19歳の息子の彼女
写真を見たら地球外生命体のようだった
50を過ぎた母には衝撃だ
喫煙者の彼女に合わせ息子は煙草を始めた
髪の色も変えた、
バイトも温水プールの監視員から居酒屋になった。
でも、息子の恋愛に口を挟む親にはなりたくない!
だけどね・・伝えたい事はあるのさ!
なので、いつか息子の目に留まるのを信じて
息子宛に短編小説を書いて某サイトにupしました。
***OL雪中梅子の苦***
雪中梅子22歳、関東近郊の大学の経済学部を卒業して、私は今の会社に就職した。
本当は美容関係の商品開発に携わりたかったのに、結局私を採用してくれたのは、地元のトラック製造会社の一般事務だった。
両親は私がUターン就職して大喜びだ。
『お電話ありがとうございます。安全車体工業、雪中が承ります。』
『おや、可愛い声の事務員さんだね新入社員?俺は海猫運送の後藤だ、よろしくな。』
『はい。海猫運送の後藤様ですね、よろしくお願い致します。』
トラックの製造会社だけあって、電話をしてくるのは威勢のいいおじさん達だ。
若いトラックドライバーのお兄さんは、この時間走り回っているのだろう。
修理依頼や新車の購入相談は各運送会社の役職連中と相場が決まっている。
『雪中さんは下の名前は何ていうのかい?』
キタ!キタ!キタ! 私が一番言いたくない瞬間が来た!
『わ、私の名前は雪中梅子と申します。』
『へぇー古風な名前だね。梅子ちゃんか・・・今じゃ珍しいよね・・・。』
『え、ええ。そ、そうですね。』
「古風な名前だね」なんて100万回言われてるし!
「今じゃ珍しい名前だね」も100万回聞かされてる!
『だ・か・らぁ~ 梅子って名前が大嫌いなのよぉ~』
『もお~、あんた飲み過ぎよ~。ほら、もう帰りなさいって!』
『ゴリ恵ママ冷たくしないでよ~』
オカマBARその名も「ゴリ恵」は大柄な体格でムキムキな筋肉と有り余るほどの母性本能の持ち主のゴリ恵ママが名物の店で、梅子は嫌な事や寂しい時には店に顔だして酒を飲み、くだを巻いてはゴリ恵ママに優しく介抱されるのが常であった。
『梅子ちゃん、今夜はあたしの大事なお客様が来るのよ。だからヘルプで来てもらった彼にお相手させてもらうわ~。右京さ~ん、ちょっと来てぇ~。』
ゴリ恵が両手をパンパンと叩いて合図を送ると、奥から何とも端正な顔立ちの男性が現われた。
『お呼びですがゴリ恵ママ。』
『ねぇ、右京さん。梅子ちゃん今日仕事で何か有ったみたいなの。話し聞いてあげて~。』
『はい。承知しました。』
彼の名は右京伸一郎31歳。
ゴリ恵ママの出身店である赤坂の店から今夜だけ呼ばれたヘルプだった。
物腰の柔らかい所作に爽やかな笑顔と落ち着いた大人の男の色気漂う人物だ。
『梅子さん、なぜ今夜はそんなに荒れてるのです?よかったら僕に訳を話してもらえませんか?』
『ゆ・・雪中・・う・・・うめ・・・梅子って名前が嫌いなの!だって、だって、おばあさんみたいじゃないっ!』
梅子はそう言ってテーブルに突っ伏した。
梅子は幼い頃からこの名前には苦労させられている。
この時代に梅子なんて、ほとんどキラキラネームと同等の扱いを周囲から受けるのだから。
おまけに桜子という名前の同級生が近所に住んでいたのも、梅子の人格形成に暗い影をおとした。
桜子。
なんて可愛い名前なのだろうか。
その名を聞いただけでピンク色や春を連想させる名前。
それに桜子は生まれつき少し茶色がかったストレートな髪質の瞳の大きな可愛い女の子で、逆に梅子は肌が白いだけで、癖の強い真っ黒な髪で、お世辞にも高くない鼻と一重の目に、太い部類に入る眉毛を蓄えた小太りな少女だった。
小学生の頃は桜子は「桜ちゃん」と呼ばれ、私は「梅ばぁー」とあだ名をつけられた。
由縁はもちろん“ばばあ”のような名前だからである。
そんな思い出が今夜は脳裏に一気に去来してきて、梅子は泣かずにはいられなかった。
とうとう泣き始めた梅子の隣に座りなおした伸一郎は、梅子の肩を抱きポンポンと優しく叩いた。
そして諭すように、あやすように、鎮めるように語りだした。
『雪中梅子さん・・・。なって素晴らしいお名前なんだろうと僕は思いました。』
『はぁ?ウソよ!適当なこと言わないで!』
梅子は伏せていた顔を上げて右京を睨みつけた。
しかし伸一郎は動じる事なく、軽く微笑みながら続けるのだった。
『僕の苗字からして、わかるかもしれませんが、僕は京都の出身です。実家は江戸時代から手広く茶屋をしていた家で、今は兄夫婦がわらび餅を名物にした数店舗の甘味処を営んでいます。僕は古いプライドを持っている親や親戚が大嫌いで実家を飛び出したんです。だからいかにも京都らしい右京という苗字も大嫌いでした。』
梅子は京都出身だという伸一郎の話に次第に引き込まれていった。
静かに柔らかく、よく通る声で梅子の目を見て話す伸一郎の仕草には、品のようなものを感じられて、なるほど彼のルーツは京都なのかと腑に落ちるようだった。
『右京が苗字なんてカッコいいじゃない!TVドラマの相棒の主人公も確か右京だったわよね。』
『僕には右京より雪中梅子さんの名前の方がカッコいいですよ。』
『教えて右京さん。どうして、あなたはそう思うの?』
梅子の名を褒める右京がとてもウソを付いているようにも思えず、梅子はどうしてそう思うのかを尋ねた。
すると、彼の口から語られた言葉は今後の人生を左右する程の衝撃を梅子にもたらした。
『だって西郷隆盛が詠んだ漢詩の一部の、そのままのお名前ですから。』
そう言って伸一郎はガラスのテーブルの上に置いた紙ナプキンに“耐雪梅花麗”の5文字を書いた。
『西郷隆盛が詠んだ、か、か、漢詩の一部?』
何の事かと梅子は首を傾げた。
漢詩とか言われても梅子にはチンプンカンプンだった。
『「雪に耐えて梅花麗し」(ゆきにたえてばいかうるわし)と読むんですよと、薄く笑いながら右京は梅子の手をとった。』
『それって・・・ど・・・どんな意味なんですか。』
梅子は夢うつつのように少し小声で右京を見ながら再び尋ねた。
『「梅の花は寒い冬を耐え忍び春に一番麗しく咲く」という意味です。』
『でも春に一番キレイに咲くのは桜でしょ。他にもチューリップとかタンポポとか、梅よりキレイな花はいっぱいあるわ。』
『遥か昔の日本や中国では“花”と言ったら“白梅”の事を指すんです。万葉集では桜の3倍の数の梅を詠んだ歌がありますよ。確かに現代では春の代表花は桜かもしれませんが、IQの高い人なら梅を選ぶかもしれませんね。』
『そ、そうなんだ、私、知らなかったわ。』
『雪中梅子・・・僕には一度咲き出した梅の花に雪が積もる情景を4文字で表したお名前に思えてなりません。まさに「雪中の梅」ですよ梅子さん。本当に素晴らしい。こんな素晴らしいお名前の女性に僕は初めて出会いました。』
『そんな・・。あ、ありがとう・・ございます。』
帰宅すると梅子は、早速母になぜこの名前にしたのかを、改めて尋ねた。
子供の頃は梅子と名前を付けた両親を恨んで、どうして梅子なんだと食って掛かり、よくケンカしたものだった。
しかしそんな時の母はいつも『いつか雪中梅子の良さを分かってくれる人に出会うわよ』と言っていた。
『まぁ、名前の由来なんて、今更どうしたの?』
『現れたのよ!雪中梅子の良さが分かる男性が!』
『え“- 本当に!』
『しかも、今度の日曜日にデートする約束もしたの!』
いったい何があったんだと父と愛犬ゴローが驚く中、運命の相手に出会えたと、母と娘は抱き合って喜んた。
運命の相手に出会えたと感じているのは梅子だけではない。
実は翌日に始発の新幹線に乗り帰省した伸一郎は、実家より先に98歳の祖母の居る介護施設を訪れた。
『お婆さま、お久しぶりです。僕がわかりますか、孫の伸一郎です。』
『あらあら義三郎さん。こんにちは。』
伸一郎の祖母“はる”は痴ほう症を患い、今では太平洋戦争で亡くなした夫の義三郎と面影が似ている伸一郎との区別が付かなくなっている。
今から82年前の太平洋戦争が開戦した年に二人は祝言を上げた。
義三郎18歳 “はる”は16歳だった。
忙しい両親に代わり自分を育ててくれたのは祖母の“はる”であった。
伸一郎は“はる”が大好きで、優しく賢く芯の通った女性として尊敬もしていた。
だから、その“はる”にある報告をしに来たのだ。
しかし、今の祖母に言っても理解してくれるだろうか。
伸一郎は一抹の不安を持って“はる”にうち明けた。
『お婆さま、雪中の梅の女性に出会いました。僕は運命の人と出会えたのです。』
すると、それを聞いた“はる”の瞳に活気が宿り、背筋もピンと伸びてイキイキとした以前の姿に戻った。
『伸一郎!それは本当かい!雪中の梅の女性が居たのかい!』
幼き頃、伸一郎は祖母の“はる”から繰り返し聞かされていた事がある。
『伸ちゃん、お嫁さんはね、梅のような女性を選ぶのよ。』
『お婆さま、どうして梅なの?桜じゃダメなの?他の花じゃダメ?』
『桜じゃダメ。きれいに着飾って一瞬に生きる人じゃダメなのよ。』
その時の季節は春浅い2月だった。
お婆さまと縁側に居た僕に、寒さのなかで、いち早く咲いて雪をかぶっている庭の白梅を指さして、お婆さまは言ったのだ。
『寒さを静かに耐えて、雪の中で咲く梅の春をつげる小さな温かさに、どれほどの人が救われるかしれないわ。わずかな気温のゆるみを感じて一早く咲く梅のような、日常の小さな幸せを、すくい取れる女性を選ぶのよ。そして人生には必ず訪れる苦しみの時を二人で耐え貫いて幸せを掴むんだよ。』
伸一郎は喜ぶ祖母の顔が何より嬉しくて、次は梅子を連れてこようと決心していた。
古い考えが性に合わず京都を飛び出した伸一郎だったが、梅子とならこの古い都で生活してみたくもなっていた。
『もし、もし、梅子さん。日曜日のデートは京都にしませんか。』
電話の向こうで喜んでいる梅子の声を聞きながら、伸一郎は実家の暖簾をくぐった。
-完-