耳鼻咽頭科疾患の先天奇形のお話。
今回は、先天性耳瘻孔・側頸瘻孔の説明です。

★[先天性耳瘻孔・側頸瘻孔]congenital aural fistula、lateral cervical fistula★
【概念】
先天性耳瘻孔・側頸瘻孔のいずれも胎生期における鰓性器官の発達異常が原因です。
耳介周囲から頸部にかけて先天的に発生する瘻孔ですが、各々の発生様式は異なります。
管腔は扁平上皮から形成され、分泌物が貯留して細菌感染を起こすことが臨床上の問題となります。

●疫学
先天性耳瘻孔の発生頻度は欧米白人では1%以下、また日本においては数%程度と考えられています。
一側に発生することが多いですが、両側性の罹患も少なくありません。
側頸瘻孔は先天性耳瘻孔より少なく、特に第1鰓溝性のものはまれです。

●病因
耳介は第1、第1鰓弓由来の6個の結節が癒合することにより形成されますが、この際に癒合不全が起こることにより瘻孔が形成されます。
不完全優性遺伝によると考えられています。
側頸瘻孔は第1、第2鰓溝が閉鎖するときに遺残した鰓溝・鰓嚢組織により発生するとされます。

●臨床像
先天性耳瘻孔は耳介周囲、特に耳前部、耳輪前部、耳輪脚部に開口するものが多いですが、耳介後部に発生することもあります。
先天性耳瘻孔の多くは瘻管が短く、感染がなければ臨床上、問題にはなりませんが、瘻管が長くなると内腔に分泌物が貯留した囊胞を形成したり、また末梢がタコ足状に分岐することが多くなるため、感染を引き起こしやすくなります。
感染を起こすと瘻孔周囲の疼痛や腫脹が出現し、場合によっては皮下膿瘍を発生することもあります。
このように感染を反復する場合には手術適応となります。
側頸瘻孔のうち第1鰓溝性瘻孔は外耳道から胸鎖突筋前方1/3付近までの間に開口し、第2鰓溝性瘻孔は咽頭腔(口蓋扁桃窩)から胸鎖乳突筋下方1/3付近までの間に開口します。
このうち両者に開口するものを完全瘻、内方が盲端のものを不完全外瘻、体表が盲端のものを不完全内瘻と呼びますが、臨床的には瘻管を欠き、孤立性の囊胞を形成したものが最も多いです。
第1、第2鰓溝性の囊胞のなかでは、頻度的に第2鰓溝由来の側頸囊胞が多く、臨床上は側頸部上方の腫脹として発症します。
側頸瘻孔は感染を起こしやすく、また感染が反復した場合には周囲組織と癒着して摘出が困難となるので、原則として診断後、早期に瘻孔の完全摘出を行う必要があります。

●検査所見
側頸瘻孔の場合は、瘻孔造影によって瘻管の走行や囊胞の存在部位を診断することが可能です。
また囊胞を形成している場合には、CT、MRIにより存在部位、囊胞の拡がり、周囲組織との関係などを診断できます。
CTでは輪郭の明瞭な低濃度の腫瘤陰影として認められ。感染により囊胞壁が造影剤により強調され、瘻管が明らかとなることもあります。
MRIではT1強調画像では低信号、T2強調画像で高信号を呈します。
先天性耳瘻孔の起炎菌としては、Staphylo-coccus aureus、Eschelichia coliなどの好気性菌だけでなくもBacteroidesやFusobacteriumなどの嫌気性菌の頻度も高いとされています。

●病理組織像
耳瘻孔および側頸瘻孔の大部分の内壁は重層扁平上皮で皮脂腺や毛包が認められ、内腔には上皮由来のケラチンや分泌液が貯留しています。
感染を反復した場合には膠原線維の増生や認められ、また、鰓囊由来の側頸瘻孔の場合は多列線毛上皮の場合もありますが、頻度は少ないです。

●診断・鑑別診断
視診によって瘻孔を確認することにより診断は容易です。
先天性耳瘻孔の場合には、瘻孔よりゾンデ(涙管ブジー)を挿入し、瘻管の方向や拡がりを確認でき、また感染部位が瘻孔と離れていることがあり、耳介周囲に発赤腫脹を見た場合は耳瘻孔を念頭に置く必要があります。
第1鰓溝性瘻孔の場合、耳下腺部に囊胞を形成するために、耳下腺腫瘍との鑑別診断が重要です。
そのポイントとしては、外耳道内の瘻孔を見落とさないことです。

●治療
《先天性耳瘻孔》
 感染を起こしていない場合には、局所を清潔に保ち経過を観察するだけでいいです。
 感染を併発した場合は抗生物質を投与し、また開口部から抗生物質の注入洗浄を行うこともあります。
 膿瘍を形成した場合には、瘻管を損傷しないように切開・排膿を行います。
 感染が反復する際には、抗生物質の投与により急性炎症が鎮静してから外科的に摘出します。
 手術は局所麻酔または全身麻酔下にゾンデにて瘻管の方向を確認した後、色素(ピオクタニンなど)を瘻孔に注入し、内腔を染色しておきます。
 開口部の皮膚を紡錘形に切開し、瘻孔と周囲の瘢痕組織を含めて完全に摘出します。
 また瘻管が耳介軟骨と付着しているときには、軟骨の一部を合わせて切除した方が取り残しを避けることができます。
 時には皮膚の切除部が大きく、単純に閉鎖できない場合に皮膚移植を必要とすることもあります。

《側頸瘻孔》
 第1鰓溝性瘻孔の場合は顔面神経損傷の危険があり、注意を要します。
 耳下腺手術に準じて皮膚を切開し瘻管と顔面神経の関係を確認してから、外耳道の開口部も皮膚・軟骨を含めて完全に摘出します。
 第2鰓溝性瘻孔では、口蓋扁桃窩の開口部(内瘻孔)の有無を十分に確認する必要があります。
 側頸部皮膚切開の後に、外瘻孔から上方に剥離を進めて瘻孔を完全に摘出します。
 内瘻孔が存在する場合には、瘻管が内頚動脈と外頚動脈の間を走行して口蓋扁桃窩に向かうので、手術の際には副損傷に十分に注意を払う必要があります。
 先天性耳瘻孔・側頸瘻孔ともに瘻孔組織の取り残しによる再発率が高いといわれており、完全に瘻孔を摘出することが肝要です。

●禁忌事項
瘻孔の拡がりをゾンデで確認する際には瘻管を破らないように注意すること。

●KEY WORD:鰓性器官branchial appratus
ヒトの胎生期に存在する鰓性器官は、鰓弓(中胚葉性)、鰓溝(外胚葉性)、鰓囊(内胚葉性)からなり、顔面、頸部を形成する原基です。
頭頸部領域の先天奇形のほとんどが、鰓性器官が器官形成を行う過程で生じてきます。