入院生活も一ヶ月に近づく頃、僕の体はだいぶ良くなってきた。
でも決して薬や治療が効いたわけではなく、偶然に良くなったにすぎない。
その頃、研修医が現れ、
「一応、今回の処置で出来る限りの事はしましたが、結果は以前と変わりません。」
「これ以上の治療を望むのなら最低3ヵ月以上の入院が必要となってきますが、その治療をしてもよくなるという確信はありません。後の判断は夏樹さんご自身でお決めになってください。」
(ふざけるな!)
まず一番最初に思ったことは、その言葉だった。
この1ヵ月近く何の治療をした!
治療という治療は何一つされていない。
これから何をする為に、確信のない時間をここで過ごさなければならないのか。
入院中、これからの事をずっと考えていた。
生きていくためにも、生活をする為にも仕事をしるしかない。
カーテンで締め切られたこの空間では、完全に時間が止まってしまっている。
その中で、「治るかどうかわかりません」というような事に時間を費やしている暇はない。
時間と信頼はこの世の中で、取り戻せない一番大事なものだと感じていたからだ。
そして、もう一つわかった事がある。
体が動かなくなって病院に来たところで、何の処置も出来ない状態に病気が進行していた事。
(これから先は、自分で治療方法をさがすしかない!)
(どれ位の時間がかかるのかわからない。なるべく無駄な時間とお金は使わないようにしないと。。。)
考える事もないまま、退院の手続きをとってもらった。
退院する際に、僕の支えになっていた杖がランクアップした。
今までは普通のステッキみたいなものだったが、それだけではもう支えられなくなっていた。
今度は、腕を固定しながら杖を支えるものに変わった。
進行性の病気のお陰で、今回の退院した後も入院する前よりも歩行困難になり、それと同時にできる事も少なくなっていった。
入院して退院する度に、症状が悪くなっていくってこともあるんだなという事がわかっただけでも、一つ気が付いた大事な事だった。
通常に通勤したりする事は不可能な今の状態のこの体で出来ること。。。
どうなるかはわからないが、やってみないことには話しにはならない。
幾つかの考えはあった。
その為に、マニュアル人間は嫌いだが、それさえもできない研修医と無責任で自分の立場しか考えていない担当医に、大切な時間と今迄築き上げてきた信頼を奪われる訳にはいかない。
医師は、「今の状態で歩けること自体が不思議だ。」と言うが、
「人事の様に、自分の経験だけで物事を決めるな!」
「やる気になれば不可能も可能になることもある!」
と心の中で文句を言いながら、迎えに来てくれたOJと共に家路に向った。
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