函館で旅行者に大人気の洋菓子店。
旅先の貴重な時間を、行列に費やす人々がいる。

旧世代の旅行者には信じがたい風景である。

日常を離れ、遠い町での滞在中、
できるだけ、その町ならではの風景を探しに行きたい、という目や足と
美味いもの、評判のものを食いたい、という胃袋との間で
時間の奪い合いが起こる。

旧世代にあっては、
強欲な胃袋も、昼間は文句なく目に譲り、
自分の出番は、夜くらいなものだと割り切っていた。
そして夜さえ、言いなりで、
目が選び、足の向くまま連れて行かれた店でようやく、
胃袋の時間が始まるのだった。

一方、新世代にあっては
朝昼晩、主要な時間は胃袋が独占する。
目はまさに、胃袋の「メシ使い」であって、
胃袋様のお気に召す店を、
旅に出る前から見つけておかねばならない。

足ももちろん「メシ使い」。
胃袋様の思うがまま、
朝から晩までこき使われる。