2010-06-13 12:10:09

銀魂夢小説 気づかぬ想い   

テーマ:夢小説 篠原

監察の仕事は、時に己の手を汚すこともある。


それは男でも心に影を落とすほどで、ここへ女が配属されると聞いたときには心底驚いた。


同僚の山崎は呑気に喜んでいるが、俺はこの仕事を局長に見下された気持ちがぬぐえない。


挨拶に現れた彼女を見て、さらにその思いは強くなった。


ほっそりした身体。華奢な指先で頬にかかった髪をはらいながら、不安げに頭を下げた彼女。





「あれじゃ、一週間もたないだろうな」


他の部署へ彼女が挨拶に回っている間、文机の前で頬杖ついた山崎がつぶやく。


彼の報告書は副長に作文かとつき返され、足元に散らばったままだ。


「三日といったところだろ」


眉根をよせ散らばった報告書を拾ってやれば、山崎は体を起こしこちらを見る。


「へぇ。篠原が人に興味を持つなんて、めずらしんじゃねーの?」


胸倉に突きつけてやった報告書を受け取り、垂れた目を輝かせる山崎。


「人とかかわること事態、嫌いだもんな篠原は」


山崎は意味ありげに監察の顔つきで笑った。


「ふん?」


たしかに俺は人とかかわるのが億劫としか言いようがない。


世の中馬鹿なやつらばかりが横行する。そんなやつらの相手は骨が折れるだけだ。


それはまさにうちの局長がいい例。


お人よしが取り得だけの男が、松平公にひろわれた運で、長だという事自体信じられない。


「もっとふさわしい方は、他にいる」


「何か言ったか?」


山崎の問いかけに聞こえない振りをし、部屋を出て障子を後ろ手に閉めた。


あまり彼の前で感情を見せるのは、得策でないと思ったからだ。


「ん?」


芳しい香りにふと視線を向ければ、中庭の白梅がほころんでいる。


もうそんな時期か。


そう思いながらその儚げな純白に、先ほど見た透き通る肌の彼女を思い浮べた。


この梅が散るより先に彼女が姿を消すだろう。


「やはり三日だな」


そうつぶやき、歩みを進めた。


     *


「失礼します」


「ああ、篠原君。君か」


奥まった場所にある一室をたずねれば、黒檀の文机に凛とした姿勢でむかう先生が、視線のみをよこしてくる。


「頼まれていた資料です」


「君は相変わらず仕事が速い」


「ご指導の賜物です」


顔を上げ冷たい印象さえ受ける先生の、端正な顔立ちをチラと盗み見た。


渡した書類に眼を通す先生が、眼鏡を押上げながら数度うなずくだけで、褒められた子供のように胸が高鳴った。


学者並と言われる知識に、北斗一刀流免許皆伝の腕前。


政治の手腕を誰もが認め、参謀に登りつめた伊東先生。


この先生こそ、俺の上に立つ人。そして真選組の局長にふさわしい人だと心底思う。


「篠原君」


「は、はい」


怜悧な濃い緑の瞳をよこされる。湿った声音に重要な用件を感じ、とっさに体が緊張した。


「今夜僕は“屋形船”に乗る。護衛を頼めるかな?」


コクリとツバを飲み込む。


「はい」


先生は表情をかえず、また文机へと向きをなおした。


「よろしい下がりなさい。追って連絡する」


黙礼したまま外廊下へとでて障子を閉めても、まだしばらく頭をさげたままでいた。


いよいよことが動き出すのだと、興奮に似た感情がわいてくる。


先生はこのような組織で満足される方ではないのだ。


もっと高みにのぼりつめることが出来る人だ。


その手伝いを自分ができる喜びに体がふるえ、グッと両の手のひらを握りあわせた。


「あの」


屯所に似つかわしくない、涼やかな声が背後からかけられた。


とっさに刀の鯉口を切って構えれば、そこには先ほどの彼女が立っている。


「す、すいません。驚かせてしまって」


「……いや」


冷たい汗を背に感じ、息を吐き出した。


「何か用かな」


あわてる彼女に悪意はなかったのだろうが、わざと突き放すように聞いた。


「仕事でわからないことがあれば、篠原さんに聞くようにと、山崎さんが」


あのタレ目。俺に押し付けやがったなと歯軋りをし、目の前の彼女をいちべつする。


「監察の仕事は聞いてどうこうするものではないよ。自分で考えるんだね」


戸惑う彼女を残し背を向けた。


「篠原さん、待ってください。私は若輩ですが努力します、ご指導お願いいたします!」


まだ食い下がってる彼女に少し驚いた。振り向けば真っ直ぐな眼でこちらを見ている。


「どうしたんだい」


すらりと障子が開けられ、眉間にしわを寄せた先生が姿を見せた。


「お騒がせしてすみません。このたび監察へ配属されました」


柔らかな物腰であいさつをする彼女を見て、先生がこちらを黙って伺う。


以前先生が攘夷浪士との連絡役に、警戒されにくい女性がひとりほしいと言っていたことを思い出した。


もう一度彼女を眺める。芯の強そうな瞳をして入るが、所詮は女だ。


猛者どもが集まるここに、長く居つけはしないだろう。


それにこちら側に引き込んだところで、彼女が到底役に立つようには思えなかった。


失敗して足を引っ張られるのはゴメンだ。


「……失礼します」


先生に頭を下げ彼女の手首をつかんで廊下奥へとつれていき、戸惑う彼女を板戸へと押し付けた。


ガタガタと激しい音があたりに響く。


「し、篠原さん?」


「先生は君が、直接口をきいていい人じゃない」


吐き出すように言えば、彼女の顔が陰る。


「す、すみません。気をつけま……」


「その必要はない、君は目障りだ。今日にでも出て行くんだね」


彼女は表情をこわばらせ、返事さえ出来ないようだった。


これで決まりだ。明日には姿がないだろう。


一週間彼女がもつかどうか、山崎と賭けておけばよかったなと、俺は口端をあげる。


けれど……結局白梅が散ろうと、彼女は真選組を去ることはなかった。



    *



“君も僕を理解し得ないか。篠原君。”


いくら才能を持ち合わせていようと、いくら努力していようと、それを理解されないと先生は言う。


“あの男だけが僕を知っている。土方こそ僕の最大の理解者だ……”


いいえ、先生。俺はあなたを理解しています。


あなたが何を求め、何を欲しているのか一番理解しているのは俺です。


だから最初から分かっていました。


あなたが彼女を連絡役などに、ほしかったわけではないという事を。


だからあなたが彼女を手に入れた後も、この計画に加えなかったことを俺は理解しています。


あなたは彼女を巻き込みたくなかった。


あなたは彼女を傷つけたくなかったのだと、俺はちゃんと理解しているんですよ。



   *


「うっ……」


呻く自分の声に気がつき、目を瞬かせた。


その瞬間燃えるように腹部が熱を持ち、息をするのも苦しい程。


「篠原さん! 気がつれましたか!」


やわらかくてふくよかな感触。土埃に汚れながらも、輝きを失わない白い肌。


その時になってようやく自分が、彼女に抱きかかえられていることに気がついた。


彼女の黒い隊服はところどころが裂け、血がこびりついていたが俺を心配そうに覗き込んでいる。


「ここは?」


意識を取り戻したものの、状況がつかめず辺りを見回した。


「列車の中です。今にも奈落に落ちていきそうな」


「……そうか局長暗殺は……」


意識を失うまえのおぼろげな記憶がよみがえってくる。


手を結んでいた攘夷浪士どもが裏切り、先生を亡き者にしようと鉄橋が爆破された。


激しい衝撃に谷底へ落ちていく仲間たち。よく自分が助かったものだと、かえって驚く。


けれど自分もいつその立場になるか分からない。


列車の車両は中ほどから千切れ、座席の隅に身を縮めた俺たちの足元には、谷底の闇が口を開け待ち構えていた。


車両は宙にぶら下がり、ギシギシときしむ音をたてている。


「先生は?」


「分かりません。でもきっとご無事です」


そう言いつつも、彼女はきつく唇を噛む。


「君はやはり監察にむいていない。希望的観測で判断するのは問題だ」


「すいません」


「早く……、君は上から脱出しろ。ここはもたない」


意識を失っていた俺が落ちてしまわないように、力を込めていた腕を彼女がゆるめる。


「篠原さんはお怪我をされています。私が背負いますから!」


伸ばしてくる彼女の手を払いのけ、相変わらず悠長な性格だなと鼻を鳴らした。


「腹をやられた。俺はここまでだ」


「そんな、一緒に!」


こんなに血が流れ助かるわけがない。希望的観測で物事を判断するなと、何度言えば分かる。


「君は生きろ」


浅い呼吸を繰り返しながら彼女をみつめ、乾いた唇から声を振り絞る。


「篠原さん?」


「先生はかならずご無事だ。君が助からなければ、先生が悲しむ」


「し、篠原さんだって助からなければ、先生が悲しまれます」


不安そうな彼女の頭に手をやって撫でてやる。まるで子供をあやすように。


それは先生が彼女へとする仕草。


いつも表情の少ない先生が、そのときだけは柔らかな笑みを浮かべていた。


「これは希望的観測じゃない。どのような戦略でも退路を確保される先生だからこその確信だ」


彼女は何か言いかけだけれど、グッと言葉を飲み込み微笑んだ。


「……篠原さん、初めて笑ってみせてくれましたね」


俺が?


「そんなふうに……友人と接するように、篠原さんから笑いかけてもらえたら、伊東先生も違う人生があったんじゃないでしょうか」


「先生に?」


まるで意味が分からない。


どうして自分が先生へ友人のように接しなければいけないのか。


「先生はいつもあなたの期待にこたえようとしていた。無意識だとは思うけれど」


「……俺は笑ってなんかいない」


割れた額から流れる血が片目の視界を奪うけれど、最後の力を振り絞り、彼女の身体を上へと押上げた。


「篠原さんっ」


「ふりかえるな! いくんだっ!」



    *


どうか……。


どうか先生を悲しませないよう、生きてほしい。


その慈愛にみちたまなざしを、先生へこれからも向けてほしい。


“おまえが人に興味を持つなんて、めずらしんじゃねーの?”


山崎に言われた言葉を思い出す。


一生分かり合えなかったヤツの言葉が、キリリと胸へ痛みを走らせる。


「……そんなん……じゃぁ」


反論しようにも声が出ないし、その相手もいない。


もう幕は引かれた。


殺戮のなか生きてきた。まっとうに死ねるとは思っていない。


だからこの状況はそれほど悪くないほうだ。


霞すんでいく景色。


最後にみたものは彼女が流した涙。


きれいな雫だった。


闇の中俺はひっそり口端をあげた途端、足元が崩れおち身体が宙に舞った。





終り



【おまけ】




「どうしたんだい。篠原君、その額のケガは」


濡れ縁に腰掛けた先生に声かけられた。


「これは……」


額の包帯を押さえながら、少し言いよどむ。


「君に何か危険な任を頼んでいたかな?」


「いえ……昨夜、列車ごと谷底へ落ちる夢をみて、飛び起きた拍子にタンスの門へぶつけまして」


「タンス? いや、それは……変わった夢だね」


視線をそらした先生の肩が小刻みにふるえている。


彼女の影響でずい分と感情を見せるようになった先生が、必死に笑いをこらえている。


「もう……さがりなさぃ」


「はい」


背を向けた途端に噴出す先生。


肩越しに振り返りたかったけれど、照れ屋な先生のためにやめておく。


そんな先生も悪くないと思いつつ、俺は恥ずかしさに頬をそめその場を後にした。





ほんとに終り。



☆*゚:・.*.:。.o。.○:☆*゚・゚*☆・:゚。*::....・。゚o:○☆*゚ ゜


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爽やかな朝に交わされる会話。夢オチバージョンで、お茶を濁してみました。


ついに手を出して書いてしまった篠原君ですが楽しかったです。

篠原君、最後まで彼女を好きな、自分の気持ちに気がつかないって……に ぶ い !

神の様に慕っていた鴨への、自分の影響力にも気がついていないって……に ぶ い !

そんな彼が好きです。


いやいや、すみません。もう謝るしかないです( ̄Д ̄;;




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