栄養


新型コロナウイルスへの対策として、ぜひお勧めであるのは、栄養の良い食べ物を充分に食べることです。具体的には、まず蛋白質です。魚や肉や牛乳や卵や豆などです。蛋白質の他に、野菜や果物もお勧めです。また、どんなに忙しい時でも、1日に3食を欠かさないのがお勧めです。お勧めでないのは、ジャンクフードやファストフードです。

 

女子栄養大の栄養研究所所長の香川靖雄先生は、新型コロナウイルスの感染予防として栄養の良い食事を勧めておられます。
「新型コロナウィルス(COVID-19)を防ぐ栄養学」
https://www.eiyo.ac.jp/ions/?p=3674
(高蛋白、高糖質、高ビタミンが勧められています)
(ダイエット(減量)は当面中止することが勧められています)

 

アメリカ栄養協会は、新型コロナウイルスに対して、健康的な食事をすることを勧めています。
「新型コロナウイルスのの蔓延に対して健康や栄養を優先事項にする Making Health and Nutrition a Priority During the Coronavirus (COVID-19) Pandemic」(2020年3月18日)
https://nutrition.org/making-health-and-nutrition-a-priority-during-the-coronavirus-covid-19-pandemic/
「・新型コロナウイルスの蔓延時にはスーパーマーケットへ買い物へ行く頻度を最小限に減らし、健康的に食事をする
 ・新型コロナウイルスの蔓延でレストランの利用が禁止されている期間は、安全に食事をする
 ・ポジティブに考える。精神的、身体的に健康にこの蔓延を乗り切るためには心構えが重要である」

 

しかし、厚生労働省や世界保健機構WHOや米国の政府機関CDCは、新型コロナウイルス対策として栄養の良い物を食べることを、あまり熱心に勧めていません。そうした記事が見当たりません。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00094.html
https://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019/advice-for-public
(ストレスのところにproper diet(適切な食事)という一語がありますが、それだけです)
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/prevent-getting-sick/prevention.html

 

それは次のようなことが理由であると考えられます。

 

(1)食事を改善するのは、かなり困難であること
健康診断で引っかかった人も同じです。食事を改善させて正常値にする人は、ごく少数です。20人のうちの1人くらいでしょうか。新型コロナウイルス対策として食事の改善をお勧めしても、ウイルスへの抵抗力が増すほどに食事を改善する人は少数でしょう。お菓子を多く食べる人がお菓子をやめるには、アルコール依存症の人がお酒をやめるような困難さがあります。食事の改善を呼びかけても、20人に1人が実行するだけであるのなら、感染爆発を抑え込むことに結び付きません。

 

(2)食事を改善しても、効果が出るのに時間がかかること
例えば鉄欠乏性貧血の人に鉄剤を投与するとします。鉄の1日の必要量は1mgですが、薬としては1日100mgの鉄剤を飲みます。それでも貧血の症状が改善するのに1ヶ月くらいかかります。抵抗力が元通りに回復するのに1ヶ月くらいかかるかもしれません。鉄欠乏性貧血の診断がついていなくて、単に良い食事をするだけでは、抵抗力が回復するのに何か月もかかるかもしれません。


今、アフリカに飢餓状態の5歳の子どもがいて、長い間、食事を半分しか食べていなかったとします。そしてかなり痩せていたとします。この子どもが健康な子どもと同じくらいの抵抗力を取り戻すのにどのくらいの時間がかかるでしょうか。急に栄養を多く入れると、リフィーディングre-feeding症候群を起こすことがあります。ゆっくり栄養を増やさなければなりません。1カ月もすれば、かなりの健康を取り戻すでしょうが、完全に屈強になるには3、4カ月くらいかかるかもしれません。そのころ体重は元にもどるでしょう。
 

米国政府によれば、平均的な米国人は、体に良い食品を推奨量の半分しか摂取していないとのことです。その代わりに体に悪い食品を制限量の2倍摂取しているとのことです。だからある意味で、アフリカの飢餓の子どもと似た状態にあります。本当は痩せている状態であるのに、余分な栄養が付いて肥満しているのです。この平均的なアメリカ人が食事を完璧に改善したとしても、真の抵抗力を取り戻すのに何か月もかかかるかもしれません。ニューヨーク市民の多くが、ジャンクフードやファストフードをやめて、自然食品の手作り料理にするには、供給体制の大改革が必要です。


(3)欠乏している栄養素以外の栄養素を入れてもあまり効果が無いこと
アミノ酸オケとかリービッヒの最少律ということがあります。最も不足している栄養素をたくさん入れる必要があります。それ以外の栄養素を入れてもあまり効果がありません。鉄欠乏性貧血の人には鉄を入れる必要があります。アミノ酸のリジンが欠乏している人にグルタミン酸を入れても、蛋白質の欠乏は解消しません。また、最も不足している栄養素が何であるかは、すぐには分かりません。

(リービッヒの最小律を示す図。Wikipedia英語版より)

 

もっと具体的に、感染予防対策としてビタミンDを補うという考え方があります。

 

「呼吸器感染症に対するビタミンD Vitamin D for prevention of respiratory tract infections」(世界保健機構WHO、2017年1月)
https://www.who.int/elena/titles/commentary/vitamind_pneumonia_children/en/
・ビタミンD欠乏症は、世界中に広く蔓延している
・ビタミンDは、微生物に対してペプタイドを分泌させて免疫機能を亢進させる
・ビタミンD欠乏症は、免疫機能を低下させるであろう
・最近のメタ解析によれば、ビタミンDのサプリメントは呼吸器感染症を減らすことが示されている
・ビタミンDの効果があるのは、ビタミンD欠乏症の人だけである
(4編の論文が検討されていますが、そのうち3編で「ビタミンDのサプリメントは呼吸器感染症を減らす」と結論されています(16歳以下の子ども))

 

「前のCDCの長官のTom Frieden医師:コロナウイルスの感染リスクはビタミンDで減るかもしれない Former CDC Chief Dr. Tom Frieden: Coronavirus infection risk may be reduced by Vitamin D」(Fox News、2020年3月23日)
https://www.foxnews.com/opinion/former-cdc-chief-tom-frieden-coronavirus-risk-may-be-reduced-with-vitamin-d
「ビタミンDのサプリメントは、サイトカインの産生をコントロールして、インフルエンザのようなウイルスに感染するリスクを減らすことができる。ビタミンDは、傷つきやすい人々に、おだやかな防衛効果を提供することが可能かもしれない。これは特にビタミンD欠乏症の人々に重要である。アメリカ合衆国の成人の40%以上がビタミンD欠乏症の状態にある。アメリカ合衆国の北部に住む人の方がリスクが大きい。通常、25μgのサプリメントが使用される」


「ビタミンD」(N.I.H.)

https://ods.od.nih.gov/factsheets/VitaminD-Consumer/

「アメリカ合衆国で販売されているたいていの牛乳は、568ml当たり10μgのビタミンDが添加されている」


自験例でビタミンD投与により感染が減ったと思われる方がおられます。

高齢の女性の方です。

   ・1年目の採血回数:22回   途中でプレドニゾロン5mg0.5錠を中止しました

   ・2年目の採血回数:10回   途中でビタミンD25μg1錠をスタートしました

   ・3年目の採血回数:1回

   ・4年目の採血回数:0回    (現在)

ビタミンDを10カ月間投与すると感染症にかからなくなったように見えます。


ビタミンA欠乏症(夜盲症)が疑われる人を私は見たことがありません。ビタミンB欠乏症(脚気)、ビタミンC欠乏症(壊血病)の人も同様です。大球性貧血があっても、葉酸やビタミンB12の血中濃度は正常範囲内のことも多くあります。しかし、骨粗鬆症はありふれています。骨粗鬆症には多少とも骨軟化症が伴います。新入所の方約20名のビタミンD血中濃度を測定したところ、過半数の方ではビタミンDが不足する状態にありました(20ng/ml以下)。ビタミンD不足症は蔓延している可能性があります。食事からビタミンDを摂るのはなかなか困難です。私は1日3回魚を食べていたことがあります。そのぐらいしないと追いつきません。冬場に日光浴をするのもなかなか困難です。そうだとするとサプリメントが現実的な解決策ということになります。ビタミンDには過剰症があるので、投与量を増やすのは危険です。ビタミンD(天然型)は、病院薬(処方箋薬)ではなく、市販薬(OTC)です。ビタミンD(活性型)は、病院薬(処方箋薬)です。


なお、誤解のないように申し添えますが、これらの主張は「ビタミンDでウイルス感染症が治る」という主張ではなく、「ビタミンD欠乏症があるとウイルス感染症との戦いに不利になる。ビタミンD欠乏症の人は、かなりいる」という主張です。そして「ビタミンD欠乏症のある人は、ビタミンDを一定期間補うと、ビタミンD欠乏症の無い人と同じになるだろう」という主張です。