木枕との出会い

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3ヶ月ほど前に突然、「木枕の生産を終了することになりました」と、業者から連絡があった。

 

どうやら職人が高齢で引退せざるを得なくなったのと、後継者がいないのがその理由らしい。何となく予見していたが、木枕は少なからず頸椎疾患の救いとなっていたから、まことに残念である。

 

私が初めて木枕に出会ったのは、今から15年ほど前の冬だ。木枕の存在はそれよりも前に門脇尚平先生の著書で知っていたのだが、実際に現物を見たのは、下北沢にある門脇先生の御自宅へ伺った時だった。

 

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その時持参した氏の著書の裏表紙に一筆書いていただいたのが上の画像だ。文字はその時の世相や、書いた人のおおよその性格、その時の精神状態などを何となく想像させる。ゆえに、こうやって今は亡き人が残した文字を改めて眺めてみるのも、中々興味深いものがある。

 

門脇先生に西式健康法を勧められた当初は、モノは試しと素直に硬枕(木枕)と平牀(へいしょう)を組み合わせた寝具で寝ていた。しかし数か月続けてみても、体中が痛くなるばかりで効果を実感できなかった。

 

それから10年以上が経ち、木枕の存在などスッカリ忘れてしまっていた。しかし、ある時、木枕は就寝時でなく、頸椎の矯正器具として毎日数分、覚醒時に使ったらどうだろうか、と思いついた。実際にそうやって使ってみると、思いのほか首の調子が良くなることを発見した。その後、難治な慢性頭痛がある患者に木枕の使用を勧めたところ、著しく好転することがわかったので、当院でも仕入れて販売するようになった。

 

頸椎は首の筋肉の緊張が長く続くと、筋肉の張力によって徐々に後方へ移動するようになっている。最近はストレートネックという言葉が一般的になりつつあるけれども、あれは首の筋肉の慢性的な過緊張が原因だ。頸椎周辺の筋肉はすべて骨に付着しており、筋肉が収縮する度に張力が発生し、頸椎に圧力がかかる仕組みになっている。

 

ある程度の圧力は筋肉自体のクッション性能と椎間板によって分散されるようになっているが、筋肉自体が慢性的に硬くなっていたり、加齢で椎間板の水分量が減ってくると、その負荷は直接頸椎へかかりやすくなる。それゆえ、筋肉の慢性的な凝りを長期間にわたって放置しておくと、椎間板の核が突出するヘルニアという状態になったり、頸椎自体が後方へオフセットするようになってしまう。

 

そういう状態の時でも木枕を首に当てると、枕のカーブによって頸椎が前に押されるため、首の状態がリセットされやすくなるようだ。木という素材による若干のマッサージ効果もあるのだろうと思う。実際に寝違えた時や、首の凝りから始まる軽い頭痛があった時なども、仰向けになって木枕を数分首に当てておくと、スッと治ってしまうことが多い。

 

しかし、これはあくまで症状が軽度である場合においてである。頸椎周辺の筋肉の凝りが過剰で中々木枕を当てても効果がみられない場合は、事前に3~6回ほど首に針を打って筋肉をゆるめ、頸椎の可動域を拡げておく必要がある。筋肉が硬化したままで木枕を使用しても、症状はあまり変化しにくい。

 

木枕の効果は、腰痛解消で有名になったマッケンジー体操の原理と似ている。腰椎も基本は前弯であるから、腰に当てるための適切な枕があれば、腰痛も改善しやすくなるかもしれない。

 

当院では、木枕を使って眠ることは推奨していない。何故なら、長時間圧迫すると、筋肉や毛細血管に微細な炎症や虚血状態を引き起こし、筋肉の硬化を促す可能性があるからだ。また木枕は頸椎の前弯矯正を促すものであり、無意識に寝返りを打った時など、首に側方からの圧力がかかることは危険であるから避けなければならない。

 

そもそも、木枕を首に当てていたら寝返りを打ちにくくなるが、寝返りというものは本来動物に予めプログラミングされている不随意的かつ生理的な修正運動、放熱運動であると推察されるから、寝具は快適に寝返りが打てるようなものが最上である、と私は考えている。

 

だから、木枕を首に当てて寝ることは頸椎の筋肉、ひいては全身の筋肉の休息を阻害する可能性があるため、当院では就寝時の木枕利用は禁止とし、覚醒時に1日数回、数分の利用を推奨している。