【今日の1枚】Earth&Fire/Song Of The Marching Children | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Earth&Fire/Song Of The Marching Children
アース&ファイアー/アムステルダムの少年兵
1971年リリース

泣きのギターに柔らかなフルート、そして
メロトロン溢れるダークで荘厳な名作

 ヒッピー・カルチャーに触発されたビートポップグループから、オランダを代表するシンフォニックロックグループにのし上がったアース&ファイアーのセカンドアルバム。そのアルバムは泣きのギターや柔らかなフルート、本作で初めて使用された美しいメロトロンが舞う典雅なメロディが漂ったシンフォニックロックになっている。また、レコードB面をフルに使った組曲『アムステルダムの少年兵』は、彼らの作品の中でも最もダークでゴシック的なレベルに達した内容になっており、プログレッシヴ要素をさらに強めた作品として名高い。

 アース&ファイアーは1968年にクリス・クールツ(ギター)、ヘラルト・クールツ(キーボード)の双子の兄弟によって結成されたグループである。2人は1947年12月10日にオランダのアムステルダムとロッテルダムの中間地点にある北海沿岸の都市、ライデンで生まれており、幼少期はオランダから独立したばかりのインドネシアで生活していたという。10代になってオランダに戻り、デンハーグでザ・スウィング・トゥインズというアマチュアグループを2人で結成し、主に英米のヒット曲をレパートリーにしながらライヴ活動を始めている。1967年にセース・カリス(ドラムス)、ハンス・ズィーク(ベース)が加入し、オーパス・ゲインフルというグループを結成。これがアース&ファイアーの母体となる。そのオーパス・ゲインフルというグループにヴォーカリストとして加入したのが、マニュエラ・ベルロートという女性アーティストである。彼女は1960年代半ばにロンドンでザ・ブルー・ファイターズというグループで活動しており、1966年にリゼットという芸名でシングルを発表している。5人となった彼らはメンバーがいずれも火と地の星座(火の星座に属するのが牡羊座、獅子座、射手座。地の星座に属するのが牡牛座、乙女座、山羊座)生まれだったため、1968年にグループ名をアース&ファイアーと改めている。

 1969年になると、当時の時代性を反映したライトショーとコラボしたサイケデリックなライヴステージを行い、そのパフォーマンスに高い人気を得ていたという。しかし、ヴォーカリストのマニュエラ・ベルロートが目の疾病のためグループの脱退を余儀なくされ、一時はグループ存続の危機を迎えたという。残されたメンバーは女性ヴォーカルにこだわりがあったため、各方面に働きかけた結果、1969年9月にイェルネイ・カーグマンが加入することになる。彼女は秘書になるために勉学を勤しんでいたが、ザ・レンジャーズというアマチュアグループで活動。声をかけられたアース&ファイアーが初のプロデビューとなる22歳のヴォーカリストである。やがてオランダのロックシーンを築いたグループ、ゴールデン・イヤリングと接触する機会を持ち、そのマネージャー兼プロデューサーであるフレッド・ハーイェンの元で本格的なレコーディングを行い、契約したポリドールからデビューシングル『シーズン』をリリースしている。『シーズン』はオランダのチャートで最高位2位を記録し、トップ40に14週連続でチャートインするヒットとなったという。続くシングル『ワイルド・アンド・エキサイティング』も最高位4位を記録し、デビューから立て続けにヒットを飛ばしたことにより急速にグループは注目を集めるようになる。この頃には『ヴィーナス』で有名なショッキング・ブルーと共にダッチミュージックの旗手として日本でも大ヒットしている。1971年にそのシングルを含めたデビューアルバム『アース&ファイアー』をリリースし、オランダのみならず、ドイツや日本、イギリスでもリリースされ、オランダのメディアではその年で最も期待されるグループとして評価される。デビューからヒットに恵まれ、急速に注目を集めるアース&ファイアーだが、そんなプロミュージシャンとして活動していく不安から、ドラムスのセース・カリスが脱退。後任にはカリスの指名でトン・ファン・デル・クレイが加入することになる。彼が加わって最初にレコーディングされたのが、1971年2月にリリースされた『ロック・インヴィテーション』である。この曲はキーボーディストのヘラルト・クールツがスタジオにあったメロトロンを初めて使用しており、最高位5位にチャートインするヒットとなっている。ヘラルトは以前からキング・クリムゾンやザ・ムーディー・ブルースのサウンドに影響を受けており、これ以降、彼はメロトロンを主体としたシンフォニックな楽曲を確立していくことになる。続いてシングル『嵐と雷』を1971年9月にリリースして最高位6位となるヒットとなり、この曲を収録したセカンドアルバム『アムステルダムの少年兵』のレコーディングを開始している。このアルバムからポリドールのディレクターだったフレッド・ハーイェンと共にゴールデン・イヤリングのドラマーだったヤープ・エッハーモントがプロデューサーとなっている。1971年12月にリリースされた本アルバムは、導入したメロトロンをはじめ、泣きのギターやフルートが舞い、レコード片面を組曲で構成した大作指向を強めたシンフォニックロックの定番とも言うべき名盤となっている。

★曲目★
01.Carnaval Of The Animals(動物の謝肉祭)
02.Ebbtide(引き潮)
03.Storm And Thunder(嵐と雷)
04.In The Mountains(山々)
05.Song Of The Marching Children(アムステルダムの少年兵)
 a.Theme Of The Marching Children(少年兵のテーマ)
 b.Opening Of The Seal(封印が開ける時)
 c.Childhood(幼年期)
 d.Affliction(悲嘆)
 e.Damnation(天罰)
 f.Purification(浄化)
 g.The March(行進)
★ボーナストラック★
06.Invitation(ロック・インヴィテーション)
07.Song Of The Marching Children~Single Version~(アムステルダムの少年兵~シングル・ヴァージョン~)
08.Storm And Thunder~Single Version~(嵐と雷~シングル・ヴァージョン~)
09.Lost Forever(ロスト・フォーエヴァー)
10.Memories(嘆きの青春)

 アルバムの1曲目の『動物の謝肉祭』は、カーグマンがおとぎ話の王女を演じたヴォーカルと、サーカスのようなメロディーを湛えたオルガン主導の楽曲。曲の中で動物の鳴き声に似た音が飛び交い、彼らのルーツでもあるサイケデリックな要素のある内容になっている。2曲目の『引き潮』は、さわやかなフルートや穏やかなオルガン、かすかなギターのエフェクト、そして抒情性のあるカーグマンのヴォーカルをメインとした楽曲。夢うつつな雰囲気のある彼らの得意とするスローポップナンバーとなっている。3曲目の『嵐と雷』は、荘厳なチャーチオルガンとメロトロンをバックに艶やかに歌うカーグマンのヴォーカルが冴えた楽曲。後半では力強いリズムセクションとギターを加えたドラマティックなシンフォニックロックに変貌するメロトロンファン必聴の一曲となっている。4曲目の『山々』は、同じオランダのグループであるフォーカスを彷彿とさせるオルガンとギターが交錯するメロディアスなインストゥメンタル曲。ギターワークはどちらかというとアンディ・ラティマーによく似ていて、キャメルのようなドリーミーなスタイルになっているのが印象的である。5曲目の『アムステルダムの少年兵』は、レコードでいうB面をフルに使った7つの楽章からなる組曲。メロトロンによる繊細でムーディーなイントロから始まり、メロトロンのストリングスをバックにした壮大な少年兵の物語の幕を上げている。その後、『幼年期』ではチェンバロを加え、ごく普通の少年が待ち受ける運命を描いたカーグマンのドランティックなヴォーカルとなる。そして壮大なリズムセクションとメロトロンで移行し、柔らかなキーボードからダークな楽曲に変わる子供達の天国と地獄を描いた『悲嘆』。そしてマーチングパーカッションとスペイシーなシンセサイザー、ささやくようなベースを経て、死の河を渡ろうとする人たちが待つ墓を描いた『天罰』となる。その後、美しいアコースティックギターによる子供達の墓に月桂の冠を飾った様子を描いた『浄化』をクリス・クールツが優しく歌い上げている。そして再び、行進のリズムと共に荘厳なメロトロンが響き、罪なき子供達が戦争に駆られていく様子を描いて幕を閉じている。2004年リマスター盤にはボーナストラックとして5曲が収録されている。『ロック・インヴィテーション』は、シングル『アムステルダムの少年兵』とカップリングされたメロトロンあふれるリズミカルな楽曲。『ロスト・フォーエヴァー』は、シングル『嵐と雷』のB面に収録されたハードロック風の楽曲。『嘆きの青春』は、1972年にリリースされたシングル曲で、メロトロンをふんだんに使用したキャッチーなポップ曲である。こうしてアルバムを通して聴いてみると、これまでメロディアスでポップな楽曲の多かったアース&ファイアーと比べて、少年兵の運命を描いたセンチメンタルな歌詞と合わせたダークな色合いの強い楽曲になっていると思える。そこに初めて導入されたメロトロンという楽器がより一層、抒情性を高めており、サイケデリックなポップグループからプログレッシヴなグループへと飛躍した画期的なアルバムに変貌している。本作で手ごたえを感じた彼らは、よりコンセプト色を強めたサードアルバム『アトランティス』に継承していくことになる。

 本アルバムはアース&ファイアーがプログレッシヴな一面を見せたということで高く評価され、商業的にも恵まれた作品となった。日本でも『アムステルダムの少年兵』としてポリドールからリリースされ、当時デビューしたばかりのフォーカスと並んで注目されたという。1972年にはシングル『嘆きの青春』がグループ初のチャートで1位を獲得し、彼らが安定したオランダのグループであることを示している。1973年にはアルバム先行シングルとなる『メイビー・トゥ・トゥモロウ、メイビー・トゥナイト』をリリースし、最高位3位という記録となったのを機にサードアルバム『アトランティス』をリリースしている。このアルバムはメロトロンを中心にシンセサイザーも導入した派手なシンフォニックロックとなり、グループ最高傑作と名高い作品となっている。アース&ファイアーは後にフォーカスと共にオランダで不動の人気を博し、1974年にはフォーカスとヨーロッパをはじめ、トルコやスカンジナビア諸国のツアーを回ることになる。しかし、オランダ国外では日本やベルギーなどで成功を収めたが、イギリスやアメリカではヒットを出すことができなかったことが後にグループに暗い影を落とすことになる。同年6月にシングル『ラヴ・オブ・ライフ』をリリースし、3週連続で2位を記録するなどグループは相変わらず高い人気を維持するが、この曲のリリース後にベーシストのハンス・ズィークが脱退し、代わりにテオ・フルツが加入して4枚目のアルバム『来たるべき世界』をリリース。このアルバムは近未来の人口爆発と機械化社会に警鐘を鳴らしたコンセプトアルバムだが、メロトロンやシンセサイザーを起用したシンフォニックなサウンドになっているものの、リズムがファンキー寄りな作風に変化している。これは交代したフルツの影響もあるが、プログレッシヴロックそのものの変化が求められた結果なのかもしれない。その後もコンスタントにアルバムやシングルをリリースを続けていたが、1978年にドラマーのファン・デル・クレイが脱退。ツアーで同行したことのあるアブ・タンブールが正式加入し、1979年にマテリアルアルバム『Reality Fills Fantasy』をリリースする。シングルカットされた『ウィークエンド』がオランダだけではなく、スイス、ポルトガル、ドイツ、デンマークで1位を獲得する快挙を得たが、ヴォーカリストのカーグマンがソロ転向を意識した作品作りを始めており、1982年11月に『In a State Of Flux』がリリースされた6ヵ月後の1983年5月にアース&ファイアーは活動を休止することになる。カーグマンは後にソロとしてデビューし、多くのアルバムをリリースし、オランダで歌手として成功する。また、1989年にはカーグマンをはじめ、一時的にかつてのメンバーとアース&ファイアーを再結成して、アルバム『フェニックス』をリリースするが、そこにはクールツ兄弟の名は無い。そのクールツ兄弟はグループ活動休止後、アース&ファイアー・オーケストラを共同で設立し、ソングライター兼プロデューサーとして活躍してきたが、ヘラルト・クールツは2019年2月20日、クリス・クールツは2022年11月11日に亡くなっている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はフォーカスと並ぶオランダのプログレッシヴロックグループ、アース&ファイアーのセカンドアルバム『アムステルダムの少年兵』を紹介しました。このブログでは『アトランティス』に続いて2作目の紹介となります。『アムステルダムの少年兵』と『アトランティス』はアース&ファイアーのアルバムの中でも双璧とされる作品で、陰の『アムステルダムの少年兵』、陽の『アトランティス』と呼ばれています。双方ともメロトロンを多く使用していて、メロトロンファンにとっては必携のアイテムとなっているようです。今回、テーマとなった少年兵をモチーフにしている理由として、クールツ兄弟の少年時代が大きく影響していると言われています。2人は1945年8月15日に日本がオランダを含む連合国軍に降伏し、スカルノら民族主義者によるインドネシア独立宣言に由来する日本の有志将校がインドネシアの独立戦争に参加して武装化し、統治していたオランダ軍と戦っています。その後、ハーグ会議でインドネシアはオランダから独立することになるのですが、この後に親の都合でクールツ兄弟がインドネシアに渡ることになります。たぶん、この時にオランダとインドネシアの両国の戦争の傷跡を目の当たりにしており、インドネシアでは未だ子供や女性が巻き込まれる叛乱があり、一方のオランダ国内では多くの兵士が戦死したことで少なくなり、少年兵が動員されたようです。ごく普通に生活をしていた子供たちが銃を持たされ、この先にどんな運命が待ち構えているか分からない幼い彼らの不安な気持ちを歌詞に載せています。また、本アルバムの内ジャケットやサードアルバムの『アトランティス』の曼荼羅を思わせる美しいジャケットは、2人がインドネシアで過ごした時の仏教やヒンズー教に触れたからではないかと思っています。ちなみにデザインはエリック・ファン・デル・ヴァイデンというオランダの絵師が描いていますが、今見ても鮮烈です。

 さて、本アルバムはこれまでポップな音楽で一世風靡してきたグループが、まさにプログレッシヴロックに目覚めた画期的なアルバムとされています。ヘラルト・クールツがスタジオにあったメロトロンを初めて使用したのがきっかけですが、英国のキング・クリムゾンやザ・ムーディー・ブルースに衝撃を受けた彼がこれでもか!と言わんばかりのメロトロンをふんだんに使用しているのが分かります。カーグマンがしっかりとした声を持つ素晴らしいヴォーカリストであることがこのアルバムで聴くことができ、相変わらずキャッチーなメロディセンスはさすがとしか言えません。組曲をはじめとするアルバム全体を支配するトーンは、彼らの作品の中でも最もダークなイメージが付きまといますが、最後の曲である『行進』は今まで抑えてきたプレイの中でただならぬ気配を感じます。本アルバムを聴いた後に『アトランティス』を聴くと、彼らの目指す音楽が幻想を越えた輪廻の思想に基づいている感じがします。

 ちなみにメンバーの中で火と地の属性ではないのが、唯一イェルネイ・カーグマンだそうです。イェルネイ・カーグマン以外のメンバーは交代することがあっても偶然に火と地の生まれだったと言われています。そう考えるとカーグマンのソロ転向の曲作りや計画が始まったのをきっかけに、グループが活動休止に追い込まれていったのは、ある意味運命的だったのかも…というのは言い過ぎでしょうかね。
 
それではまたっ!