【六車奈々、会心の一撃! ~懺悔~】
サンテレビ『原田伸郎のめざせパーゴルフ』のアシスタントをさせて頂いていた時、ロケで北海道へ行った。
海に面したゴルフ場。お天気にも恵まれ、素晴らしい景色を眺めながらの収録となった。
番組には毎回、ゲストが二人登場する。
レギュラー出演者である原田伸郎さんと井戸木鴻樹プロ、そこにゲストお二人が加わり、伸郎チームvs井戸木プロチームに別れて対戦する。今回のゲストは、女子プロゴルファーと元プロ野球選手のパンチ佐藤さんだった。
私が準備を終えて待っていると、パンチさんがやって来た。
「アシスタントの六車奈々と申します。よろしくお願い致します。」
とご挨拶をした。
大抵の場合、挨拶を返していただき、自己紹介は終了する。
ところがパンチさんは、すぐに
「は?今なんと仰いました?お名前をもう一度教えて頂けますか?」
と確認された。
ほとんどの人は、私の名前が珍しくて聞き取れなくても、聞き返されることはない。
番組が始まって、ある程度親しくなってから
「もう一度お名前を教えてもらえますか?」
と聞かれるパターンの方が圧倒的だ。
しかしパンチさんは、その場ですぐに聞き返された。なんて率直で律儀な方だと思った。
「あ。聞き取りにくくてすみません!『六』に『車』と書いて、『ろくしゃ』と申します。」
「はぁ~!『ろくしゃ』さん!それは珍しいお名前ですね!どうぞよろしくお願い致します!」
パンチさんは、深々と頭を下げられた。
なんとまぁ礼儀正しい方なんだろう!
私は一気にパンチさんのファンになった。
さて出演者の準備が整い、いよいよロケがスタート。両チームともティーショットから順に打ち、いよいよグリーンまでやってきた。
グリーンからは、美しい海が見える。青い空に青い海。
さぁ、この素晴らしい景色を前に、パター対決だ!
まずは最初にパターをした伸郎さん。
打った瞬間、
「うわぁ!ホンマや~!海に吸い込まれるーっ!」
と感嘆の声を上げた。
続いてパターをした井戸木プロも、
「ホンマですね!これは速い!海に吸い込まれる!」
と驚いた様子を見せている。
へ?なんだなんだ?
海に吸い込まれるって、どういうこっちゃ?
私は驚いて、近くにいたゴルフ場の人に聞いた。すると、
「ここのグリーンはね、ボールが全部、海に吸い込まれて行くんですよ。」
という答えが返ってきた。
なんとまぁ!
地球の摩訶不思議なことよ!
メカニズムはわからないが、どうやら海には、ボールを吸い込む力があるらしい。
「はぁ~。地球って、すごいなぁ。」
私はすっかり感心してしまった。
あまりに感心したので、隣にいたパンチさんに、
「ねぇねぇ、パンチさん!凄いですよ!」
「どうしましたか?」
「あのね、ここのグリーンではね、ボールが全部、海に吸い込まれてしまうんですって!地球って凄いですよねー!」
私は興奮しながら伝えた。
するとパンチ佐藤さんも驚いた様子で、
「へぇーっ!それは凄いですね!あ!六車さん。知ってましたか?朝顔はね、時計と逆回りにしかツルを巻かないそうですよ!」
「えーっ!?そうなんですか!!それはスゴイ!地球とか自然って、本当に不思議ですよねぇー!」
「いやぁ、不思議ですよねぇ。」
パンチさんと私は、感心しながら次のホールへと向かった。
それにしても、海はどうやってボールを吸い込むのだろう。
ロケが終わり、ゴルフ場をあとにした車中で、そのナゾが解けた。
「いやぁ、それにしてもあのグリーン、海に向かって速かったねぇ!!!」
「伸郎さん!私もビックリしました!何でボールが海に吸い込まれるんやろう?」
「あそこのゴルフ場のグリーンの芝がね、海に向かって順目に生えてるんやって。だから海に向かって打つと、球が速くなるねんて。」
え。。。
『海に吸い込まれる』って、そういうことだったの?
つまり、芝目が海に向かって順目になっている。だから海に向かって打つと速く転がり、海と逆方向に打つと、逆目になって転がりにくいということ???
ナント!
そういうことだったのか!
だから原田伸郎さんたちは
「ホンマや~!海に吸い込まれるーっ!」
とか、
「あかんわ。海に逆らったら届かへんかった。」
とか、言っていたのだ。
どうしよう。
パンチさんに間違った情報を教えてしまった。
律儀で真面目なパンチさんは、信じたに違いない。だって、朝顔のツルの話まで引き合いにして感心していたもの。
どうしよう。。、
しかしパンチさんとはお別れしてしまい、今さら訂正することは不可能だった。
パンチさん!!!!!
あれから20年ほど経ちましたけど、、、
「海に吸い込む力はありませんでしたー!
ごめんなさーい!」
note:『六車奈々、会心の一撃!』