緑柱石(ベリル)の王冠 | ハロー,サマー・グッバイ. 石のアクセサリー、レザークラフト、ワイヤーの作り方や販売

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アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズ・シリーズの短編に、『緑柱石(ベリル)の王冠』と、いうものがある。

とある貴族(おそらく英国皇太子のエドワード7世だが、物語中では『とある高貴な人物』、とされている)がカネに困って、みごとな緑柱石が16個セッティングされたエレガントな王冠を質屋に預けてカネを借りる。しかし質屋は家族のトラブルからその王冠を破損してしまう。もっとも大きな3つの緑柱石が盗難にあい、質屋の主人は困り果ててシャーロック・ホームズに解決を依頼する、と、いう物語である。

ここで注目したいのは、翻訳の妙だ。原題は『The Adventure of the Beryl Coronet』。小ぶりな王冠にセットされた宝石があちこち冒険する、と、いうドイルらしい湾曲表現をつかった見事なタイトルだ。しかしながら、直訳で、大粒の緑色のベリル、と、こう翻訳されても我々日本人にはピンとこない。

ベリル?なにそれ高価な宝石???と、思うだろう。

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恐らく翻訳者は宝石について詳しくなく、そのまま翻訳したのだ。ここでいう、濃いグリーンのベリルというのは、エメラルドの事である。

大粒のエメラルドが16個もセッティングされた王冠!そしてそのうちの巨大な3つのエメラルドが行方不明!?、と、こう翻訳すれば、「おおおおおお!それは高価に違いない!シャーロック!それを探して事件を解決して!」と、読者は思うだろうが、いかんせん、翻訳者はエメラルドとは謂わず、『大粒の緑色のベリル』と、訳してしまった。これでは鉱物の知識がない一般的な読者は、その希少性に気付かず、ぼんやりとその王冠を想像するのみにとどまる。

物語の緊張感は台無しだ。

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こういったジレンマは、我々のようなジュエリー作家にも共通する。

ライトなファッションで身に付ける宝石、という意識を持つ多数派の層は、宝石の質も、ジュエリーの技巧も気にしない。デパートでなんかキラキラした指環を買えばいいんじゃない?ってなもんである。

かたや、鉱物マニアのおっさんは、そのオタク気質で以てして蘊蓄を語り、ライトな女性ユーザーを遠ざける傾向にある。

ジュエリー作家はライトなジュエリー・ファッション層、オタク気質なマニア層、と、いう相反するユーザーを相手にせねばならないのだ。

我々、ハンドメイダーは、どちらにも解りづらい、『ベリルの王冠』を作ってはならない。