「何をおいても、とにかく安全運転で」
「・・・うん、でも、ちょっと怖い」
「そうだろうね」
雅治はそう言う
細かく深く掘ることも
過保護に庇う素振りもしない
「僕が逢いたいから出てきて」でもなく
「sanaは僕に逢いたいだろうから出てくる」という自惚れでもなく
「やっぱり行けない」と言えば
私の、次の時を待つだろう
私がしたいことを後押ししても
私に無理をさせるとわかることは言わない
私を、雅治は信じてくれる
保険でかたがついたとはいえ、前後の記憶がないほどの居眠り運転事故。ケガもなく、車も大破というほどのことでもなかったけれど、じわじわと心に来たダメージは随分なもので
修理して返ってきた車に乗っていても、ふとした瞬間、例えば高速に似たバイパスを走る時などには肩に力が入る。
職場に行くには、まさにバイパスを使い運転する
事故した高速と、景色が似ている
眠たくないのに、眠ってしまったらどうしようなんて考えたり、運転しながら夢を見ているような気分になったり、車の中で流れる音楽の歌詞を聞き取れなかったり
目を凝らしているのに、隣を走る車が車線変更してくるのにドキッとする回数が増えた
後ろを振り向くと
左右ミラーに映る絵と振り返って目に入る景色は同じことに頭がついていかない。
距離がつかみにくく、車間距離がやたら開く
この、一連の流れは
いっちょ前にPTSDみたいなもん
と解釈はしつつも
この怖さは初めての感覚で
逢うには
また同じ道を運転して逢いに行くということ
想像に恐怖が絡む
反面
PTSDとか、社会不安障害的なものとか、はたまた、自分の特性であるHSP特有の感受性の鋭さが、頭の中であの状況をとにかくクルクルとリアルに再現しさらに、もっとハードな状況を想像させている
ということも
わかっていて
服用を勧められた西洋薬は、アラフィフの身体には副作用のみが感じられ、日常に倦怠感を与えた。
3月、逢うまでになんとか
そんな急いた気持ちよりも
もう少し、心に波風が立たないように過ごしたい
逢えないかもしれないけど
その時は、逢わないほうが、多分いい時
何もかもにハリのない自分に、ただため息が出る
医師と話をしながら試した薬にはいくつかのバツ印がつき、3週間ほどかけて落ち着いたのは、漢方薬と効き目の短い睡眠薬
日中に眠くならず
比較的しっかり寝られる
自信がついた、まではいかないけど
逢いに行こう、と思えるようになっていた
事故をした高速をあの時と同じシチュエーションでひとりで走る
私は、私の身体で試してみたいことがあった
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