こんにちは。社会保険労務士の樋口です。

 

「産業医・産業保健機能の強化」は、2019年4月施行済の改正事項です。

 

1.産業医に対する情報提供等の充実・強化

 産業医とは、労働者の健康管理等について、専門的な立場から指導や助言を行う医師のことです。労働者数50人以上の事業場においては、産業医の選任が義務付けられています(労働安全衛生法13条1項)。

その産業医が、労働者の健康管理等を行うのに、より一層効果的な活動を行いやすくするため、下記条文が新設されました(労働安全衛生法13条4項)。

 

産業医を選任した事業者は、産業医に対し、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の労働時間に関する情報その他の産業医が労働者の健康管理等を適切に行うために必要な情報として厚生労働省令で定めるものを提供しなければならない。

 

 「…厚生労働省令で定めるもの」とは、以下のとおりです。

(1)健康診断や面接指導実施後、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等、事業者が講じた(又は講じようとする)措置

(2)いわゆる法定外労働が、1月当たり80時間を超えた労働者の氏名及び超えた時間に関する情報

(3)(1)(2)に掲げるもののほか、労働者の業務に関する情報であって、産業医が労働者の健康管理等を適切に行うために必要と認めるもの

 

 

2.産業医の活動環境の整備

(1)従来から、産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができるのですが、「この勧告を事業者は尊重しなければならない」という一文が加わりました。

(2)また、事業者は、産業医からの勧告内容等を、衛生委員会等に報告する義務が課されるようになりました。

(*)「衛生委員会」とは、労働者の健康管理等について、労使が協力して効果的な対策を進めるために、事業場に設置する委員会です。労働者数50人以上の事業場においては、「衛生委員会」の設置が事業者に義務付けられています。

 

 

3.労働者に対する健康相談の体制整備等

事業者が、「産業医等」による労働者の健康管理等の適切な実施を図るため、「産業医等」が労働者からの健康相談に応じたりするための必要な措置を講ずることが努力規定として新設されました(労働安全衛生法第13条の3)。

 

なお、労働者数50人未満の事業場においても、「医師又は保健師」に労働者の健康管理等の全部又は一部を行わせるように努めなければなりません(労働安全衛生法第13条の2、1項)。「産業医等」とあるのは、この場合の「医師又は保健師」を含んでいます。

 

 

4.長時間労働者面接指導の拡充

従来から、いわゆる法定外労働が、「1月当たり100時間を超えた」労働者が申し出た場合、事業者は、医師による面接指導を行わなければならないとされてきました。面接指導とは、問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うことをいいます(労働安全衛生法66条の8)

今回、この「1月当たり100時間を超えた」が「1月当たり80時間を超えた」に改正されました。

 

また、新商品の研究開発業務従事者や高度プロフェッショナル制度適用労働者については、いわゆる法定外労働が1月当たり100時間を超えた場合、労働者の申し出の有無に関わらず、事業者は、医師による面接指導を行わなければならないこととなりました(労働安全衛生法66条の8の2、66条の8の4)。

違反した事業者には、50万円以下の罰金が科されます。