ベッドの中で言ったことがある。
「ごめんなさい。つき合わせてしまって」と。
「本来であればこんなことをする人じゃないのに。引きずり込んでしまった。ちゃんとしたきちんとした人を私が・・・」
雅治は斬るように遮った
「違う。僕はちゃんとしてもないし、きちんとした人間でもない」
「でも・・・」
「僕はsanaが思うような立派な人間じゃない。僕はちっともきちんとなんかしてない」
少し早口で雅治は2度言い、それ以上は聞きたくないよという気配で視線を外し天井を見つめた。
学生時代に始めたカウンセリング技法。「そのままの相手を、そのまま聞く」を学んでいた時のこと。私には敬愛し師と仰ぐ女性がいた。
「相手のそのままを受けとめ聞くのは難しいわね」
私を聞いてくれる時の彼女の佇まいが大好きで。憧れて、物腰も、物言いも、だから
「sanaちゃん。でもね、そんなに私を褒めないで。褒めてくれるのは嬉しいけれど、私はあなたが思うほど素晴らしくも立派でもないから申し訳なくて。なんだか辛くなってしまうわ」
そう、柔和な笑みを浮かべて言われた。
褒められて辛くなる。それは衝撃で。
私の賛辞はこの美しいひとを困惑させた、私はそれに戸惑ったものの、その言葉の真意を理解するとまではいかなくて。
雅治の横顔を見ながらそんなことを思い出した。
あの時のように、私はこの人にもそんな居辛さを与えていたのだろうかと
「僕はちっとも、きちんとなんかしてない」
きちんとなんかしてない。
もう少し教えて、そのずれた中身を。
私はどう振舞えばいい?私は、あなたの傍らでどうあるのが正しいの。
きちんとしてようがしていまいが、もう他の人ではダメで。雅治じゃなきゃ、があるだけなのに。
たったそれだけなのに。
どうして私はそれが隠れるような言葉を重ねたがるのだろう。
私は何を求めている?どうあって欲しい?
雅治の胸をこじ開け、血を吹く身体に腕を突っ込み片っ端から臓器を引っぺがして、全てに私の名があったとしたら。私は愛されている、落ち着くとでも言うのだろうか。
思考は一瞬、まるで阿部定かのような猟奇的な疼きを与えた。そんな熱を帯びたまま、寡黙に横たわる瞳を見つめようと少し動くと、腕はさらに蔦のように強く巻きついてくる。
溶けていきそうな安堵、ほかでは得られない。
思わずその圧に目を閉じた。
言葉で突き詰め世の善悪にならうことが、
僕たちの今にとってそんなに大事なことかな?
雅治は私が傍らに居ることを当たり前に、まるで昨日もそうだったかのようにうつらうつらする。
半年空こうが1年経とうが私の存在は特別ではない。そんな雅治の放つ静けさが私をなだめる。
盲目のまま暴走する虎のような私を、気配で落ち着かせていく。
考えて出る答えが全ての答えではないだろう。全てが理性やルールでなるわけじゃない
関係に答えを出したがる女と
関係に答えを求めない男
婚外恋愛をする男と女のちがいは、私が思うにたぶんそんなところだ