キミがいてくれてよかった。

『ベイマックス』

(2014年)

 

 

<あらすじ>

かけがえのない大切な人を失った時、ぽっかりと胸にあいた穴はどう治せばよいのだろうか……。謎の爆発事故で最愛の兄タダシを失い、心に深い傷を負った14歳のヒロの前に現れたのは、何があっても彼を守ろうとする一途な“ケア・ロボット"ベイマックスだった。
日本とサンフランシスコからインスピレーションを得た架空都市サンフランソウキョウを舞台に、壮大なスケールで描かれるふたりの絆の物語! 
 

<スタッフ>

監督 ドン・ホール

    クリス・ウィリアムズ

脚本 ジョーダン・ロバーツ

    ダニエル・ガーソン

    ロバート・L・ベアード

原作 ダンカン・ルーロー

    スティーブン・T・シーグル

    『ビッグ・ヒーロー6』

製作総指揮 ジョン・ラセター

製作 ロイ・コンリ

編集 ティム・マーテンズ

音楽 ヘンリー・ジャックマン

主題歌 AI『story』

 

<キャスト(米国版声優/日本版声優)>

ライアン・ポッター/本城雄太郎(ヒロ・ハマダ)

スコット・アツィット/川島得愛(ベイマックス)

マーヤ・ルドルフ/菅野美穂(キャス)

ダニエル・ヘニー/小泉孝太郎(タダシ・ハマダ)

ジェイミー・チャン/浅野真澄(ゴー・ゴー)

デイモン・ウェイアンズ・Jr/武田幸文(ワサビ)

ジェネシス・ロドリゲス/山根舞(ハニー・レモン)

T・J・ミラー/新田英人(フレッド)

アラン・テュディック/森田順平(アリステア・クレイ)

ジェームズ・クロムウェル/金田明夫(ロバート・キャラハン教授)

 

感想

2016年の年末に

金曜ロードショーでも放送されていましたが

忙しくて見る機会が無く、

年が明けてやっと見れた。

 

上の予告で

ロボットと子供の交流を描いた

ほのぼの感動系の

子供向けドラマだと思っていたのですが

いやもう全然違うじゃん!

予想と違いすぎてびびった。

でも俺の好きな方向の

違いだったので

これは大歓迎。

 

最後はまさかの展開で

ほろっと泣かされました。

とくに30~40代の

ロボットアニメ好きのおっさんは

かなり楽しめると思います。

※詳しくは下のネタバレ部分で語ります。

 

泣ける場面ではないけど

一番印象的なのは

中盤のベイマックスがカイロになって

みんなで身を寄せて温まる

シーンが大好きです。

 

 

★★☆☆☆ 犯人の意外性

☆☆☆☆ 犯行トリック

★★★★★ 物語の面白さ

★★★★☆ 伏線の巧妙さ

★★★☆☆ どんでん返し

 

笑える度 ◎

ホラー度 △

エッチ度 -

泣ける度 ◎

 

総合評価(10点満点)

 9点

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ここからネタバレあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

1分でわかるネタバレ

○被害者 ---●犯人 ---動機【凶器】

タダシ・ハマダ ---●ロバート・キャラハン ---事故【火災】

 

<結末>

研究発表会の事故で死んだと

思われていたキャラハン教授は

ヒロのマイクロボットを奪って生きていた。

そして仮面の男として現れ、

実験中の事故で死んだ娘

アビゲイルの仇を討とうと

クレイの命を狙う。

 

武装したヒロたちが

キャラハン教授を止め、

実験装置の中にアビゲイルが

まだ生きていることを知ると

ヒロとベイマックスが中に飛び込む。

アビゲイルを救助したものの、

ベイマックスは脱出直前に負傷し、

最後の力でヒロとアビゲイルだけが

装置の外に戻ってくる。

 

ベイマックスを失って数日後。

悲しみを乗り越えたヒロは

ある日ベイマックスのロケットパンチが

何かを握りしめていることに気付く。

それはタダシが作った

ベイマックスの記憶の詰まった

「ケアカード」だった。

ヒロはベイマックスを

自力で完成させて彼と再会し、

みんなと共に

サンフランソウキョウの街を守るヒーロー

「BIG HERO 6」として、

今日も人々を助ける―――。

 

どんでん返し

この作品には

あっと驚く凄いどんでん返しはない。

仮面の男の正体は

終盤でキャラハン教授とわかるが

怪しいのはクレイかキャラハンなので

犯人の意外性は弱い。

 

どんでん返しとして挙げるなら

最後のロケットパンチの

手の中にケアカードを

握りしめていたところだろう。

 

もうベイマックスと

会えないと思っていたところに

あのカードが残っていて

今までの記憶と心を持った

ベイマックスを復活させることができた。

 

古いギャルゲー好きなら

『To Heart』のマルチ

思い出したのではないだろうか?

俺はそうでした。

 

伏線解説

『ベイマックス』というタイトルですが

原作はマーベルコミックの

アメコミ『BIG HERO 6』という

超能力を使ったヒーローものだった。

それをディズニーがリメイクして

舞台を東京からサンフランソウキョウに、

ドラゴン風ロボから看護ロボットに、

超能力から発明品で

活躍するヒーローに変更した。

 

冒頭でタダシに大学に連れてこられ、

科学オタクのラボで

仲間たちが紹介されるが、

そこで披露した発明が

のちに自分たちの能力になっている。

 

ゴー・ゴーは

電磁サスペンションを使った

反重力バイクを開発している。

 

ワサビは

レーザープラズマの研究。

 

ハニー・レモンは

科学薬品の開発。

 

フレッドは学生ではないが

火を吹くトカゲになる薬を

開発してもらいたがっている。

  • それぞれが特徴をもったヒーロースーツを来て活躍する。

 

兄を失った悲しみを分かち合うため

ベイマックスが仲間にメールを送信する。

  • 仮面の男を捕まえようとして夜中に出かけるが、そこにラボの仲間たちがやって来てしまう。家の付近で見かけて後を付いて来ていた。

 

仮面の男の正体をさぐるため

スキャンするという場面で

「見方を変えて見る」という台詞が出てくる。

  • 最終決戦でピンチに陥った仲間たちが発想の転換を行い困難を脱出。この「見方を変えて見る」は兄タダシがマイクロボットの開発で行き詰っているヒロに最初に行った言葉。

 

ワープ装置のポータルの中に

生命反応を感知。

ヒロは「彼女は生きているんだ。

助けに行かないと」と言って

迷いなく向かっていく。

  • 「教授がいるんだ。助けに行かないと」と言って火事の中を迷いなく進んでいった兄タダシの姿と重ねている。

 

⑥ヒロの「兄さんはもういない!」

終盤のキャラハン教授が言う

「アビゲイルはもういない!」と重なっている。

  • この後に続く 「僕も同じ気持ちだった。だからもう止めて……」というヒロの言葉に悲しみを乗り越えた強さが見える。

 

ロケットエンジンが壊れて

動けないベイマックスが

唯一動かせる方法がある。

  • それがロケットパンチだった。

 

「ベイマックスもう大丈夫だよ」という言葉。

最初の頃は

ベイマックスを早く止めたくて

すぐにでも「言いたい言葉」だったが

それが最後では

別れを意味する

「言いたくない言葉」へと変化する。

  • 最後にヒロが「ベイマックスもう大丈夫だよ」と涙声で言う場面は涙なくして見れない。

 

フレッドがパンツを洗濯せずに

何度も裏返して履く習慣。

  • エンドロールの後の隠し部屋で登場する人物が彼の父親であることの証明。父も同じ習慣をもっていてヒーローとして活躍していた。ちなみにこの人物はマーベルコミックの編集委員のスタン・リーがモデル。

 

 

よくある疑問

Q,最後のロケットパンチの中の

ケアカードはいつのまに握ったの?

あれで記憶が戻ったのはなぜ?

 

ヒロがベイマックスの手を

引っ張る場面では

ベイマックスはまだ手に何も握っていない。

ロケットパンチをセットしてから

あのカードをこっそり握るのは無理なので、

「ロケットエンジンが壊れました」と聞いた後

ヒロが出口までの距離を知るため

数秒間後ろを振り返っている。

おそらくこの間に握ったのだろう。

 

空手家のカードに替えた時、

性格まで豹変したが

このケアカードには

性格をコントロールしたり

蓄積した記憶が入っているようだ。

 

ポータルの異空間の中で

ベイマックスは消滅してしまった。

新しくヒロがベイマックスを作っても

それは抜け殻のようなもの。

このカードがあることで

入れ物は別でも、

同じ心と記憶を持ったベイマックスを

復活させることができたのだ。

 

……というのが

正しい解釈なのだが

ひねくれ者だと

ここで疑問を持つことでしょう。

 

思い出してほしい。

孤島で仮面の男を攻撃する時に

ヒロは緑のケアカードを抜いて

赤の空手家のカードだけにしました。

するとベイマックスが暴走状態になり、

制御不能になった。

 

それでは、

この場面でヒロが振りかえる間に

緑のケアカードを抜いてしまったら

その瞬間にベイマックスは

暴走してしまうのではないか?

その後の会話で

「ベイマックスもう大丈夫だよと言うまで

離れられません」と泣ける台詞を言ったが

あれが緑のカード無しで言えるだろうか?

 

その指摘は正しいです。

そうすると

カードを抜いた時に

赤いカードが残ると危険なので

赤いカードは捨てたことになります。

 

カード無しの状態で

どこまで動けるのか不明ですが

内部メモリのようなものがあって

一時的に少しは動けるのではないか?

あるいは別のカードが

差してあったのかもしれない。

あのスロットは4枚差せたので

2枚空いていたら

非常用に別のケアカードが

差してあったという考え方もある。

想像することは自由ですからね。

 

あとはロケットパンチを

発射するだけなので

複雑な意志は必要ありません。

その別れ際にベイマックスが

一言もしゃべらなくなったので

すでにベイマックスの機能は

停止しているようです。

 

Q,最後ベイマックスが犠牲になったけど、

みんなが助かる方法は無いの?

 

ありません。

 

例えば、

ロケットパンチを撃つ時に

ヒロがベイマックスの左腕や

足を持っていれば、

そのまま引っ張られて

ベイマックスも一緒に出られたのでは?

という考え方があります。

 

これは無理です。

作用反作用の法則で

ロケットパンチを撃ちだす力が働くと

ベイマックスを後方に推し出す力が働き、

ヒロがベイマックスを掴んでいると

ベイマックスが重すぎるため

ベイマックスの方に引っ張られるか

Gに耐えられず

腕がちぎれてしまいます。

 

ではロケットパンチを後方に飛ばして

ベイマックス自体を出口に

推し出すことはできないのか?

これはロケットパンチの推力と比べて

あまりにも推力が弱いため、

動いたとしても時間がかかり過ぎる。

しかも出口付近は

物が吸い込まれているから

空気の流れが逆流になり

弱い力では推し戻されて

出口まで辿り着くことは不可能です。

 

それにポータルはもう崩壊寸前で

ロケットパンチで

脱出したのがギリギリでした。

あれ以上時間をかけたら

全員閉じ込められてしまうのがオチでしょう。

 

ということで

ロケットパンチのあのやり方しか

脱出方法はないのです。

 

Q,展示会場に火をつけたのは誰?

 

3つの可能性が考えられる。

①キャラハン教授が放火した。

②アリステア・クレイが放火した。

③事故で出火した。

 

キャラハン教授は

生き延びた場面を説明する時、

「君のマイクロボットがあった」と言っている。

そして、

火が迫って来て危ない場面で

マイクロボットが身体を包んで

助かる様子が回想で流れる。

 

もし自分で放火したなら

もうとっくに

脱出していなければおかしい。

こんなギリギリまで居る必要が無い。

それにここは

優位に立てる場面なのだから

「放火して君のマイクロボットを

奪ってやったのだ!」と

自慢げに言うべき。

しかしこの言い方を見ると

キャラハンが故意に

放火したとは考えられない。

娘を想う姿を見ても

彼は根っからの悪人ではない。

よって①は無し。

 

クレイはどうか?

こいつは野心家で

マイクロボットを狙っていたが

会場に残ってはいないはずだ。

忙しい身分だし

アリバイを確保できていないと

行動に移せない。

ヒロや他の人の目の前で

マイクロボットを

1個ネコババしようとしたのを

見られているので

自分が疑われるような危険を冒すほど

馬鹿ではないだろう。

それに肝心のマイクロボットを

盗んでいないので

放火しても意味がない。

よって②も違う。

 

ということで③の

事故説が有力です。

会場内に出火しそうな発明は

見当たらなかったが

電気配線がショートしたりして

出火したのだと思われる。

 

なにより新しい発明の発表会だし

不完全な試作品もあったはず。

それが不具合で爆発などして

火が燃え移った事故と

見たほうが正しいだろう。

 

Q,キャラハンの死体が残っていないのに

死亡を誰が確認したのか?

 

通常は失踪扱いになり

約1年後に死亡と認定されますが

逃げた客の状況説明から

死体は無いが

中に残っていたのは確実なので

推測で死亡と判断された模様。

 

サンフランソウキョウという

架空の町が舞台なので、

法律が違っても文句は言えない。

 

ヒロがマイクロボットが「焼けた」と

思い込んでいるので

死体も消えてしまうぐらい

粉々に大爆発した

火災だった可能性もある。

 

Q,キャラハンはマイクロボットで

何を運んでいたのか?

 

ツバメのマークの残骸は

「沈黙の燕」という名のワープ装置。

 

キャラハンの目的は

これをクレイ・テック本社の上空で

組み立てて

建物もろともクレイを

異空間に吸い込んでしまうこと。

そうして娘アビゲイルの

仇をとろうとしていた。

 

Q,キャラハンが負けた理由が

よくわからない。

 

あれはマイクロボットを

バラバラにして

ポータルの中に吸い込ませて

数を減らしてしまう計画。

 

上空へ上空へと誘いだし

その分マイクロボットを多く使わせた。

結果的にとどめの一撃時に

数が足らなくなり

一瞬の隙をつかれて逆転負け。

 

Q,兄タダシがベイマックスに託した

「使命」とは何か?

 

パッケージ裏に書いてあるこの言葉、

その答えは……

「人を傷つけないこと」だ。

タダシがベイマックスを作ったのは

誰かを傷つけるためではない。

人の役に立つため。

健康を守るため。

幸せにするため。

たくさんの人を助けるために

まず傷つかない方法を考えていた。

 

「守ること」と「傷つけないこと」は

似ているようで違う。

キャラハン教授との戦いで

最後に「傷つけず」に勝ったのは

ベイマックスが

「人を傷つけることができない」ように

プログラミングされていたからです。

 

ヒーローとなって

町を守ることは兄の望んだこととは

ちょっと違う。

パッケージの煽りは

ヒーローになることがタダシの使命だと

読みとれるような書き方だが

これは謎を膨らませるための

宣伝文句なので

あまり気にしない方がいいだろう。

 

 

スーパーヒーローもの

一見子供向けの

ほのぼのストーリーかと思いきや

特撮ヒーローみたいな

バトルアクションものだったことが

一番の驚きではないだろうか。

俺もまさかこんな

激しくバトルする物語だとは

想像していなかった。

 

ロボットとの出会いと別れを描き、

泣かせるところは

きっちり泣かせてくれる。

そのうえハッピーエンドなのが嬉しい。

子供より大人の方が楽しめる

素晴らしい映画でした。

 

 

>裏旋の映画レビュー倉庫へ