こんばんは。社会保険労務士の樋口です。

 

高度プロフェッショナル制度は、高度の専門的知識等を有し、職務の範囲が明確で一定の年収要件(1,075万円以上)を満たす労働者を対象として、労使委員会の決議及び労働者本人の同意を前提として、年間104日以上の休日確保措置や健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置等を講ずることにより、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定を適用しない制度です。

 

本制度を導入するためには、労使委員会の委員の5分の4以上の多数により以下(1)~(10)の決議を行い、その旨を所轄労働基準監督署長に届け出なければなりません。そのうえで、対象労働者の同意を得る必要があります(労働基準法第41条の2)。

 

(1)対象業務

高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められ、かつ、当該業務に従事する時間に関し使用者から具体的な指示を受けない、次のいずれかの業務を言います(労働基準法施行規則第34条の2)。

①金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務

②資産運用の業務又は有価証券の売買その他の取引の業務のうち、投資判断に基づく資産運用の業務、投資判断に基づく資産運用として行う有価証券の売買その他の取引の業務又は投資判断に基づき自己の計算において行う有価証券の売買その他の取引の業務

③有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務

④顧客の事業の運営に関する重要な事項についての調査又は分析及びこれに基づく当該事項に関する考案又は助言の業務

⑤新たな技術、商品又は役務の研究開発の業務

 

(2)対象労働者の範囲(次の①②いずれにも該当)

①使用者との間で書面等の方法による合意に基づき職務が明確に定められている

②労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額を1年間当たりの賃金の額に換算した額が、基準年間平均給与額(毎月勤労統計調査により算出される額)の3倍の額を相当程度上回る水準(年収1,075万円)以上である

 

(3)健康管理時間の把握

対象業務に従事する対象労働者の健康管理を行うために、対象労働者が事業場内にいた時間と事業場外において労働した時間との合計の時間を把握する措置を使用者が講じなければなりません。

 

(4)休日の確保

 対象業務に従事する対象労働者に対し、1年間を通じ104日以上、かつ、4週間を通じ4日以上の休日を当該決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者は与えなければなりません。

 

(5)選択的措置

対象業務に従事する対象労働者に対し、次のいずれか該当する措置を当該決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が講じなければなりません。

 ①勤務間インターバルを確保(11時間以上)し、深夜業の回数を制限(1か月に4回以内)する

 ②1週間の健康管理時間が40時間を超える時間について、1か月あたり100時間以内又は3か月あたり240時間以内とする

③原則として、1年に1回以上の連続2週間の休日を与える

 ④1週間の健康管理時間が40時間を超える時間について、1か月当たり80時間を超えた対象労働者又は対象労働者から申出があった場合、臨時の健康診断を実施する

 

(6)健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置

対象業務に従事する対象労働者の健康管理時間の状況に応じた、対象労働者の健康及び福祉を確保するための措置であって、次のいずれかに該当する措置を使用者が講じなければなりません。

①「(5)の選択的措置」のいずれかの措置((5)の決議で定めたもの以外)を行う

②健康管理時間が一定時間を超える対象労働者に対し、医師による面接指導を行う

③対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、代償休日又は特別な休暇を付与する

④対象労働者の心とからだの健康問題についての相談窓口を設置する

⑤対象労働者の勤務状況及びその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をする

⑥産業医等による助言若しくは指導を受け、又は対象労働者に産業医等による保健指導を受けさせる

 

(7)同意の撤回に関する手続

対象労働者の同意の撤回に関する手続を決議しなければなりません。

 

(8)苦情処理措置

対象業務に従事する対象労働者からの苦情の処理に関する措置を使用者が講じなければなりません。

 

(9)不利益取扱いの禁止

使用者は同意をしなかった対象労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはなりません。

 

(10)その他厚生労働省令で定める事項

①決議の有効期間の定め及び当該決議は再度決議をしない限り更新されない

②労使委員会の開催を、少なくとも6か月に1回 、所轄労働基準監督署長への定期報告を行う時期に 開催する

③常時50人未満の事業場である場合には、労働者の健康管理等を行うのに必要な知識を有する医師を選任する

④労働者の同意及びその撤回、合意に基づき定められた職務の内容、支払われると見込まれる賃金の額、健康管理時間の状況、休日確保措置、選択的措置、健康・福祉確保措置及び苦情処理措置の実施状況に関する対象労働者ごとの記録並びに③の選任に関する記録をの決議の有効期間中及びその満了後3年間保存する

 

 まあ、なんとも複雑ですね。この高プロ制度は2019年4月から施行されていますが、ほとんど導入する企業がないようです。そもそも年収1,075万円以上の労働者数は少ないですし、上記手続きの煩雑さが拍車をかけているようです。

 

 では、おやすみなさい。