"God's gun" 1976
イタリア=イスラエル制作
いちおうイタリアが絡んでるので
「マカロニウエスタン」でいいよね?
伊語タイトルは "Diamante lobo"
1964年「荒野の用心棒」で映画ファンの度肝を抜いたマカロニウエスタンは、やがて世界的ブームを巻き起こし無数のフォロワーを生み
(少なくとも500本以上の映画が作られた)
「粗造、濫造」と揶揄され徐々に求心力を失い
コメディ路線に活路を見い出したものの…
70年代後半には落日の様相。
それでもまだ1975年は「荒野の珍道中」「荒野の処刑」「荒野のドラゴン」「オニオン流れ者」「ミスター・ノーボディ2」など意欲作が公開されておりますが
1976年になると、もはや終焉は決定的。
11月に「ケオマ・ザ・リベンジャー」
12月10日には"Appach woman" が公開された程度。
しかもそのどちらもが、先住民を絡めた異色な作品…
「マカロニは死んだ」と思われたであろうそのとき
まさに旧来のファンにとっては最高のクリスマスプレゼントだったことでしょう。
1976年12月20日に公開されたのが「神の銃」本作です。
名匠ジャンフランコ・パロリーニが監督し
音楽はお馴染みサンテ・マリア・ロミテッリ
なんと主演はリー・ヴァン・クリーフ
共演にジャック・パランスとリチャード・ブーン
錚々たるメンツが勢揃いして、往年のごとき「正統派」マカロニウエスタンがこの時期に作られたなんて!
本作ではフランク・クレイマーとしてクレジットされております、ジャンフランコ・パロリーニ氏
俳優として活躍された方でもあります
Gianfranco Parolini (1925-2018)
ご存じサルタナシリーズの1作目、そしてサバタ三部作の監督さんです。(三人のスーパーマンとかイエティとか、マカロニ以外でも素晴らしい作品を残しています)
この巨匠のもと「古き良きマカロニ」を再び!とばかりに、対峙する米国出身の大物二人。
まずはリー・ヴァン・クリーフさま
なんと一人二役です。
Lee Van Cleef (1925-1989)
もはや説明不要の大御所ですね。マカロニウエスタンをマカロニウエスタンたらしめた、という意味においては
もしかしたらクリント・イーストウッド御大よりも彼こそが、そのアイコンかも知れません。
本作で演じている役柄は、まず一人目が
舞台となるジュノ・シティにおいて、絶大な信頼を勝ち得た神父ジョン
髪の毛フサフサです。当時52歳でこの貫禄!
二人目が、彼の弟。
かつてヤンチャしまくったガンマンで "Diamante lobo" の異名をとるルイス。
よく観ると、かなり繊細に演じ分けていて、さすが大物役者さん!と唸ってしまいますが、そもそもの存在感というかキャラが強いので
「有無を言わせぬリー・ヴァン・クリーフ」といった感じが画面を支配しています。スターの貫禄ってやつでしょうか。
彼と対決するのは、悪逆非道なギャング団のボス
サム・クレイトン
演ずるは、こちらも名優中の名優ジャック・パランス氏
Jack Palance (1919-2006)
米国生まれですが、ウクライナ系の彼は本名ボロディミール・パラニュークなのだそうです。
プロボクサーからフットボーラー、そして軍人(大戦中)。士官としての名は「ウォルター・ポランスキー」だったそうです(航空隊所属の彼が乗る爆撃機が炎上、脱出の際に負った顔の傷が、のちに悪役俳優としてブレイクする要因の一つになったという定説があります)。
俳優として大成した彼は、2度のアカデミー賞ノミネーターであり、ハリウッド西部劇~マカロニウエスタン、80年代以降も再ブレイクして「ヤングガン」「バットマン」はじめ多くの映画で世界中の人々を魅了してくれました。
ちなみに "The Vandals" というパンクバンドの代表曲のひとつ "And now we dance" の2回目のサビのラストの歌詞に
"Come on and do pushups just like Jack Palance" と歌われています^^
「さあ、ジャック・パランスみたいに腕立て伏せをやってくれよ」
この二人、名高いハリウッド西部劇の名作「真昼の決闘」と「シェーン」のヴィランです。
Lee van Cleef in "High noon" (1952)
Jack Palance in "Shane" (1953)
なんとも豪華な饗宴。
この二人がマカロニウエスタンで対峙する、なんて
言ってみれば川合伸旺さんと、今井健二さんが
イタリアのサムライ・ムービーでチャンバラする、みたいな感じでしょうか。
さらにもう一人、日本では馴染みが薄いのですが
1940年代から舞台、映画、TVにと大活躍した大御所リチャード・ブーン氏も保安官役で出演されています。
Richard Boone (1917-1981)
"Have gun - will travel" というシリーズで人気を博した往年の大スターなのだそうです
しかしながら、本作ではちょっと不甲斐ない保安官役だったため、ご本人はお気に入りでないとのこと…
他にもスターが出演なさっております。
ヒロイン的な役割のジェニーを演じたのは
シビル・ダニング女史
Sybil Danning (1947-)
オーストリア出身、家族を養うために10代から歯科衛生士として働きつつ、モデルのオファーを受け注目され女優デビュー、さらにハリウッドデビュー。トントン拍子で成功の会談を上り、セックスシンボル的な立ち位置でかなり活躍されたようです(本作では生真面目な役ですが)。
90年代に腰を痛めて一線を退いたようですが、2000年代になって再び映画やTVで脚光を浴びているようです。
これだけの豪華キャストの本作ですが
実は一番のスターといえるのは、主役の少年ジョニーを演じたレイフ・ギャレット氏に間違いありません!
Lief Garrett (1961-)
5歳からエンタメの世界で活躍。ティーンアイドルを経て音楽活動なども盛んに。
日本でも大人気で、日本のアイドル歌手が彼の曲をカバーしたりしたこともあったそうです。
「哀愁でいと」の元曲。
お薬関係や金銭トラブルなどいろいろ大変そうではありますが、今でもライブなどで健在ぶりを発揮しております。
なかなか素晴らしいヴォーカルですね!
これら豪華キャスト以外にも
クレイトンの手下ジーク役にはジャック・パランス氏のご子息コーディ・パランス氏
Cody Palance (1955-1998)
ちなみに「ヤングガン」(1988) でも親子共演
残念ながら志半ばにして、ご病気で世を去られたとのこと。
RIP
さらに、クライマックスで豪快にショットガンをぶっ放して悪党退治するイケイケギャルのチェスティを演じたのは
プニナ・ローゼンブラム女史ですが
Pnina Rosenblum (1954-)
このあと彼女は歌手デビューでユーロヴィジョンに挑んだり、イスラエルの国会議員になったり、現在は化粧品会社を立ち上げ大成功、美人社長として多忙な日々を送っておられるそうです。
見所満載の映画本編ですが
それを彩る音楽がまた素晴らしい。
音楽担当はサンテ・マリア・ロミテッリ氏
Sante Maria Romitelli (1921-2004)
幼少期から音楽に触れ、ピアノと作曲を学んだのち映画実験センターで映画監督の勉強もしたとのこと。
その後ポップスやクラシック、映画音楽の分野で大活躍されました。
ポップスでは数々のヒット曲を産み、映画音楽では「虹に立つガンマン」や "Noi non siamo angeli"、「イエティ」などで才能を発揮しております。
本作のサントラは、70年代らしいグルーヴィなバックを従えつつ、メロディックで叙情的なモチーフを色とりどりに歌い上げますが
時折アクセントとして口笛やオカリナ(リコーダ?)、その他「マカロニウエスタンには馴染みのあるサウンド」が顔を出します。
明らかにエンニオ・モリコーネ師やブルーノ・ニコライ氏、ルイス・バカロフ氏といった往年の大作曲家たちの遺産を継承しています、と言わんばかりに。
「荒野の用心棒」以来、紆余曲折を経たマカロニウエスタンですが、本編の正統派ストーリーと併せ
王道ここにあり、と高らかに宣言しているかのようですね。
カバーしてみました "God's gun" のサントラ。
譜面は勿論、例によって音源化もされていませんので本編からの耳コピゆえ、不正確な部分もあるかと思いますが…
お楽しみいただければ幸いです。
さて "God's gun / Diamante lobo"
本作はいわゆる「マカロニ晩期」の作品であり
往事の名作と比べてさまざまな苦言を呈する向きもあるようですが
稀代の名優二人の丁々発止と、練られたストーリーが生み出す緊張感、80年代の映画に繋がる柔らかい映像、ロック/ソウル時代の本格的到来に応じてモダンにアレンジされたマカトラ等々、実に見所たっぷりではありませんか!
音楽でも映画でも、あるジャンルやトレンドに関して
「○○○は死んだ」などという表現を時折見かけますが
作り手による部分もあれば、受け手による部分もあると思います。
作品は時代に応じて変化すべきところ
頑固に「古き良きアレしか認めない!」という態度では
当然新陳代謝は望めず、死に体になっていきますよね。
再生するためには破壊も必要、というのはある意味真理かと思います。
やがてマカロニウエスタンも時代劇も、華麗なる復活を遂げて欲しいと願ってはおりますが
現状ではなかなか難しいですね…
(ウエスタンの方が遙かに可能性は高いですが)
アディオス、アミーゴ!
(^-^)