第35回「吉里吉里人」(小説) | 新稀少堂日記

第35回「吉里吉里人」(小説)

 第35回は、「吉里吉里人」です。井上ひさし氏は、多彩な作家です。世に出るまでに、挫折を繰り返しました。それが、多彩さの源泉でしょうか。しかし、彼を高く評価できるのは、彼の日本語に対する認識です。
 この「吉里吉里人」と、「東京セブン ローズ」は、テーマも、モチーフも、日本語に満ちています。特に、東京セブンローズは、旧漢字・旧かなづかいで、全編書かれています。共通点はそれだけではありません。いずれも、枕になりそうなほど厚いのです。「お厚いのがお好き」の方には、ピッタリです(一時、ミステリーのハードカバーで随分出版されました)。


 吉里吉里人は、 シナリオ・ライター時代にプロト・タイプを書いていたようです。ラジオ・ドラマだったようですが、聴いてはおりません。井上氏は、東北出身のためか、インタビューとかバラエティ番組に出ましたときに、若干の東北なまりを感じます。それを、逆に武器にしているようにも思えます。


 この作品も、東北弁を上手く使っています。そして、日本語とは何か、標準語とは何か。井上氏は、問いかけます。しかし、コメディです。部厚いハードカバーでありながら、大ベストセラーとなりました。「東京セブンローズ」と、表裏の関係を持つ作品であり、前駆的な作品です。一体として、読むことをオススメします。


 カミュの「異邦人」は、高校生によく読まれる作品ですが(文庫ベストセラーの上位に、常にランクされます)、この作品だけ読みましても、カミュを断片的にか理解できません。死後発表された「幸福な死」を読んで初めてカミュが理解できます・・・・。


 「東京セブンローズ」は、旧漢字・旧かなづかいで書かれていますが、抵抗感はありません。すんなり読めます。読み進むうちに、快感すら感じてきます。そして、この「吉里吉里人」も、・・・・。一体の作品です。