腎・尿路疾患・水・電解質代謝異常の泌尿器科的(尿路)疾患のお話。
今回は泌尿器腫瘍の、前立腺癌の説明です。

★[前立腺癌]prostate cancer★
●疫学
欧米では男性癌死の原因の上位(アメリカ2位、スウェーデン1位)です。
日本での1997年の年間死亡者数は6,250人で、近年急激に増加し、増加率はメキシコに次いで世界第2位です。
今後のさらなる増加が見込まれており、2015年には直腸癌の死亡者数と同じか、これを超えると推計されています。

●病因
家族発生を示す場合があり、その原因の1つにHPC1と呼ばれる第1染色体長腕に存在する遺伝子の異常があります。
食事で動物性脂肪の摂取により発生率が高まるとされます。

●病理
腺癌であり前立腺の発生学的な分類(McNealの分類)の辺縁領域peripheral zoneから約70%の癌が発生します。
細胞異型と構造異型の2つを加味して、高、中、低分化に分類されますが、主に構造異型に基づいて分類するGleason分類が臨床的に頻用されています。

●臨床像
初期は無症状、進行にしたがって下部尿路閉塞の症状(頻尿、尿腺細小など)が出現し、尿道、膀胱浸潤が起きれば血尿がみられることがあります。
骨転移が好発し(骨形成性です)腰椎転移のために腰痛など転移のための症状が診断のきっかけになることもあります。

●診断
前立腺癌の腫瘍マーカーである前立腺特異抗原(PSA)は感受性、特異性に優れ、PSA単独のスクリーニングでも全症例の60~80%の症例を診断することが可能です。
典型例では直腸指診で石様硬の前立腺に触れ、経直腸超音波検査transrectal ultrasound(TRUS)で低エコーを示し、カラードプラーエコーで血流が豊富な病変部が描出されます。
確定診断は針生検によりますがTRUSガイド下経直腸系統的6ヵ所生検が最も一般的な方法です。
病期診断は経直腸超音波検査、CT、MRI、骨シンチグラフィbone scanにより行いますが、PSA値、生検でのGleason分類に基づいたモノグラムにより推計されることも多いです。

●治療
前立腺癌の病期、病理学的所見、患者の年齢、PSなどを考え総合的に判断しますが、前立腺限局前立腺癌の場合には前立腺全摘手術や放射線療法が行われ、転移のある症例に対しては、両側精巣摘除またはLH-RHアゴニスト投与による、男性ホルモン抑制療法が基本で、これに抗アンドロゲン薬の投与も行われます。
男性ホルモン抑制療法が無効である症例や、再び悪化(再燃)した症例ではエストロゲン薬や化学療法が試みられていますが、予後不良です。