ある7月のこと。

そろそろ学校も夏休みにはいる。

清麿の傍ではクラスメイト達が何をして遊ぶか、この夏の予定について話している。

「なあなあ、やっぱりツチノコ探しにいくべきだと思うんだけどよ」

「そんなことよりUFO呼んだ方がいいにきまってるよ」

「いや!俺の炎の魔球の特訓が最優先だろ!」

「はぁ…ほんっと男子ってバカよね、いつもやってることと変わらないじゃない」

「フフ、でも夏休み楽しみだね」

 

普段と変わらない会話の中、ふと金山が発言した。

「そういえばよ、夏休み中、恵ちゃんの誕生日があるよな」

その発言に清麿がピクリと反応を示す。

「去年はバースデーライブとかあったよね!」

「今年もあるけど、チケットが中々あたらないんだよなあ…」

皆が恵の誕生日ライブについて話してる中、清麿はその会話には耳も傾けず考え込んだ。

(恵さんの誕生日、そろそろなのか…いつなのか、帰ったら調べてみるか)

 

 

 

「ただいまー」

「清麿ー!おかえりなのだ!」

「清麿!おかえりなさい!」

「ん?ティオ、来てたのか」

清麿が帰宅すると、ガッシュとティオが玄関先まで迎えに来た。

「うん!恵がね!ちょっと忙しいからーって!仕方なくガッシュのところに遊びに来てやったのよ!」

えっへんと胸を張り、素直じゃない発言をするティオに苦笑いを浮かべた清麿は、ふと思いつき。

「そうだ、ティオ、ちょっと聞いていいか?」

「なに?」

わざわざ調べるまでもなく、一番恵に近しい存在ともいえるティオに聞けばいい。そう結論付け、

「恵さんって誕生日いつなんだ?」

「え?恵の誕生日?8月12日だけど…」

「8月…か、あと一か月くらいだな。」

するとティオはもじもじしながら控えめに、

「ねえ、清麿…私ね、恵の誕生日会を開きたいんだけど…」

「ヌ!良いではないか!清麿!恵の誕生日会をここでするのだ!」

「ん?…ああ。そうだな。オレも何かしたいと思っていたし、皆で祝うか!」

「うん!」

「うぬ!」

清麿の承諾にティオはぱぁあっと顔を明るくさせ、ガッシュも満面の笑みで頷いた。

「そうとなれば、早速準備しなくちゃ!」

「ちょ、ちょっと待て!ティオ!後1ヶ月程あるんだぞ、今からやっても仕方ないだろ!?」

「何言ってるの?こういうのは早くから準備した方がいいにきまってるじゃない!」

「だからといって、飾りつけはまだ早い。まずはだな、皆で何をするか、何を用意するか、綿密に計画を…」

考え込みだし、口元に手を当てながら清麿はブツブツといいながら自室に向かっていく。

ティオは最初は驚いていたが、にやりと笑い

(なぁんだ、清麿が一番張り切ってるじゃない)

「待つのだ清麿~!」

ガッシュは走って清麿の背中を追う。

「あ!待ってよ~!」

ティオもその後に続いて清麿の部屋に向かった。

 

 

 

 

8月上旬

暑い日々が続く中、清麿は自室で腕を組み考え込んでいた。

「清麿!遊びに連れていってほしいのだ!……ぬぅ」

ガッシュが話しかけるが反応はない。

 

(結局誕生日当日はコンサートがあるということで15日にパーティをするということにはなった。皆で何をするか、何を用意するかまではすでに決まっている…。問題は…オレが恵さんに渡すプレゼントだが……)

 

当日の流れや予め用意できるものに関しては準備が完了している。残り10日ほどしかないのに対し、清麿は何も用意をしていなかった。

否、用意ができなかった。

 

「何を渡すのがいいんだろうか…花は…ガッシュとティオが用意するといってたしな………よし、今日も探しに行くか。」

「ぬ!出掛けるのかのう!私もいくのだ!」

「いい、一人で考えさせてくれ。」

ピシャリと清麿は言い放った。

(最初こそは、ガッシュと一緒でいいとは思ってはいたが、やっぱり…オレからという形で渡したい。)

「ウヌゥ…ティオからも清麿の手伝いをするでないと怒られたばかりだったのだ…公園にいくのだ!」

ガッシュはそういうと、とたとたと走って家を出て行ってしまった。

「…よし、いくか」

清麿も恵の誕生日プレゼントを探しに行くべく、外にでた。

 

 

 

 

「んー…やっぱりこの辺か?」

清麿はモチノキデパートにて女性が好きそうなアクセサリーを腕を組みじっくりとみていた。

(でもなあ…好みとかわからねえし、そもそも恵さんだったらもっといいものを貰うだろうしな…)

胸にチクリと痛みを感じながら、

「他には…」

デパートの中を散策していると、ふと、本屋に目が行く。

本屋の入り口には女性誌が並んでいる。

 

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そんな見出しがでかでかと載っている雑誌が目にとまった。

清麿は吸い込まれるように本屋に入り、その雑誌を手に取った。

 

「これだ!」

 

清麿はその雑誌を元の位置に戻して、その足で

とある売り場に向かっていく。

「これだったら確かにいくつもあっても問題ないだろう。」

しかし、売り場でまた清麿は思慮の世界に放り込まれてしまった。

「…な。こんなに種類があるのか!?」

店頭に並ぶ商品の多さに目を見開く清麿を見かねた店員が声をかける。

『お客様、本日はどの様な物をお求めですか?』

「えっ…あ…いや…、その、仲のいい女性にこれをプレゼントしたかったんですけど、こんなに種類があるとは思わなくて…」

『そうですね…やはりその女性の好みにあったものが良いですが、もし不明でしたらお客様自身のお好きな香り等差し上げるのも素敵かと思いますよ』

「オレ自身の好きな香り…?」

『はい!彼女さんからご自身の好きな香りがしたら嬉しくないですか?』

「へっ!?あ、いや。オレと恵さんはそんな関係じゃ…」

-業務連絡、レジ担当お願いします。-

頬を染めた清麿が狼狽えていると、店内放送が流れる。

『申し訳ありません、失礼しますね』

店員はパタパタと走ってレジに向かってしまった。

 

清麿は一つ息を吐き、

(オレの好きな香り…恵さんらしい香り…)

また商品と向き合い、小一時間悩み続けた。

その甲斐あってか、ようやく一つ商品を手に取るとレジに向かった。

 

 

 

 

 

8月15日

「華さん、こんにちは、お邪魔します。」

「華さん!お邪魔します!」

「いらっしゃい。ティオちゃん、恵さん」

にっこりと笑った華が家に招き入れる。

ティオに手を引かれた恵が、清麿宅にあがり、リビングに向かう。

ドアを開けると、クラッカーが鳴り響く

「「誕生日おめでとう(なのだ!)」」

「恵、お誕生日おめでとう!」

リビングはかわいらしく飾り付けられ、華お手製のおいしそうなケーキと料理が並んでいる。

「わぁ…!すごい!」

恵は目を輝かせる。

「ねえねえ恵!これ!私とガッシュからのプレゼント!」

「花束なのだ!」

ガッシュとティオが、かわいらしい花束を手にして恵の元へ走って行く。

「わああ!素敵ね!二人とも、ありがとう!」

恵は花束を受け取ると心底嬉しそうな表情を浮かべて二人を抱きしめた。

「えへへ…」

「よろこんでくれたのだ!よかったのだ!」

ティオは緩んだ顔をして恵の抱擁を受け止め、ガッシュは両手をあげて喜んでいる。

清麿はその風景を穏やかな表情を浮かべてみていたが、ぐっと表情を固めて

(よ、よし、オレもこの流れで…)

「め、恵さん、これオレかr…「そうだ!恵!華さんに料理教えて貰ってね!これ私が作ったのよ!」

「ヌゥ…ティオの料理は遠慮するのだ…」

「何よ!!!ガッシュのためにつくったわけじゃないのよ!」

ティオとガッシュが言い合いだしてしまった。恵と華がそれをなだめるように二人の間にはいる。

清麿はプレゼントを渡すタイミングを逃してしまった。

(い、いや…まだきっと渡せる機会があるだろう)

焦る気持ちを抑え込み、清麿はガッシュの首を絞めているティオを止めに入った。

 

 

 

 

 

 

 

(しまった。全然渡せる機会がない…!)

数時間たった今でも清麿は恵にプレゼントが渡せていない。

流石にこの時間とまでなると渡せないまま、恵達が帰ってしまう未来が見えてしまっている。

(しかし、この場で今渡すのはなんか空気的におかしいよなぁ…)

ティオとガッシュがケーキの切り口が大きいか小さいかで揉めている風景を見ながらそう思った清麿は、スッと恵のそばに行き

「恵さん、ちょっといいかな…」

と小声で声をかける。

恵は少し疑問に思いながらも

「?え、ええ…」

と答え、リビングを出ていく清麿の背中を追った。

清麿は自室に恵を招くと、ゆっくり深呼吸をしてから

「め、恵さん、これ誕生日プレゼント。おめでとう」

可愛らしくラッピングされたプレゼントを恵に差し出す。

「…えっ!さっきの花束じゃなかったの?」

恵は受け取りつつ驚いた顔をしている。

「あ〜いや、アレはガッシュとティオが2人で選んだものなんだ。オレは別で用意させてもらったんだ」

清麿は自身で選びたかったことは伏せて、照れくさそうに頬をかきながら答えた。

「…そうなんだ、ねえ、これ今開けてもいいかな?」

「あ、ああ。恵さんが貰ってきた物の中では大した物じゃないが…」

恵は清麿の承諾を得ると、大切な物を扱うように丁寧に包装を開けた。

 

「これって…ハンドクリーム?」

「うん、ハンドクリームって冬に乾燥した時に使うもんだって思ってたんだけど、前読んだ雑誌に香りとかハンドマッサージとかでリフレッシュ効果としても役に立つって書いてあって…」

恵は目を輝かせて清麿の話を聞いていた。彼の優しさがとても嬉しかった。

「うん、すっごく嬉しい!ありがとう!」

香りを楽しむために、恵は自身の手にハンドクリームを出している。ほんのりと甘い香りが清麿の部屋を包み込む。

「凄くいい香り…」

心底嬉しそうな表情を浮かべながら恵は自身の手に塗っている。

 

 

 

 

 

その光景に見惚れていた清麿。恵は何か思い付いたかのように、清麿に声をかけた。

「ちょっと出しすぎちゃったな…そうだ、清麿くん、ちょっと手だしてもらってもいい?」

「へっ…?あ、うん、こう?」

言われたまま恵に手を差し出す清麿。恵は清麿の手を自身の手で包み込んだ。

「えっ…ちょっ、恵さん!?」

「ハンドクリーム出しすぎちゃって…清麿くんにもお裾分け」

そういうと恵はにっこりと笑いかけ清麿の手にハンドクリームを塗った。

「あ、ありがとう…」

手からお互いの温もりが伝わる。ドキドキと胸が高鳴るのを2人とも感じていた。

 

 

 

 

 

 

2人がリビングに戻ると、ガッシュとティオはケーキを食べていた。

「あ!恵!これ恵の分!」

「清麿!清麿の分はこっちなのだ!」

2人の魔物の子は、自分のパートナーの分のケーキを落とさないように持ってこようとする。

「あ、ティオ!大丈夫よ、そこに置いておいて!」

「ガッシュもだ、オレ達がそっちにいくから、一緒に食べよう」

ひっくり返してしまうような気がした2人は慌てて止める。

「はーい!」

「わかったのだ!」

清麿と恵がそれぞれ椅子に座ると、ふとガッシュが鼻をくんくんとさせて清麿に問いかけた。

「清麿?何故恵と同じ匂いがするのだ?」

「えっ…あーいやこれは…」

清麿は先ほどの光景が浮かび、狼狽えている。

ガッシュのややこしい質問と清麿の態度に華とティオが驚いた顔をしている。

恵は急いでハンドクリームを取り出し、

「ガッシュくん、これよ」

ガッシュはハンドクリームに顔を近づけ匂いを嗅ぐと

「おお!これなのだ!いい匂いだのう!」

「そういえばハンドクリームっていろんな香りがあるけれど、清麿くんは何でこの香りにしたの?」

「えっ……いや~その、オススメって書いてあったから…かな」

そう言う清麿の顔は真っ赤になっていた。

 

--オレの好きな香りにした。つもりだったが、結局は恵さんらしい香りで探していた。買う時に気が付いたがオレの好きな香りは…………--

 

そう思いながらハンドクリームを選んでいた清麿はこの事はバレないようにしなければと心に誓ったのであった。

 

 

 

 

後日

清麿が部屋で机と向かい合っていると、ガッシュが見ているテレビから

『芸能人の手荷物チェック〜!プライベートを赤裸々にしちゃいましょう〜!』

『本日のターゲットは、大海恵さん!』

と流れた。

「おお!恵なのだ!」

番組の内容としては鞄の中身を紹介すると言った内容だった。

思わず清麿は振り返り、テレビを観る。

「本は流石に出さないよな………よかった…」

魔本をテレビで出せば、それを見ていた魔物に狙われる可能性がある。その点はしっかりと話を通していたようで本以外の恵の持ち物を紹介している。

『おっ、恵ちゃん、このポーチは?』

「ちょっとした時に身だしなみを整えられるように櫛とか化粧品がはいってるんですよ」

『へええ!おっ、何やら大切に仕舞われてるこのハンドクリームは?』

 

清麿はドキリとした。

「清麿!清麿!あれは清麿があげたプレゼントなのだ!」

「ああ…そうだな…」

(恵さん、持ち歩いてくれてるんだ…)

 

「これは、プライベートで仲良くしてくれてる友達から貰ったんです」

そう言う恵の表情はとても穏やかで、テレビ局にいる人テレビを見ている人皆が見惚れるほど美しかった。

 

この番組をきっかけにそのハンドクリームの会社の目に留まり、恵の担当CMとなったのであった。