次のような文章を書きました


我々の遠いご先祖様の生活の様子はあまりよく分かりません。骨の化石や住居跡から推測するだけです。現在の狩猟採集生活者の様子は分かります。彼らは基本的に一夫一妻制で子どもを育てます。血縁を中心とした数家族が1つの集団を作っています。集団の規模は30人ぐらいで、最大でも200人くらいまでです。集団では、協力が行われ平等です。若い女性は、血縁結婚を避ける目的で、別の集団に移動することもあります。

男性は1日に3~4時間、協力して狩りに出かけます。女性も同じくらいの時間、協力して食べ物の採集に出かけます。野生の動物を簡単に捕まえることはできません。戦略が必要です。また、多くの植物は食べることができません。多くの植物は、草食動物に食べられることを防ぐために毒物を作っています。どの植物がたべられるかの知識は重要です。住居の周辺にあった食べ物を食べ尽くすと、テント式住居をたたんで移動します。男性は、家庭内で生まれた子どもが自分の子であることをある程度確信するので、子どもに手間ひまかけて情報伝達することが可能になります。

数百万年を経過するなかでヒトの人口は増加傾向にありましたが、100年程度の期間で見ると、ほとんど不変でした。1つの家族内に生まれた子どものうち、大人にまで育って次の繁殖を行うのは平均2人でした。それ以上生まれた子どもたちは、大人になるまでに死亡しました。生まれた子どもに対して、育てないという選択肢もありました。食べ物や、育てるための人手が充分に無い場合には、間引きされました。実際、NHKのドキュメンタリー番組では、産んだ直後に母親が育てるかどうかを決める場面がありました。映画「楢山節考」では、間引きをしない家族が子だくさんとなり、作物を盗むので村人によって家族全員が殺される話がありました。

老人についても、その人が健康で元気で、狩りや採集や知識提供などで他の人々の役に立つうちは問題ありませんが、病気やケガによって多くの人手がかかるようになると、単に殺されたり、あるいは移動の際に1~2日分の水と食料を置いて置き去りにされたりします。

周辺の他の部族と敵対関係になることもあります。映画「2001年宇宙の旅」では水場をめぐって他の部族と争いになります。当時には法律もないので、良い餌場や水場を確保していると、突然他の部族に襲われて殺されることもあり得ます。現在でも、ジャングルに原住民のための政府機関の施設を作ると、原住民から襲撃されることがあります。ある研究者は、狩猟採集生活者のうち殺人の犠牲者となる割合は、死亡全体の10%から30%と推定しています。ユートピアには程遠い状況です。

ある研究者が、未開のイヌイット72人の歯2138本を調査したところ、虫歯はわずか2本だけでした。またある研究者が、未開のキタバ島を調査したところ、高血圧、肥満、高脂血症、虚血性心疾患、脳卒中などの患者さんはいませんでした。ヤノマノ族、クン族、ハッザ族の人々を調査した研究者も、同様の報告を行っています。西洋社会に多い生活習慣病は、未開の地にはほとんどありません。これは重要な事実です。狩猟採集生活者が、それまでの生活をやめて、町へ出てきて現代生活を行うようになると、西洋の生活習慣病が蔓延するようになります。

未開の人々の生存曲線を調査した研究者によれば、調査した3つの部族のいずれも、0から5歳の死亡が多くありました。小さい子どもは、不慮の事故、下痢による脱水、感染症、先天異常などでなくなります。もし3つの部族の0から5歳の死亡が現代社会のように少なかったとすると、生存曲線は上へシフトして、20~30%ほどの人が70歳以上まで生き残ることになります。これはかなり多い数です。ただしこの生存曲線は、3つの部族共に近隣との戦いを行っていない時期のもので、通常はもう少し死者が増えます。