(1)意識のない人
眠れる森の美女sleeping beautyは単に長時間寝ているだけですが、意識が無くて寝ている人がいたとします。

その人のために、水分補給や栄養補給を行う必要があります。例えば、鼻から胃へ管を入れて、1日に3回、水分とミルクのような栄養剤を注入する必要があります。また1日に何回か、オムツを取り換えて、便や尿の処理をする必要があります。また週に何回か、お風呂に入れるか、体を拭く必要があります。また、昼間も夜間も、2、3時間ごとに体の向きを変えなければなりません。それをしないと、圧迫された部分が壊死を起こします。また、全身の筋肉を他動的に屈伸させる必要があります。それをしないと、筋肉は固く短くなります(拘縮を起こして動かなくなります)。

このように、意識のない人の世話は、大変です。私は訪問医療を担当していたことがありますが、一人で、これら全部の世話をしておられた人がいました。10年以上前の話です。脳卒中で意識のない妻を、パチンコ屋の2階で、1年以上にわたって世話をしておられました。患者さんは、よく世話がされていました。ある時その患者さんは肺炎となって、1ヵ月を超える入院となりました。退院が近づきましたが、これまでのような世話はもうできないようでした。

(2)下肢浮腫
お年寄りの方が、一日中、車イスに座っていると、足がむくんで腫れてきます。重力によって、血液が下方に溜まるからです。老健では、多くの人が、足の腫れを訴えます。足ふみなど、足を動かすことがお勧めです。足のふくらはぎの筋肉は「第二の心臓」と呼ばれています。収縮することによって、足の血管にあった血液を心臓の方へ押し上げます。ウシの乳しぼりと同じ仕組みです(ミルキング)。
http://www.cvi-info.jp/cvi/legvein.html
http://allabout.co.jp/gm/gc/375633/

(3)正しい情報
私は、長い間、保健学(予防医学)の勉強をしました。そして、WHOと米国政府機関が述べていることが科学的に正しいことが分かりました。その両者を信頼していて、裏切られた気持ちになったことがありません。

(4)骨粗しょう症の予防
可能であれば、なるべく下肢に体重をかけるのがお勧めです。歩けるようなら、なるべく歩くのがお勧めです。
1日に日光に10分~15分程度当たるのがお勧めです。ただし、普段日光によく当たる顔や手背ではなく、日光にあまりあたらないふくらはぎあたりがお勧めです。皮膚がんを予防する目的です。

薬物療法としては、カルシウム剤、ビタミンD、ビスホスホネートなどがあります。女性の入居者には、たいていの場合何らかの投薬をしています。男性のハイリスクの人にも処方しています。高齢の人が増えると骨折も増えます。

(5)砂糖と老化
砂糖を摂ると老化が進むという考えがあります。砂糖はメイラード反応(糖化反応)を起こします。砂糖とアミノ酸が結合して、茶色の化合物を作ります。そして、最終的に最終糖化産物(AGEs)を作ります。体の血管は、糖と結合して、硬くなります。動脈硬化症となって、血管がもろくなります。砂糖の摂取をやめても、この糖化産物は、なかなか体から外へ出ていきません。糖尿病は、アルツハイマー型認知症のリスク要因です。

詳しくは拙著「砂糖の害」第十章「砂糖と認知症」、第二十三章「最終糖化産物AGEsとは何か」を参照して下さい。

(6)予防法の実現
内科の外来で、高血圧の患者さんに塩分を減らすように申し上げています。しかしながら、簡便法で推定してみると、塩分を減らしていると胸を張って述べている人も、2g減らしている程度です。つまり日本人の平均の1日11グラムから、9グラムに減らしている程度です。減塩の醤油や味噌を使っているという程度でしょう。

しかし減塩は、施設では簡単に実現します。私は当初、降圧剤を多く使っている人に個別に塩分を減らす交渉をしました。「食事がまずくなるのは嫌だ」と言われる場合もありました。ある日、栄養科の人が、「1日に10グラムの塩分は7グラムに減ります」とお知らせして、常食を食べている人の塩分が一気に3グラム減りました。老健のような収容施設では、こうした健康対策は、一気に容易に実現します。

(7)安静の由来
石器時代に狩猟採集生活をしていて、毎日相当の距離を歩いたり走ったりしていた頃の整形外科的治療は、安静にするだけであったろうと推測します。骨折と捻挫によって痛みが生じたのであれば、痛みのある場所をなるべく動かさなければ改善することが予想されます。それで痛みがある場合には、安静にするほうが良くなる可能性が強いと考えられます。

しかし現在は、メタボ系の病気が蔓延しています。安静にして、骨折や捻挫を放置して悪化する可能性より、運動不足によりメタボ系の病気を悪化させる可能性の方が大きいと考えられます。何か症状があれば安静にするという本能が、メタボ系の病気からの回復を邪魔をしています。

(8)歩行
経済学の野口教授は、勉強して頭に知識を詰め込んでおいて散歩をするとのことです。そうすると新しいアイデアが浮かぶとのことです。
「クラウド超仕事法」(p186)

(9)なぜ体を動かさないのか
「脳はつねに、コストを削減して、少ない元手で取り分を増やし、エネルギーを保存して緊急時に備えることを企てているのです」
「生きるために生まれたBorn to Run」(p348)