涼風文庫堂の「文庫おでっせい」  13. | ryofudo777のブログ(文庫おでっせい)

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私が50年間に読んだ文庫(本)たち。
時々、音楽・映画。

<めくるめく、推理小説の世界へ>

実のところ、『ミステリー』なんて言葉を使い出したのは最近の事です。
それまでは、ずっと『推理小説』という言葉を使っていました。
 
 

26.「黄色い部屋の謎」

ガストン・ルルー
長編   宮崎嶺雄:訳   中島河太郎:解説  創元推理文庫
 

古典中の古典、名作中の名作、と謳われるフランス産の推理小説です。

今でこそルルーと言えば、『オペラ座の怪人』が代名詞となっていますが、この頃は圧倒的にこの作品の知名度の方が高かったと思います。

 

――密室犯罪と意外なる犯人に二大トリックを有する本編は――。

 

見開きにあるウラスジ(?)通り、十八歳の新聞記者

 ジョゼフ・ルールタビーユ 

がこの二つの謎に挑みます。

 

密室の方は――。

しばし指摘される、”古色蒼然たる” といった形容を否定するつもりはありません。

ですが、シンプルなだけに、そうならざるをえない理由付けさえしっかりしていれば、今でも使えるものだと思います。現に、何かの2時間ドラマで使われていたのを見た事があります。

 

意外なる犯人は――。

犯人と目される人物の過去を洗うため、ルールタビーユは旅に出ます。

 

24.ルールタビーユ、犯人の二つの面を知る

25.ルールタビーユ、旅に出る

26.ルールタビーユ、到着をひたすら待たれる

27.ルールタビーユ、栄光に包まれて現われる

 

こんなに ”章” を使いますかね。

 

それはともかく、この方法はのちの雛形となって、犯人と思しき人物が今の地位や職業に就くまで、何をやって来たのかを探る手段として探偵が旅に出る、というパターンが定着します。

『悪魔が来りて笛を吹く』なんかもそうですね。

 

で。

意外な犯人、こんにちに至っては別段、意外でも何でもない気がするでしょう。

 

ネタバレになるでしょうが、一応、仄めかしとして――。

 

○○役が二人いる場合、そのどちらかが犯人である可能性が非常に高い。

以上。

 

 

27.「Yの悲劇」

エラリー・クイーン。
長編   鮎川信夫:訳   中島河太郎:解説  創元推理文庫
 
翻訳推理小説ベストで常連第一位を誇る傑作
*ロス名義の推理小説は四篇しかないが、第二作「Yの悲劇」はその頂点というだけではなく、わが国では古今東西の最高傑作と見做されている。昭和三五年<ヒッチコック・マガジン>は日本語版での著名人投票第一位に推されて以来、昭和五〇年の<週刊読売>のアンケート調査に至るまで、その地位は揺るぎない。
「なぜこの作品が日本の読者に受けるのかよくわかりません」
<エラリー・クイーン>
新保博久『世界の推理小説総解説』より
 
*エラリー・クイーンが、ロス名義で発表した四部作中の最大傑作で、その周到な伏線と明晰な解明の論理は、読者のすべてを魅了する。
創元推理文庫「Yの悲劇」ウラスジより
 
*化学者ヨーク・ハッタ―が自殺を遂げて間もなく、奇矯な人間たちが渦巻くハッタ―家の中で、不可解な毒殺未遂事件が発生するのが発端である。これを担当するサム警視がレーンに相談をもちかけるが、その甲斐なくハッタ―未亡人がマンドリンで殴り殺され、さらに悲惨な事件があいつぐ。調査に本腰を入れたレーンは、なぜマンドリンが凶器に選ばれたのかに着目し、意外な真犯人と、その背後に潜む恐るべき真相を看破する。
長谷川史親『ミステリ・ハンドブック』より
 
 
「Yの悲劇」を語るにあたっては、まずプロの紹介文を載せたが宜しかろう、と言う事で始めました。
それから基本的な事を押さえておきます。
 
*「Xの悲劇」「Yの悲劇」「Zの悲劇」「レーン最後の事件」の四作は、エラリー・クイーンがバーナビー・ロス名義で発表したものである。
*シリーズを通しての名探偵は、ドルリー・レーン。他にニューヨーク市警のサム警部(のちに退職して私立探偵)が登場する。あと、地方検事のブルーノ、彼は「X」「Y」では地方検事だが、「Z」では知事として登場する。
*レーンは聴覚障害者で、耳が全く聴こえない。
*シェイクスピア劇の名優だったが、今は引退して、ニューヨーク市郊外の丘に建っている<ハムレット荘>という中世期風の古城に隠棲している。スマートな長身で、白髪が肩まで垂れている。六十を超す老齢。          (この*だけまた拝借) 藤原宰太郎『世界の名探偵50人」より
 
さしたるトリックはありません。すべては<伏線>です。縦横無尽に張られた伏線が、解決間近で一気にその効果の凄まじさを見せつけてくれます。
カタルシスの極み!
 
 

28.「Xの悲劇」

エラリー・クイーン
長編   鮎川信夫:訳   中島河太郎:解説  創元推理文庫

人によっては「Yの悲劇」よりも評価が高い一品です。

 

市街電車の中である株式仲買人が殺されます、凶器はポケットに入っていた小さなコルク玉で、これにニコチンの毒を塗った無数の針が刺さっていたのです。触って指にちょっとでも刺さったらアウトとなります。

この事件は解決せず、第二、第三の殺人が行われます。

 

特に第三の事件で見られた被害者のダイイング・メッセージ――。

――中指が人さし指の上に重ねられて、奇妙なかたちに堅くからみつき、親指と残りの二本の指は内側へ曲げたまま硬直していた――。

 

実際にやってみればお判りになると思います。

そう、これが ”X” です。

 

これが何を意味するのか、レーンの頭脳が答えを導き出すのです。

 

 

余談になりますが――。

この四部作にはいろいろ個人的な曰くがあって、それについては残りの2作を紹介したあとに語りたいと思います。