ショートショート 「あなたの指が好きだった。」 | 瑠璃☆の世界

瑠璃☆の世界

少しだけ心の中を表現したいのです。
ここだから言えること、書いてみます。



 

その人の左手の薬指は少し曲がっていた。

 

幼い頃から曲がった指にコンプレックスを持っていた。

 

だから私の髪や乳房や唇に触れる時も反対の手を用いた。

 

手を繋ぎながら歩いた日、その人はポツンと「だからこの指は嫌いなんだ」と言った。

 

私はその人の指を自分の頬に押し当てた。

 

愛おしくて可愛くてたまらなかった。

 

人目も気にせず少し曲がった薬指を軽く唇に含んだ。

 

何も気にすることはないの。

 

私はあなたのこの薬指が好き。

 

哀しみを知っている優しいあなたの…

 

この薬指が好き。

 

と、何度も心の中で呟いた。

 

そして

 

枯葉舞い散る並木道に立ち止まったまま、涙を抑えながら私は静かに言った。

 

「あなたのこの指が好きよ」