床にへたり込んでいる私にリュウが近づいた。
そして思いがけないリュウの行動に私は動揺した。
リュウはふわりと私を抱きしめた。
懐かしい匂いと骨ばったリュウの肩。
そして嗅いだことのない整髪料の香りと、
ほほに触れる、彼がしているピアスのひんやりした感触。
かすかに香るタバコの香り。
・・・前はワックスなんてつけていなかった。
もちろんピアスだってつけていなかった。
リュウの体からタバコのにおいがするなんて、
いまだに違和感以外何もない。
こんな状況なのにしみじみと思う。
ああ、そうだ。
リュウは変わってしまった。
どう考えたって私のせいだ。
ごめん、とどうしても思ってしまう。
彼にとって良い影響を一つも与えてあげられなかった。
それどころかこんな風になってしまうなんて、
私のせい以外の何があるんだろう。
・・・・。
ごめんな。
消え入るような小さな声でリュウはごめんと言った。
同じことを考えていた。
私もごめん、と思っている。
リュウはいったい何への”ごめん”なんだろうか。
ほんとは大切にしたいん。
けど、同じくらい、いや、それ以上に、
壊したいって衝動のほうがどんどん強くなる。
ごめん。
ごめん・・・。
リュウは小さい声で謝り続けた。
痛みと恐怖は和らぐことはなく、
私は放心状態でそれを聞き続けた。
ただ、感じていたのはリュウの柔らかな手つき。
わたしの背中を擦る柔らかな手。
もう、やめて・・・。
そんな風に柔らかく私に触れないで。
優しくされるのはたまらない。
胸がひりつく。
憎んでくれていたほうがよっぽど楽だ。
私のせいで振り回されているリュウこそが本当は被害者なんじゃないか。
本当にそう思っているのだ。
何分ほどそんなことをしていただろうか。
ドアノブをひねる音がして、
ドンドンと叩く音が聞こえた。
金谷の、
おい!サクラ!いるんか?!
という張り詰めた声。
サクラ、サクラ!
というサナの涙交じりの声。
心底ほっとした。
ほっとしたのだけれど、
私にはなぜかまだ声が出せなかった。
・・・ほらな。
呟くリュウの声に視線をあげた。
・・・来栖は絶対こーすると思った。
思った通りになって癪だから開けてやんね。
リュウはポツリと呟くと、
私を抱きしめていた腕をするりとほどいた。