ベタなタイトルですが。

勘違いして、やきもちを焼く蓮を書きたかっただけなんです。

いつもか?

☆☆☆☆☆



『若女将は女子高生』



その日、キョーコは椹から、新しい仕事の依頼が来ていると言われて、喜びいさんで事務所に足を運んだ。

昼ドラの主役で、スケジュールはかなりハードだが、ほとんど夏休み中に撮り終えてしまうということで、学校の心配もしなくて良い。 なにしろ初主演だ。いい仕事には間違いない。

「どんなお話なんですか?」

わくわくしながら、キョーコは続きを促す。

「小さい頃から見よう見真似で家の仕事を手伝ってきた女の子が、突然親を亡くして、家業を継ぐことになるんだが、持ち前の明るさで、学校に通いながら仕事もこなしていくって、がんばりやな女子高生の話なんだ。最上さんにぴったりだろ。うまくいけばシリーズ化もあるかもしれん。」

「素敵なお話ですね。ぜひやらせていただきたいです。なんていうタイトルなんですか?」

「若女将は女子高生」

「若女将って、おうちの仕事ってもしかして・・・」

「旅館だよ。旅館の若女将役。最上さんは姿勢もいいし、着物も着こなせるそうだし」

「お断りします。」

キョーコは思わず椹の話をさえぎっていた。

「は?今さっきやらせていただきたいって・・・」

「無理です。しゃれにもならないです。」

「どういう意味だそりゃ。」

「いえ、なんでもないです。とにかく申し訳ないのですが、このお仕事はお断りさせていただきたいです。」

「いや、そういわずにもう少し考えてから返事をしてくれよ。三日間の猶予をあげるから。」

理由も言わずに断ろうとするキョーコに、椹は噛んで含めるように、そう言い渡した。



そのあと、ラブミー部の部室で、キョーコは壁に向かって蓮のドールに相談していた。

「イメージチェンジ、ステップアップのチャンスでもあるんですが・・・」

『だったら迷うことはないだろう?』

「だって、旅館の若女将になるなんて・・・」

『君はチャレンジもせずに逃げる気か?』

蓮の声真似をさえぎるように、キョーコの背後から低い本物の声が飛んできた。

「今のどういう事?」

蓮の機嫌はかなり悪そうだ。

(はぅ!また真似してるとこ聞かれちゃった!!)

「つ、敦賀さん!・・・すみません。」

(こんな仕事に対して後ろ向きな事言ったらまたあきれられちゃいそう。)



「旅館の若女将になるって聴こえたんだけど。」

「あ!・・・はい・・・。」

(やっぱり聞かれてた!・・・ドールは見えてなかった?)

あわてながらうなづくキョーコに、蓮はあらぬ妄想にとりつかれていく。

(肯定か!不破の実家の旅館を継ぐって事なのか・・・?まさか・・・)

「・・・結婚、するの?」

「え?いえ、まだよくわかりません。(まだ台本見てないし。)まだ高校生ですから、するとしても、大分先になると思いますよ。」

唐突な質問に、椹からもう少し詳細を聞いておくべきだったかと、考えながら話すキョーコに、蓮の妄想は加速する。


(
まだ高校生だからってことは、将来的には結婚するって事なのか。不破に告白でもされて、復讐する必要がなくなって、女優も辞める気か?)



「最上さんはどうしたいの?」

「・・・実は、迷ってるんです。」

「女優の仕事を投げ出す気か?」

(敦賀さんの刀はいつにもまして切れ味がいいわ!そうよね、個人的な葛藤なんて仕事のためだもの。乗り越えてみせる!)

「敦賀さん・・・。そうですよね。わかりました!私、若女将がんばってみます!」

「女優を辞めるの? (アイツを選ぶの?そんな事許さない!)

励ましてもらえると思っていたキョーコは、あまりにも鋭い蓮の視線に驚いて息をのんだ。

(なんで怒ってるのー?)

「え、と。敦賀さん? なんで怒っているのか良くわからないんですけど。・・・私、お仕事引き受けますって、がんばってみますって言ったんですけど? どうして女優を辞めるなんて話になるんですか!?」

「!?」

はじめ戸惑っていたキョーコだったが、話しているうちに次第に逆ギレ気味になり、それに驚いたような蓮としばし見つめ合ってしまった。



「あ、の。ごめん。 若女将って仕事の話?」

「それ以外に何があるっていうんですか?」

トーンダウンする蓮に、キョーコの機嫌も悪くなる。

「ごめん、てっきり、不破の実家の旅館の若女将になるのかと・・・」

「はあ!? あるわけないじゃないですか!そんなこと!どうしてそんな話になるんですか!?」

想像を絶する蓮の誤解に、思わずキョーコは怒鳴ってしまった。

「あ、すみません。あんまりなお話だったので、つい・・・」

「いや、俺の方こそ、本当に悪かった。」

互いに謝ったことで、やっとほっとした空気が流れる。



「仕事を請けようか迷っていたの?」

「はい。役柄が役柄ですし、過去の自分を思い出して、腹立たしい気持ちって言うか、忘れてしまいたいって言うか・・・」

言いよどむキョーコの気持ちは、蓮にもわかった。

「でも、請けることにしたんだね。」

「はい。さっき敦賀さんに、女優の仕事を投げ出すのかって、言われて、目が覚めました。 自分の過去とか、つまらないことにこだわっていては前に進めないって。」

勝手に勘違いして、嫉妬のあまりに投げつけた言葉に対し、純粋に叱咤激励だと思い込んでいるキョーコに、蓮は本当に申し訳ない気持ちになった。

「ごめんね。 でも、いつでも聞くから、それじゃなくて、本物の俺に相談してくれる?」

はっと、気付くと、蓮がキョーコの手を指差していた。

後ろ手に隠していたドールをいつのまにか出していたらしい。

「こ、これは・・・・。・・・すみません。」

「いや、それはもういいよ。前に身売りされたの見たから、免疫はできてるし。」

「あの節は・・・重ね重ね申し訳ありません。」

「最上さんに持ち歩いてもらえてるのは、うれしいかも?」

「え?」

「いや、いいんだ。だから、俺に相談してね。」

蓮の笑顔にひるんだキョーコが、それでも小さくうなづいたことに満足した蓮は、入ってきたときとはうってかわった足取りでラブミー部を出ていった。



「・・・つ、つかれた・・・。・・・敦賀さん、何しに来たんだろ・・・。」

机に倒れこんだキョーコは、手にもったままの蓮のドールに目をやった。

「見つかっちゃった・・・。でも、怒られなかった。」

ドールを座らせて、その前で姿勢を正す。

なんだかよくわからない蓮との会話だったが、俄然やる気が湧いてきた。

こんなところで足踏みなんかしていられない。

敦賀さんに追いつかなくちゃ。

ちょっと話しただけで、こんなにもふっきれるなんて。

やっぱり、敦賀さんってすごい。

魔法使いみたい。

ふふ。

「・・・がんばります。これからもよろしくお願いします。」


                           Fin