(1)「生物の社会進化」(ロバート・トリヴァース、中嶋訳、1991年)の第7章「親子の対立」を読みました。
トリヴァース本人の記載が一番よく分かります。トリヴァースは、まず最初に、ハトの親子が激しく争うことに気が付いたそうです。私はハトを飼っていたことがありますが、そのようなことには気が付きませんでした。
「有性生殖する生物では、親が子に与える投資量をめぐって、親と子は対立していると考えられる。親が与えようとしている以上の資源を、子供は得ようとする。投資をめぐる対立は、親の投資期間中しだいに増大し、また年とった親ほど子供との対立は小さくなると考えられる」(p201)
(2)「社会生物学」第3巻(E.O.ウィルソン、1984年)の第16章「親による子の保護」を読みました。
今読むと、特に何の問題もない進化生物学の本ですが、出版当時は目新しかったので論争を巻き起こしたのでしょう。ウィルソンの主張は、動物の行動についても、進化の観点から言及できるということです。ウィルソンは、別の本で次のように述べています。「あれは明らかに科学と政治イデオロギーとの戦いだった。理にかなった研究であれば、いずれ科学が必ず勝つと過去の歴史が示している」(「若き科学者への手紙」p56)
「子をもつ母親にとって、成長した子を独立させ、彼女のすべての努力を新しい子をつくることに向けた方が有利であるようなときがいずれくる」(p213)
「母親による保護が続く限りは、子自身の包括適応度(inclusive fitness)は増加して、子供は依存し続けようとするだろう」(p213)
(3)「動物の行動と社会」(日高敏隆、1996年)
薄い本ですが、簡潔に良くまとまって書かれています。
「子がたいへん若いうちは親のわずかな努力(コスト)でも子の生存率(利益)はおおいに改善されるが、成長して独立が近づくにつれて親の投資に対して子の受ける利益はどんどん減少してゆく」(p146)
「年老いた母ほど良い母」(p147)
(4)「生き物の進化ゲーム」(酒井聡樹ら、1999年)
アカデミックですが、分かりやすい本です。
「ある子どもは、同じ時に生まれた他の兄弟姉妹たちとも、過去あるいは未来の兄弟姉妹たちとも、親の世話をめぐって競争関係にある。極端な場合には、卵から早くかえったヒナが、他の卵を巣から落としてしまう行動をする場合さえある」(p126)
「老齢の母親では将来に子どもを産む確率が減少するために、現在の子どもに多く投資をしてもそれによる損失は少なくなる」(p129)
(5)「父親Fatherhood」(ヒトの父親の行動と進化Evolution and Human Paternal Behavior)(Gray, Anderson, 2010)の一部分を読みました。
父親についての科学的な本は多くありますが、これは進化論的な父親の本です。この本は、ヒトが人になったのは、父親が子どもにいろいろ教えたからだと主張しています。子どもにとって、何でも教えてくれる存在が身近にいるのは、心強いことでしょう。父親は子どもの手本になります。重要なのは「情報」です。
「ゴリラは1匹のオスが多くのメスと暮らす。メスの産んだ子どもはすべて自分の子であるが、ゴリラのオスは子どもの世話をあまりしない。チンパンジーは、数匹以上のオスと数匹以上のメスが、繁殖期に広く交尾をする。メスが産んだ子はどのオスの子か分からない。チンパンジーのオスは、子の世話をあまりしない。狩猟採集生活を行うヒトは集団で暮らすが、基本的には一夫一婦制である。父親と母親と子どもは、近くで眠る。父親は直接に子どもの世話をする。父親は、狩猟採集の仕方を子どもに教える。父親が子どもに手間暇をかけても、それに見合う包括適応度の改善がある」(p11-p30の抄訳)
「父親の子への投資は、子どもの生存率や幸福度を改善し、自分の繁殖上の適応度を改善する」(p120)
「父親が子へ関与すると、子どもの発達にポジティブな影響を与える」(p126)
「一夫多妻の種では、寄生により健康を害しやすい」(p226)
ゴリラやチンパンジーでは、1匹が性病を持っていると、全部に広がる可能性があります。
「(ヒトの)結婚している男性は、単身の男性と比較して、死亡率が低い」(p229)
この本の書評を読みました。
http://groups.anthropology.northwestern.edu/lhbr/kuzawa_web_files/pdfs/Kuzawa%20review%20of%20Fatherhood%20for%20Ethos%20Dec%202010.pdf
この本の書評を読みました。
http://groups.anthropology.northwestern.edu/lhbr/kuzawa_web_files/pdfs/Kuzawa%20review%20of%20Fatherhood%20for%20Ethos%20Dec%202010.pdf
「この本は次のように述べている。『ヒトの父親は、単に食物を子どもに提供するだけでなく、子どもへのケアを行っている。ヒトの父親には、認識や感情や生理機能において、進化による選択をもたらすような、子どもへのケアを提供するための性質が備わっている。ヒトの父親にこうした性質が備わっている証拠が多数ある。他のほとんどの哺乳類では、この性質は備わっていない』」
(6)「ヒトはどのように進化してきたか」(ボイド、松本訳、2011年)の第16章「ヒトの配偶者選択と育児」を読みました。
養子の場合は、一見すると、親の遺伝子の増殖には役立たないように見えます。
この本によれば、オセアニアの島社会では、養子が広く行われているとのことです。しかし、その養子は、血縁関係により行われているとのことです。またこの本では、養子の特殊な例として、カッコウの托卵が紹介されています。
私の勤務先では、3月終わりごろにウグイスがやってきます。ホーホケキョと鳴いています。また5月中ごろにホトトギスがやってきて、テッペンカケタカと鳴いています。ホトトギスは、ウグイスの巣に托卵をするそうです。この育ての親のウグイスのように、血縁関係の度合を誤って認識することもあることが分かります。