◆オーダーメイド物語

【あなたのイメージで綴るこの世ならざる世界の物語】


▶︎ご依頼主:おおざわ奈美様

天ジュラム認定講師として、また導きの羅針盤として活動されるナミ先生。

天ジュラムセッションや講座をイメージしたミステリアスファンタジーを、とのご依頼でした。

キーワードに、願い、自分らしさ、羅針盤などを添えて物語を綴らせていただきました。



▶︎物語

 …*…真実を照らす星の在処…*…


 思えばそれは、夜空にひときわ輝く一等星に手を伸ばすかのような、もしくはただひとつの真なる幸福を追い求めるかのような、そんな在り方だったように思う。

 天使が降りたと伝えられる誓いの森の教会で祝福を受け、武に優れているのだと告げられて。

 期待を胸に、時には慣れない剣を握り、時には思考を巡らせ策を練り、目の前に迫るものと戦っては、ひたすらに前へ前へと進み続けて。

 いつしか極めた武の道は、自身だけでなく他者を護る術となり、身に得た秘術の知は星を詠むことすらも可能とし、さらなる邁進の糧となった。

 どこまでもどこまでも、延々と果てしなく、自分は『今はまだ在らざるモノ』を追い求める。

 だが、その旅のさなか――ふと気づけば、黒曜石のごとく凍りついた大海原にひとり、こうして立ち尽くしていたのだ。

 夜明けの気配などまるで感じさせず、月もなく、星もなく、硬質で冷徹な闇に覆われた場所で呆然と佇む自分。

 

 一体、いつからここにいるのだろうか。

 この場所は、この世界は、一体どこに存在しうるものなのだろうか。

 

 足元から這い上がる途方もなく不穏な気配にざわりと肌が粟立った。

 自分という""がなくなって、頼りなく、とめどなく、あてどもなく、漂うように自分のカタチを失っていく感覚。

 焦燥と諦観と絶望とがないまぜとなって心の内を乱し、それは視界を曇らせ、思考を鈍らせる。

 崩壊と喪失の予兆に、ゆらりゆらりと視界が揺れた。

 見たくないモノを見ないようにと目を逸らすたび、くらりぐらりと視界がまわる。

 黒曜石の凍れる海の一部と化す自身の未来が視えた気がして、呑み込まれることにふるえ、思わず手を伸ばす。

 助けを求めてむなしく空を掻くはずだったその指先に、すぅっと小さな光が触れた。

 

「あ」

 

 唇からこぼれる音が、凛として響く旋律の中に溶けて消える。

 目を見開いて捉えたのは、月光石の花びらをまとい、真珠のような笑みを湛える存在だった。

……あなたは……

 震える声で問えば、不可思議に既視感を覚えるその存在が、硬く強ばるこの手を取り、指を絡め、旋律ともとれる柔らかな声音で天上の言葉をこちらへ注ぐ。

 刹那。

 凍れる黒い海に金色の亀裂が走り、ソレは異界の文字であると知れるほどに美しい紋様となって広がり続ける。

 万物を飲み込むほどに虚ろで硬質な凍れる海の表層に描き出されたのは、途方もない叡智を内包する《羅針盤》だった。

 さらに天から降りてきた彼女は、絡めた指をわずかにほどき、自我を見失いかけたこの身にあるものを与えてくれた。

 自分と彼女とをつなぐ繊細な鎖がしゃらりと音を立て、その先では美しい《針》が振り子のようにゆらりと揺れる――これはペンデュラムと呼ばれるものだったはず。

 不思議に思い、顔を上げれば、黒真珠の瞳が光を灯してこちらを見つめ返し、耳元へ唇を寄せてふわりひそりと囁いた。

 囁きは月虹の音色を響かせながら、『私』が辿ってきた道、辿るべき道、過去の、未来の、現在の、ありとあらゆる『私』の原点にして深層に眠る真理を紐解いていく。

《針》は天上の旋律を伴いながら、揺れる、揺れる、揺れて、示す。

 なるほど、コレは己との対話だ。

 真の自分、真の理想、真の在り方。

 自分の中にある答えを求めて己に向き合い、虚像から取り出した自分の《本当》を知るために、《針》は揺れるのだ。

 ひとつひとつを内側から取り出し、時にこぼれ落ちそうになりつつもソレを掬いあげては問いに変えていくたびに、《針》は最良の選択を提示してくれる。

 同時に、《針》もまた羅針盤を通じ、こちらへ問いを投げかけてきた。

 表層を撫でる偽りの真実に惑わされないよう、神聖なる焔が魔を祓うかのごとく、疑心を穿つ力を見せる。

 

……あ、ああ、思い出した……そう、私は……

 

 摩耗し見失っていたものが、戦い続けた旅の途中でふるい落としてしまった願いが、自分の中へと戻ってくる。

 何を成し得たかったのか、誰とともに在りたかったのか――そう、ひとりではなく誰かと在りたいと願う自分がいたことも今思い出した。

 孤独感に蝕まれ、臆病になり、ひとを遠ざけ始めた時から、進むべき《道》を違えたのだと知る。

「行くべき道は、あるべき場所は、目指すべき先は……

 口からこぼれた言葉は、美しき紋様の刻まれた黒曜の海に光の道を生み出していく。

 傍らに寄り添う月の花をまとった彼女の手をにぎり、癒されながら、護り護られながら、語り合いながら、《針》を導に、歩き出す。歩き出せた。

 呆然と佇み、震える『私』はもういない。

 自分が自分であると知れる。

 進むべき道が見え、決めるべき時がわかり、やるべきことも持つべきものも迷うことなく自身で選び取ることができる。

 『私』は『私』、自分らしく、臆することなく、自分の真実の声に耳を傾け、決断していけるのだ。

 展開された《羅針盤》と託されたこの《針》が、本当の幸い、真に望む未来へ進む導きの星となる。

 そして、自分はもう二度と、ソレを見失うことはない。

……ありがとう……もう大丈夫」

 自然と口にした言葉は、彼女と同じ月の旋律を帯びて響き――

 

 

……ここは」

 

 光の道も凍れる海原もなく、けれどいつかみた懐かしき《誓いの森》の前に立っていた。

 惑いを抜け、孤独の海を乗り越え、冴えわたる紺碧の空のもとへ戻ってきたのだと理解した瞬間――気づく。

 月光石の花をまとった、あの不可思議なほどの既視感を覚えた彼女は、あれは、世界線を超えてきた『もうひとりの私』だ。

 

 確信すると同時に胸の奥からこみあげてきた想いは涙と笑みに変わり、手の中に残るペンデュラムへとそそがれる。

 

 


 Copyright 物語ライターりん




◆天ジュラム認定講師 おおざわ奈美さま

『しゃべる羅針盤』として、悩める起業女性の「こうしたい!」を具現化してくださるナミ先生。

本当は何がしたいのか、どうしたいのか、どう進んでいけばよいのかが見えてくる、やわらかくも頼もしいサポートで「自分らしさ」を見つけたい方はぜひ。

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