ヒポクラテスたち | ロロモ文庫

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洛北医科大学の医学部図書館で試験の結果はどうだったと王に聞く河本。「まあまあやろ」「まさか避妊法が出るとはなあ。あんなの講義でやったんか」ちゃんとやったと言う大島。「出てなかったんやろ、講義」ああいうのは講義に出てなくても、なんとか書けるやろと言う加藤。「だいたい避妊法なんて講義室で教わるもんやないやろ」「しかしあんな時に膣外射精なんか書いていいものかねえ」「あ、あれは邪道だ」

「しかし、膣外射精でなんで妊娠するんやろ」「それはエロチックな興奮ですでに精子の一部が漏れ出してるとか、ないとか」「そういえば、漏れ出したりしたような気の時もあったなあ」「え、ほんまですか、加藤さん」嘘に決まってるでしょう大島に言う木村。「あまり未婚者をいじめちゃダメですよ、加藤さん」「木村さんは試験できました?」「まあまあかな」「いっぱい書いてたからな。特に避妊法のところ」「河本君、私の答案見てたの?カンニングじゃない」「いや、すぐ前ですからね」「遅いな、荻野。まだ教室にいた?」「私が出た時は、まだいたわ」

産婦人科の試験って何かいやらしいのねと萩野に聞く順子。「避妊法って堂々と出るんでしょう」「誰か図書館で喋ってたんか?」「膣外射精がどうだこうだとうるさかったわよ。できたの?愛作は」「うん。あの問題はなんとか」「そう。できたの。こういうのも医者の不養生って言うのかしら」「なにや、それ」「いくら試験ができても、現実の方で間違えたらしょうがないってこと」「え?」「私,生理がないの」

<医学部の最終学年はポリ・クリと呼ばれる臨床実習にその一年があてられる。6,7人に分けられたグループが、内科、外科、整形外科、小児科から、泌尿器科、耳鼻科、眼科まで17くらいの各科を一週間くらいのローテーションで回っていくのである。その内容は外来の診察、ベッドサイドチーティング、手術見学など、現在の病院で行われる医療行為に初めて触れていくわけである>

<わがグループの今週のポリ・クリは産婦人科である。ここで予診を取り、カルテを書いたら奥の診察室に行き、そこで教授が自分たちの患者が診察するのに立ち会う。その際、予診だけである程度の診断をつけてなくてはならない。当たり前の話だが、産婦人科の患者さんは全て女性である。だから患者さんも同性の女性にはなんでも話しやすいのやろう。わがグループの紅一点のみどりちゃんは、なんとなく今週はやりやすそうや。なにせ先週の皮膚科はインキンの若い男性患者に診察拒否されて、彼女の女医の卵としてのプライドは相当傷ついたからな>

医者に見せるのはいやかと荻野に聞かれ、赤の他人の前で股を広げるのを好きな人はいないと答える順子。「股を広げても誰も叩いたりはせんよ」「なんとかわかんないかしら。妊娠かどうか」「うん」「あんたもお医者さんの学校に行ってるんでしょう。ホントに毎日何習ってるの?」「すいません」<コンドーム、つけてやらねば、面倒生む>

荻野は病院に妊娠検査薬を無断拝借し、順子の尿を検査する。「どう?」「やばいなあ。本物らしい」<女の一生は大きく次の三期に分かれる。少女期、成熟期、老年期。そしてそれぞれの移行期が思春期、更年期に当たり、初潮は思春期に、閉経は更年期に見られる>

高校生が中絶のために大学病院に来たことについて話し合う荻野たち。「堕ろしたいんですか。ああ、あの可憐な少女が」「いや、今の高校生は加藤さんが高校生だったころとはだいぶ違うんですよ」「そういう問題じゃないんだ。覚悟の問題なんだ」「そんなこと言いながら、加藤さん、自分のガキができるたびにオロオロしとったじゃないですか」「あれはあれ、これはこれ」

「しかし、何考えとるんや、堕胎なんて。こんな公立の大病院。しかも教育病院やぞ。そんなところでホイホイ気軽に堕胎をやってくれると思うとるんか」「大島、何をそんなに怒っとるんや、アホか、お前は」「だってそうでしょう。これは覚悟の問題じゃないですよ。常識の問題ですよ」「常識がないんじゃなくて、うちの病院が名前の通った病院なんで、大きくて設備が整ってるから、彼が連れてきたかもしれないじゃない。得体のしれない堕胎医に見せたくないと言う理由で」「なるほど。木村さんは愛情の問題と言うわけですね」森田産婦人科で中絶手術を受ける順子。女に撃ち殺される夢を見る荻野。

ポリ・クリでさまざまな科を回る荻野たち。注射がうまくいってよかったなと大島に言う加藤。「相手はやくざ。失敗したら訴訟だけではすまんことになりますよ」「下手したら指つめもんだ」「やめてくれよ。将来、手術できんようになるわ」まだ野球部に入ってるのかと王に聞く萩野。「ああ、高校の時も最後までやったからな。甲子園には行けんかったけど。目ざすは打って投げて守れる医者や」「なんや、それ」子供は面白いぞと萩野に言う加藤。「お前も早く作れよ」「作ってどうするんですか」「オヤジになるんだよ」

長時間の外科手術の見学をして疲労困憊状態になる荻野たちを叱咤する助教授の徳松。「あれだけでバテとるんか。情けないなあ。お前ら、医者になって大金を儲けたろうと思うとるかもしれんけど、医者だからと言って、デレエっとして金が入ってくるわけやないんよ。年間8000人近くが医者になってるんだから、今は。そのうちに医者なんかダブダブに余ってしょうがなくなるぞ。僻地に行ってもダメだよ。今は自治医大からちゃんと僻地に医者が来ることになってるんだから」

「甘くはないよ。労働時間なんかケジメつかなくなっちゃうんだから、医者になっちゃうと。おまけになあ、下手な治療なんかやってごらん。患者なんか、昔とは大違いなんだから。一発で膨大な損害賠償払わなきゃいけなくなるんだ。お前らに18億払えるか。それが払えず医者をやめたのがアメリカではゴロゴロしてるんだから。君たちには知識も経験も技術もない。あるのは体力だけだろ。それがこんなことくらいでバテとって、どうするのよ。生き残れないよ」

荻野たちに人間の病気で名前があるのはどれくらいあるか知ってるかと聞く内科教授の近藤。「2万5000くらいあるらしいね。じゃあ、その中で治療法がわかってるのは、いくつくらいあると思う?」「半分くらいですか」「いや、せいぜい5000に過ぎないらしいな。ま、難しい医学書ばかり真実が書いてあるわけじゃないんだな。ちょっとしたミステリーにも真実が書いてあるわけだな」

具合が悪くなり電話で萩野を呼ぶ順子。「手術した日から、時々出血してたのよ」「なんで電話に出なかったんや」「私、医者がなんだか好きになれなかったの。ここんとこずっと」「俺はまだ医者じゃないよ」苦痛にあえぐ順子に聞く萩野。「やっぱり、うちの病院に行くのはイヤやろ」「どこでもいいから早く連れてって」「そんなこと言っても、知ってる先生ばかりやろ。俺、何となくイヤやな」

河本に電話し、順子を河本の車に乗せる荻野。「どこかにお目にかかった人かと思ったら、図書館のおねえさんですね。お前、いつひっかけたんや」「8年前や」「え」「高校の同級生なんや」「ああ、そう」

一応、緊急の止血はしたと萩野に言う河本の父。「夜中に大変ご迷惑をかけました」「はは。こないなことはしょっちゅうや。それより、うちの勉強しよらん息子、他の優秀な人たちに迷惑かけとるんと違いますか。ははは」「……」「しかし、一応入院させて詳しく調べたほうがええやろうな。最近、うちはベッドの数を減らしとるんや、手間ばっかりかかって。ほんま、個人病院はつらいわ。ええように見えるけど。ははは」

うちに電話したんでしょうと言う順子にしょうがないやろと答える萩野。「バンドエイド貼っときゃ治る傷やないんやから」「誰が出た?」「オヤジさんが出た」医者が大嫌いな人間はいっぱいいると言う萩野。「医者が大嫌いな人間と、大好きな人間。そして俺みたいに大好きなのか大嫌いなのかさっぱりわからん人間。この3種類しかおらんのとちゃう」「私も三番目みたいだね」

立派な病院やなと河本に言う荻野。「お前はあそこの跡を継ぐわけか」「まあな。いずれはあそこの若先生ですよ、これでも」「医者のドラ息子ちゅうわけやな」「そのドラ息子がなぜかある日突然、医者が面白そうだなと思ったわけですよ」「オヤジ殿の医師として働く姿に胸を打たれましたかな」「冗談やないですよ」「え」「オフクロの子宮がんにも気づかなかったダメな産婦人科の先生ですよ、あの人は」「……」前はいつ辞めてやろうかと思うてたと話す河本。「ところがですよ、こう見えても、自分が医者になりたいと思うことが、月に4回はあるんですよ」「俺はその逆が月に4回はある」

娘が世話になったと萩野に言う順子の父。「ちょっと見んうちに随分立派になって。お医者さんの風格が出とるやないか」「いえ」「はよ卒業して故郷に戻っておいでや。立派な病院もできたことだし、みんな待ってるぞ」「はあ」順子はお父さんのご希望で舞鶴の市民病院に移ることになったと話す河本の父。「あいつも入院となると、一人じゃ心細いやろしな」「はあ」

こんな形で故郷に帰るとは思わなかったと荻野に言う順子。「ぞっとしないわね。ぶざまだわ。最低よ」「悪かったと思ってる」「じゃあ、またね」<そして順子は二度と京都に出てくることはなかった>

緊急医療の見学に行き、5階の待機室に行く萩野と木村。「こんなとこで一晩待つの」「お互い、変な気を起こさんようにしような」「変なことは言わないで」「ごめんごめん」「そういえば先週の河本君と大島君の時は、凄いオートバイの事故が来たそうよ」「暴走族か」「ううん、一人で走ってたらしい。覚せい剤やって。大島君がえらい怒ってたわ」「なるほど。常識の問題ちゅうやつやな」「荻野君にも大島君の半分くらいの常識があればね」

誰も来なくて退屈だと言う萩野に、来ない方がいいじゃないと言う木村。「人の不幸を待っているようなものだから。誰も来ない方がいいことなのよ」「なるほど。それにしても暇やな。何か話でもしよう」「いいわよ、何の話」「そやな。河本との恋の話なんか、どうや」「やだ、あれは恋ってもんじゃないわよ」「なら、なんや」「恋は恋でも、セコイってとこかな」「外身は濃いでも、中身は薄いか」

宿直室で注射する木村に何をしてるのかと聞く萩野。「私の血よ」「え」「時々こうやって、自分で自分の血を抜いて遊んでいるの」「俺はまたヘロインかと思ったよ」「冗談でしょ。時々、自分の血が自分の体にしっくりしてない気がするの。バカみたいでしょう」「バカみたい。それに危ないぞ。貧血起こすぞ」「大丈夫よ。ちゃんと牛乳飲むし、尿だって正常です。またどんどんできるわ、新しいのが」

緊急外来の患者が現れ、その手術を見学する萩野と木村。「だめだ」「午前5時58分です」「家族の方は来てますか」めまいを起こして倒れる木村を支える萩野。「ちょっと血を抜きすぎたかな」「そうだな」「何度人の死んでいくところを見なければならないのかしら、この先」

国家試験を受けるのを辞めようかと思うと話す木村。「人の生だとか死だとかに携わる資格が私にあるのかなと思って」「そんなことは誰にも決められんよ」「高校の時は男に負けるかと一生懸命勉強してね。トップなんか争って、受験したのが医学部よ。そしてそのまま合格したんだけどね」「確かに医学部に合格したちゅうことは、医者に合格したちゅうことにはならんもんね」

そりゃあないと木村に言う王。「君が合格したから落ちた奴もおるんやで。100人合格して、101番目に落ちた奴が」「それ、お前の知り合いか」「俺の兄貴や。5浪して最後は俺と一緒に受験して、とうとうあきらめたんや」「ごめんなさい」「謝らんでもええわ。今や兄貴も二児の父で、ちゃんと中華料理屋を開いとるわ」

国家試験の勉強する萩野は新聞で森田産婦人科が5年間無免許で診察・手術していたことを知る。<ええ、ここがその森田産婦人科なんですが、実はここの院長の妻が5年間も無免許で診察どころか、驚くべきことに手術まで行っていたと言うことなんです。この事実がどうして明るみに出たかと言うと、ここで中絶手術を受けて不妊症になった仮にA子さんと言う女性が、他の医院で診察を受けて、森田産婦人科の中絶手術がその不妊の原因であることが判明したからです>

ショックを受けた荻野は、精神に変調をきたし、白衣をマジックで真っ黒に塗りたくって、洛北医科大学付属病院に行き、河本達に暴行を加え、精神病棟送りとなる。

それから一年後。(荻野愛作。一年間の治療を終えて、大学に復学。その次の年の春、無事大学を卒業することができた)(大島修。卒業後、洛北医科大学付属病院の産婦人科に入局。研修医をしている)(河本一郎。卒業後、実家の産婦人科には進まず、洛北医科大学付属病院の泌尿器科に入局。研修医をしている)

(加藤健二。卒業直前に三人目の子供が誕生。そのためか春の国家試験には不合格であった。そして秋の国家試験に向けて準備中。そして臨床検査のアルバイト先で誤って自分の腕に肝炎血清を刺してしまい、医者になる前に入院患者になってしまった)

(王龍明。卒業後、地元の神戸に戻り、港を見下ろす病院で、整形外科の研修医をしている。その年の夏の大会で、彼は念願の甲子園の土を初めて踏むことができた。試合中のけがなどの応急処置のための救急班のアルバイトだった。もちろん、彼は甲子園の土を持って帰ることを忘れなかった)

(木村みどり。卒業試験の最中、突然、退学届けを出し、そのまま睡眠薬を飲んで自殺。退学届けは受理されず、学生たちによって学生葬が行われた)