二日間ぐらいみてる」

「ふふ、そっか。じゃ、おれもてつだいにいくね」

「サンキュ」

 

とりあえず俺から先に越すから、潤はゆっくりでいいよと言ってある。

ただでさえ病気のこともあるし、学校にモデルの仕事にって忙しいだろうし。

まぁ、なるべく早くきちんと越してきては欲しいけど。

じゃないとどっか安心できないっつーか、あぁ多分…俺が独占欲強いせいだな。

 

「………、」

 

しばらくそんな無言の時間が流れて、もしかしてと思いながら、

 

「潤?寝た?」

 

そう聞いてみた。

このまま返事がなかったら、もう起こすことはせずにこのまま寝かせてやろう。

そう思っていたけれど、

 

「んーん…ねてない、」

 

なんて舌ったらずな声が返ってきて、思わずふっと笑みが零れる。

 

「おまえめちゃくちゃ眠そうじゃん。もう寝る?」

「…やだ」

「やだっつったって」

「やぁだ」

「我儘か」

「ふふ…わがままはきらい?」

「んー、人による…かな」

「じゃぁ…おれ、は?」

 

そんなん許せるに決まってんじゃん。

つかむしろもっと我儘言ってよ。

だけど…、俺だけにな。

 

「潤?」

「んー?」

「会いたい」

 

だってさ、ずりぃよ。

そんなとろんとろんな声聞かせられたらさ。

ずっとそんな甘々の雰囲気に胸がドキドキしっぱなしで、心臓がキューキューと悲鳴をあげる。

そのせいか電話を持ってる手のひらまで痺れて痛くてたまらなくなって、

 

「なんて…こんな時間なのに俺のが我儘か」

 

そう笑い飛ばせば向こう側でけらけらと笑う声が聞こえた。

あぁ可愛い。

同性相手にそんなこと思うなんて、どうかしてると自分でも思ってる。

だけどこの気持ちに嘘はつけないし、本音なんだから仕方ない。

ただ最近この気持ちが…、潤のことを可愛いと感じるこの思いが…、多分愛しいって気持ちと直結してんじゃないかと気付いた時に、すごくしっくりきた。

 

「おれより、しょおのがわがまま」

「だよな」

「でも…おれもあいたい」

「じゃあ今から行こうかなぁって言いたいところだけど、俺が到着する頃にはおまえ爆睡してそう」

「んー…どぉかな、」

 

それでもいいけどって思った。

別に起きてなくても、ただ抱きしめて眠れるならそれでいいって。

だけどそんなんますます我儘な男だって呆れられるよな。

 

「しょぉ…すき、だ…よ」

 

最後の力を振り絞ったような愛の告白を受けて、すかさず俺もと応えれば、そのあとに聞こえてくる寝息でさえ幸せな気持ちになれるってさ。

相当だよな。

 

「おやすみ」

 

小さくそう呟いて俺は、電話を切った。