【今日の1枚】Gilgamesh/Another Fine Tune You've Got… | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Gilgamesh/Another Fine Tune You've Got Me Into
ギルガメッシュ/アナザー・ファイン・チューン・ユーヴ・ゴット・ミー・イントゥ
1978年リリース

硬質でミニマルなフレーズを散りばめた
即興性の高いカンタベリージャズの名盤

 カンタベリーシーンでディヴ・スチュワートと並ぶキーボーディスト、アラン・ガウエン(またはアラン・ゴーウェン)を核とするギルガメッシュのセカンドアルバム。アルバムの楽曲はファーストアルバムの即興性とハットフィールド&ザ・ノースの優雅さを引き継いだようなサウンドになっており、テクニックに安住することの無いジャズロックの醍醐味が堪能できる作品になっている。オリジナルメンバーはギターのフィル・リーのみで、ベースに元ソフト・マシーンのヒュー・ホッパー、ドラムにニュークリアスのトレヴァー・トムキンスを迎え、カンタベリージャズの最後の名盤と呼ばれた誉れ高い1枚である。

 中心メンバーであるアラン・ガウエンは、1947年にロンドン北西部にあるノース・ハムステッドで生まれている。彼は幼少時からピアノを習っており、18歳でビバップから出発したジャズ・ピアニストとして活動しており、1960年代末には後にCMUというグループを結成するロジャー・オデル(ドラムス)やスティーヴ・クック(ベース)と共にトリオで演奏している。この当時のジャズシーンは、民族音楽や現代音楽など様々なジャンルによる異種混合が進んでおり、ニュージャズやジャズロックへと変化していた時代であった。アランはそんな時代を見据えたかのように、ジャズロックが盛んだったカンタベリーのメンバーと親しくなり、その中には後にハットフィールド&ザ・ノースのメンバーとなるフィル・ミラーとも親交があったという。彼がメジャーシーンに顔を出すのは1971年にアフロ・ロックグループのアサガイの加入である。さらに1972年にはアサガイに在籍していた後にキング・クリムゾンのメンバーとなるパーカッション奏者、ジェイミー・ミューアとそのグループの一部が飛び出した形で結成されたサンシップに参加している。しかし、サンシップは活動期間は短く、中心者であったジェイミー・ミューアが突然脱退したことで解散している。アランは次なるグループを探し求めていた時、ハットフィールド&ザ・ノースのキーボーディストのオーディションがあることを知る。これが有名なオーディション事件である。オーディションを受けたアランは結果的に落ちることになり、ハットフィールド&ザ・ノースのキーボードプレイヤーは、ディヴ・スチュワートがその座を射止めることになる。事件と言葉を使ったのは、このオーディションを機にディヴ・スチュワートとアラン・ガウエンは親しくなり、後にギルガメッシュとハットフィールド&ザ・ノースの濃密ともいえる奇妙な関係が生まれるからである。

 後にアランは自身でメンバーを集めることになり、最初はリック・モアクーム(ギタリスト)、ジェフ・クライン(ベース)、マイク・トラヴィス(ドラムス)、アラン・ウェイクマン(サックス)という、ブリティッシュの生粋のジャズミュージシャンが参加したギルガメッシュを結成する。しかし、リハーサルの段階でメンバーが入れ替わり、ジェフ・クラインが脱退した後にリチャード・シンクレアがベースを担当し、すぐニール・マーレイに代わっている。また、ギタリストもリック・モアクームからフィル・リーに替わり、サックス奏者のアラン・ウェイクマンはすでに脱退している。ハットフィールド&ザ・ノースとの親密な関係は続いており、それが単に精神的なものだけではなかったのが、1973年11月4日と23日にはアラン・ガウエン、フィル・リー、ニール・マーレイ、マイク・トラヴィスの4人からなるギルガメッシュとハットフィールド&ザ・ノースの2グループの共演の中で、アラン・ガウエン作曲の『ダブル・カルテット』が演奏されたことだろう。その後、またメンバーチェンジが続き、1975年3月にはアラン・ガウエン(キーボード)、フィル・リー(ギター)、マイク・トラヴィス(ドラムス)、ジェフ・クライン(ベース)、そしてゲストにディヴ・スチュワート(オルガン)、アマンダ・パーソンズ(ヴォーカル)が参加し、アルバムのレコーディングを開始している。こうして1975年にデビューアルバムである『ギルガメッシュ』がリリースされることになる。そのアルバムはハットフィールド&ザ・ノースと良く似たユーモアあふれる楽曲であるにも関わらず、よりストイックなまでの技巧を凝らしたインストゥメンタルに比重を置いた楽曲になっている。

 リリースした後の1975年6月に、ハットフィールド&ザ・ノースを解散させたディヴ・スチュワートの正式な加入を得てツインキーボード編成でBBCセッションに参加したりしたが、レコーディングは実現していない。そうこうしているうちにギルガメッシュの活動も立ち行かなくなり、同年に解散している。ハットフィールド&ザ・ノースとギルガメッシュの双方は無くなってしまうが、アラン・ガウエンとディヴ・スチュワートにハットフィールド&ザ・ノースのメンバーが再合流する形で新グループ、ナショナル・ヘルスが誕生することになる。1977年には両グループのエッセンスが散りばめられたアルバム『ナショナル・ヘルス』をリリースしている。しかし、ファーストアルバム発表後、再びメンバーチェンジがあり、アラン・ガウエンは同グループから離脱。アランは翌年にスタジオ限定で再度ギルガメッシュが再編し、アルバムレコーディングを行うことになる。レコーディングにはオリジナルメンバーであったギタリストのフィル・リー、新たなリズムセクションに元ソフト・マシーンのベーシストであるヒュー・ホッパー、そしてニュークリアスのドラマーであるトレヴァー・トムキンスを迎えている。曲はアランが1977年から1978年にかけて作られたものだが、時間的な制約があったためか一発録音だったという。こうして1978年にギルガメッシュのセカンドアルバムにあたる『アナザー・ファイン・チューン・ユーヴ・ゴット・ミー・イントゥ』がリリースされる。そのアルバムはアランの柔らかなキーボードタッチを中心としたミニマルなフレーズとユーモアが散りばめられたサウンドになっており、決してテクニックに流されることの無いカンタベリージャズの神髄が味わえる作品になっている。

★曲目★ 
01.Darker Brighter(暗黒の輝き)
02.Bobberty/Theme For Something Else(ボバーティー/シーム・フロム・サムシング・エルス)
03.Waiting(ウェイティング)
04.Play Time(プレイ・タイム)
05.Underwater Song(水中歌)
06.Foel'd Again(フォールド・アゲイン)
07.T.N.T.F.X.

 アルバムの1曲目の『暗黒の輝き』は、ハットフィールド&ザ・ノースとナショナル・ヘルスを聴いてきた人が感動するであろう、カンタベリーミュージックを牽引してきたアランならではの美しい楽曲。アランの優雅さのある鍵盤タッチに合わせるかのようなリズムセクションやギターが印象的であり、メロウな曲調の中にも即興性のあるフレージングを散りばめた良質なジャズロックとなっている。2曲目の『ボバーティー/シーム・フロム・サムシング・エルス』は、エレクトリックピアノを含めたキーボードと浮遊感のあるギター、そして繊細なリズムセクションを中心としたフュージョンにも似た楽曲。中盤からはホッパーのベースが前面に出た穏やかなサウンドスケープとなり、6分過ぎにはアランの優雅なキーボードワークとフィルのギターによる軽快なテンポのジャズに変貌している。3曲目の『ウェイティング』は、フィル・リーのアコースティックギターのソロ。柔らかなギターの音色の中で響く運指の音がより温かみを与えている。4曲目の『プレイ・タイム』は、ホッパーのベースとトムキンスのリズムが前面に出たジャズロックになっており、複雑な曲展開の中でまとまるフレーズが随所にある機知に富んだ楽曲。アランには珍しくシンセサイザーを大胆に使用しているのがポイントである。5曲目の『水中歌』は、トムキンスの1分以上のドラムソロから始まり、後にシンセサイザーを含めたキーボードとギターによる穏やかなフレーズがたゆたうドラマティックな展開のある楽曲。繊細なジャズのアプローチでありながら広大なテーマを追求するアランのアレンジ力が発揮されている。6曲目の『フォールド・アゲイン』は、ホッパーとガウエンの共作でクールなベースとキーボードによる楽曲。バックグラウンドでキーボードが静かに演奏される中、ゆっくりとリズムを刻むベースが不穏な雰囲気を漂わせている。7曲目の『T.N.T.F.X.』は、フィルの明朗なギターがリードし、ランダムなパターンを演奏するドラミング、浮遊感のあるシンセサイザーが溶け込んだ楽曲。これまで穏やかな楽曲が中心だったが、最後にそれぞれのメンバーが力強く演奏している。これから後半に向けての展開があるだろうと思った矢先に曲が終えており、不思議な余韻を残している。こうしてアルバムを通して聴いてみると、複雑でダイナミックだった前作と比べて1曲1曲が洗練されたものになっており、アランが作成した楽曲を巧みに解釈するメンバーの的確なプレイもあって、繊細な輝きを放った幻想的なアルバムになっていると思える。テクニックに流されない軽快なジャズロックを体現しており、アラン自身はナショナル・ヘルスとはまた違った後のジャズフュージョンを見据えたインテリジェンスなジャズ音楽を目指していたのかもしれない。

 アルバムリリース後、アランは本作で共演したヒュー・ホッパーと共に、1978年にエルトン・ディーン、ディヴ・シーンを加えたソフト・ヘッド、そしてディヴ・シーンに代わってピップ・バイルが加入したソフト・ヒープに参加。アランはカンタベリーシーンの優れたキーボーディストとして評価され、彼の音楽活動周辺は活気に満ちてくるが、この頃から病気と闘いながら活動をしていたという。彼の最後の作品となったのが、フィル・ミラー、リチャード・シンクレア、トレヴァー・トムキンスと共に制作されたアルバム『ビフォア・ア・ワード・イズ・セッド』である。このアルバムが録音された直後、アラン・ガウエンは1981年5月17日に白血病で33歳の若さで亡くなることになる。アランが遺した数々の曲は、ディヴ・スチュワートをはじめとする所縁のメンバーで演奏、録音され、トリビュートアルバム『D.S. Al Coda』として1982年にリリースされている。

 なお、アルバムのレコーディングに参加したベーシストのヒュー・ホッパーは、2009年6月7日にケント州ウィスタブルで白血病のために死去。また、ドラマーのトレヴァー・トムキンスも2022年9月に82歳で亡くなっている。たった1枚とはいえ、凄腕のメンバーと共にハットフィールド&ザ・ノースやナショナル・ヘルスとはまた違った、アラン・ガウエンという稀代のアーティストの思い入れが詰まった奇跡的な作品である。


 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は集合離散を繰り返すカンタベリーシーンで、今は亡きアラン・ガウエン(またはアラン・ゴーウェン)を核に再度集ったギルガメッシュのセカンドアルバム『アナザー・ファイン・チューン・ユーヴ・ゴット・ミー・イントゥ』を紹介しました。ジャケットデザインはウィリアム・ブレイクが描いた「The Ghost Of A Flea(ノミの幽霊)」だそうです。ジャケットのイメージとは違って、本アルバムは軽快で聴きやすいジャズロックになっています。ちなみにこの絵はアイアン・メイデンのブルース・ディキンソンの5作目のソロ作品『ケミカル・ウェディング』のジャケットにも使用されています。

 

 私自身、ハットフィールド&ザ・ノースとナショナル・ヘルス、そしてギルガメッシュといったグループは、3すくみで良く聴いていましたが、本アルバムは格別な気持ちで聴いていました。より複雑でテクニカルな演奏になっていくナショナル・ヘルスと違い、全くメンバーが重複していないのにも関わらず、どちらかというとハットフィールド&ザ・ノースの音楽性を引き継いでいるように聴こえるのが本アルバムです。それでいて初期のギルガメッシュの即興性のある演奏も受け継いでいて、カンタベリーミュージックの行き着く先の1つとして捉えています。もう1人のキーボーディストであるディヴ・スチュワートはキーボードが支配するロック色の強いジャズロックを目指した一方、アランはキーボードを組み込んだジャズミュージシャンによる繊細なジャズロックを目指したのかもしれません。複雑な展開の無い本アルバムを聴くと、なぜアランがナショナル・ヘルスを離脱したのかが何となく分かる気がします。アランにとって自分の力で集めたメンバーで録音された本アルバムの意気込みは相当だったのでしょう。レコーディングに時間的な制約があったとはいえ、一発録りだとは到底思えない素晴らしい仕上がりになっていると思います。

 さて、本アルバムは盟友のギタリストであるフィル・リーと、新たなリズムセクションに元ソフト・マシーンのベーシストであるヒュー・ホッパーとニュークリアスのドラマーであるトレヴァー・トムキンスを迎えて作られたものです。1977年から1978年にかけて作られたアランの楽曲に対して、当然、肉付けされていくものですが、巧みに解釈するメンバーの的確なプレイには脱帽ものです。複雑でダイナミックだった前作と比べて軽快な楽曲が多いですが、繊細な中にも幻想性があって、まさにジャズロックの雄であるギルガメッシュの再来とも言えます。1曲目の『暗黒の輝き』と5曲目『水中歌』は、往年のカンタベリーミュージックらしい楽曲になっていて、主体となるアランのメロディに応えるようなメンバーの演奏には心地よさがあります。また、ガウエンとホッパーの共作で、ホッパーらしいミニマルなベースリフがクールな6曲目の『フォールド・アゲイン』があったりと、これまでになかった新しい感覚をもたらしています。この方向性をより新たな展開に持っていったらどうなっていたのかと考えると、少しだけ残念な気持ちになってしまいます。

 本アルバムはアラン・ガウエンが、よりジャズ的な手法でアプローチしたカンタベリーミュージックのもう1つの方向性をもたらした作品です。極めて繊細なインテリジェンスなジャズロックを目指したキーボーディストである彼の豊かな想像力が垣間見えます。カンタベリーミュージックファンは必聴です。

それではまたっ!