翌日、目が覚めた。

まだ病院での時間帯が抜けないので、この時期ではまだ窓の外は薄暗い。
瞬間、今自分が何処にいるのか? 何が起こっているのかわからなくなって恐怖と不安が全身を包み込んだ。
もう一度目を閉じ、ゆっくりと落ち着いて目を開けた。

僕の部屋だ!

そう確認できたとたんに今度は、安堵感に包まれた。
そう。

この日から、目を覚ますたびに恐怖と安堵感の繰り返しが始まった。

時間を見ようと思って時計に手をやろうとしたが、思うように腕が動かない。


確かに僕の部屋の中で僕は存在しているのだが、何かが違う。

まるで、心だけが本当の自分で誰かの身体を借りて、僕の部屋に似たような所にいるような気分だった。

しばらく、じっとしていた。
そろそろ動き出そうと思って、ベッドから立とうと思った瞬間!

僕は、崩れ倒れた。

甘かった!
自分の部屋に帰ってきたという安堵感から、今の自分の状態を把握できていなかったのだ。
杖を取り、ユニットバスまで行こうとしても、今までとは全然違う感覚だった。

部屋の段差がこんなにあったのかと驚いた。
歯を磨くのも顔を洗うのも、ここには車椅子はない。


しかも、片手に杖を持ちながらだと、いろんな事はできない。

バスタブに腰をかけて、朝の用事を済まさなければならなかった。

たった数時間で、この何ヶ月間の間に変化した体に行動と思考がともわっていないことに気付かされた。
そして、改めて事の重大さに気付かされる事になった。


この部屋には誰もいない。看護士さんも長谷部さんもSさんも。。。

これからは、全て自分でやらなければならないんだ!

昨日、窓を開けられなかった事を思い出した。

今まで、あたりまえの様に送ってきた事が出来なくなって、まったくの未知数の生活がこれから始まる。

(ゆみえの言っていた事はこういうことだったのか!)

いくら考えても答えのでない問題だった。

テレビが見られる姿勢を作る事も、パソコンを打つ事も、何から何まで全ての事を一から考え直さないといけない。

今まで気付かなかった事をこれから体験して、こなして行かなくてはならないのだから。。。

お昼にコンピューター会社に電話をいれた。
退院してきた事を告げ、現在の状況の確認をした。


「本当に迷惑をかけて、申し訳なかったね。」

僕のいない間に、頑張って働いてくれた人達には感謝の念しかなかった。
もう一人のパートナーとは、後日ゆっくりと話すことにした。

そして、弟の所にも電話を入れた。


「後で行くから。」

父が入院している間の段取りや僕が入院している間の状況を話し合うためだった。

「これから僕に何が出来る。。。」


僕にとっての第二章は、ここから始まった。


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