【今日の1枚】The Old Man & The Sea/老人と海 | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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The Old Man & The Sea/The Old Man & The Sea
ザ・オールド・マン&ザ・シー/老人と海
1972年リリース

ハモンドオルガンをメインにテンションの高い
攻撃的なハードロックを披露する幻のアルバム

 20世紀のアメリカの作家であるアーネスト・ヘミングウェイの晩年の小説『老人と海』を冠したデンマークのハードロックグループ、ザ・オールド・マン&ザ・シーの唯一のアルバム。そのサウンドはハモンドオルガンとギターによるドライヴ感あふれるハードロックになっており、ディープ・パープルやピンク・フロイドといったブリティッシュハード&プログレッシヴロックを手本としたような英国遺伝子を受け継いだ楽曲になっている。たった500枚というセルフタイトル1枚を残して解散してしまうが、その後プログレッシヴロック&ハードロックファンの間で高額で取引される激レアアイテムとなった幻のアルバムでもある。

 ザ・オールド・マン&ザ・シーは、1967年にデンマークのミッドユランド州にあるホーセンスで結成されたグループである。最初のメンバーはジョン・ノエルガード(ギター、サックス)、トミー・ハンセン (オルガン、キーボード)、ラーズ・シグセン(ドラム)のトリオ編成である。彼らはデンマークの2番目に大きい都市オーフスで開催された音楽コンテストでデビューし、キース・エマーソン率いるザ・ナイスやプロコル・ハルム、ザ・クリームといった英国ロックグループを模した演奏をしていたという。グループ名の由来は友人からの提案で、ノーベル文学賞を受賞し、当時翻訳されたことでバルト海周辺の国で人気のあったヘミングウェイの小説『老人と海(ザ・オールド・マン&ザ・シー)』をそのままグループ名にしている。その後、ベニー・スタンリー(ギター)とクヌード・リンドハルト(ベース)が加入し、歌手兼フルート奏者であるロバート・ハウスチャイルドを迎えている。当時の彼らは専属の照明係によって映像との相乗効果を狙ったサイケデリックなライトショーを行ったことで、デンマーク屈指の人気グループに昇りつめたという。この頃、彼らはレッド・ツェッペリンやテン・イヤーズ・アフター、クレイジー・ワールド・オブ・アーサー・ブラウンらとも共演をしている。しかし、1969年の春にノルウェーのツアーを果たして成功を収めたものの、諸事情により解散をしている。どうやらツアーによる経済的な圧迫が原因とされている。

 2年ほど経った1971年にトミー・ハンセン (オルガン、キーボード)とベニー・スタンリー(ギター)、クヌード・リンドハルト(ベース)、オール・ウェデル(ヴォーカル)、ジョン・ランドヴィグ(ドラムス)の5人で再び活動を開始している。この時はライヴを行う傍ら、真剣にオリジナル曲を書き始めている。同じデンマーク出身のロックグループであるミッドナイト・サンと親しくなり、コペンハーゲンにあるローゼンバーグスタジオでサウンドエンジニアとして働いていたフレディ・ハンソンを紹介。この時あまり興味を示さなかったフレディは、コペンハーゲンの有名なジャズクラブ、モンマルトルで演奏する彼らのギグを聴き、彼らのアルバムのレコーディングをしようと決めたという。フレディがアルバム制作に必要な手配をすべて行い、デンマークのレコード会社であるソネットとの契約締結にまで手を尽くしている。こうして一週間ほどスタジオでレコーディングを行い、ベニー・スタンリーの友人で画家のオール・クリステンセンのサメの絵がアートワークに採用されたデビューアルバム『老人と海(ザ・オールド・マン&ザ・シー)』が1972年にリリースされる。そのアルバムは孤独な老漁師と一匹の巨大なメカジキとの遭遇から、サメの襲撃といった小説の内容に沿って展開され、尚且つ、攻撃的で抒情性のあるハモンドオルガンとヘヴィーなギター、重々しいタイトなリズムセクションによるソリッドかつスピード感あふれた一級品のオルガンハードロックとなっている。
 
★曲目★
01.Living Dead(リヴィング・デッド)
02.Princess(プリンセス)
03.Jingoism(ジンゴイズム)
04.Prelude(プレリュード)
05.The Monk Song Part 1(修道士の歌 パート1)
06.The Monk Song Part 2(修道士の歌 パート2)
07.Going Blind(ゴーイング・ブラインド)
★ボーナストラック★
08.Circulation(サーキュレイション)
 
 アルバムの1曲目の『リヴィング・デッド』は、出航をモチーフにしたドライヴ感あふれるヘヴィーなハモンドオルガンとギターが特徴的な楽曲。初期ディープ・パープルを思わせるような攻撃的な展開があり、最後まで熱量のあるサウンドを披露している。2曲目の『プリンセス』は、壮大な海が目前に広がっていくスケール感のある楽曲。前曲から切れ目なく続くハモンドオルガンと美しいアコースティックギターがメロディアスであり、上品なヴォーカルハーモニーやロングトーンのギターも素晴らしい。3曲目の『ジンゴイズム』は、メカジキとの格闘を描いた内容になっており、ハモンドオルガンと暴れるようなギターが緊張感あふれるスピーディーな楽曲。途中からジャジーなピアノとルーズなドラミングが入るなど、なかなかワイルドな曲である。4曲目の『プレリュード』は、次の曲へのブリッジ的な役割の短い曲。地元の教会で録音された厳かなオルガン曲になっている。5曲目の『修道士の歌 パート1』は、ミステリアスなオープニングから一旦フェードアウトして、オルガンとアコースティックギターによるアンサンブルが美しいプログレッシヴ性のある楽曲。イエスのジョン・アンダーソンのようなヴォーカルスタイルやジェスロ・タルばりのフルートを奏でているのが見受けられ、この曲から様々な欧米のプログレッシヴロックグループの影響を受けていることが分かる。6曲目の『修道士の歌 パート2』は、典型的なブリティッシュハードロックとなっており、やや尖ったエレクトリックギターや分厚いハモンドオルガンが軽快である。7曲目の『ゴーイング・ブラインド』は、オルガンやギター、フルートを中心とした開放的なメロディが奏でられた逸品。ブルージーなギターソロの中で叩かれるアグレッシヴなドラミングが印象的であり、まるで帰港する老漁師の悲哀を表現しているようである。最後のボーナストラックの『サーキュレイション』は、当時アルバムの収録が見送られた楽曲であり、メロディアスなオルガンソロが展開する英国然とした内容になっている。こうしてアルバムを聴いてみると、攻撃的なハモンドオルガンとブルージーなギターを全開にした非常にスリリングでスケール感のあるサウンドが多い。英国のプログレッシヴロックやハードロックに影響を受けているものの、ヴォーカルやハーモニーが以外とメロディアスで上品であり、デビュー作とは思えない完成度を誇っていると思える。

 アルバムはレーベルであるソネットの担当者がレコード製品の取り扱いをあまり知らなかったためか、メジャーレーベルとは思えない音飛びの多いプレスミスが目立ったレコードになった言われている。そのため、市場に出回ったのはたった500枚という少なさだったという。結局、グループ側とレーベル側の意見の相違もあって、彼らはソネットから離れることになる。後にトミー・ハンセンの尽力によって自身のレコーディングスタジオを持ち、セカンドアルバム用のデモレコーディングを行っている。しかし、ポップな路線に興味を持ったクヌード・リンドハルトがグループから離れてしまい、代わりに元Daisyのエリク・リンドハードが参加するが、個人的な理由からすぐにエリク・ルドルフ・ハラガー(ギター、ベース)に交代している。今度はベニー・スタンリーが家族のためにグループから離れてしまい、とうとうオリジナルメンバーはトミー・ハンセン1人となってしまう。彼の作ったセカンドアルバム用のデモテープをCBSに売り込むものの興味を示さず、ついに1975年に解散することになる。解散後、トミー・ハンセンはジェイルハウスというスタジオを作り、スタジオエンジニアとして主にメタル系を中心にロックやジャズ、クラシック、ブルースなど幅広い音楽を手掛けていくことになる。彼が手掛けたアルバムの中ではハロウィンの初期作品やTNT、プリティ・メイズ、ドラゴンフォースが有名である。1990年にはトミー・ハンセンの呼びかけでジョン・ランドヴィグ、ベニー・スタンリー、オール・ウェデルのオリジナルメンバーが集い、新たにエリク・ヨハンセン(ベース)、ミハエル・フギル(ヴォーカル)が参加した約20年ぶりとなる野外ライヴを地元ホーセンスで開いている。さらに1991年にはクヌード・リンドハルトが加わり、アクティヴィテッド・ヒューセットでのライヴが開催。その模様の一部が収録されたブートレグ(海賊盤)が1999年にリリースされたが、それだけ彼らの復活を望んだファンが多かったという証である。2003年にもライヴを開催しているが、メンバーにトミー・ハンセンの姿は無い。彼はスタジオエンジニアとしての活動を選んだということだろう。2020年にはトミー・ハンセンが設立したジェイルハウスレコーズより、ニューアルバム『ウィッチイズ・ブリュー』がリリースされているが、すでに当時の路線から離れたスリリングなジャズフュージョンとなっている。



 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は英国のプログレ&ハードロックの影響を受けたデンマークのグループ、ザ・オールド・マン&ザ・シーの唯一のアルバムを紹介しました。題材となったヘミングウェイの小説『老人と海』を読んだことがありますが、そのままグループ名と楽曲のモチーフにしたというのは非常に面白いです。デンマークではそこそこ人気があったにも関わらず、たった500枚しかプレスされなかったため、その後プログレファンやハードロックファンの間で1枚数万円に及ぶコレクターアイテムとなっただろうことは言うまでもありません。私自身も2000年代に入るまで全く知らなかったアルバムです。内容は攻撃的ともいえるハモンドオルガンとブルージーなギターを中心としたアグレッシヴなサウンドになっていますが、そんなハードな展開の中で美しいヴォーカルハーモニーを聴かせてくれるところが大きなポイントです。さらにアコースティックギターやピアノ、フルートが楽曲の中に散りばめられており、なかなか表現力豊かな内容に仕上げているのが好印象です。たぶん英国の初期ディープ・パープルやエマーソン・レイク&パーマー、イエス、ピンク・フロイド、ジェスロ・タル、トラフィックといったプログレ&ハードロックに影響された要素があるものの、うまくアレンジして昇華しているところが多くのファンに支持されている理由だと思います。一時期ハードロックを好んで聴いていた私にとっても、デビュー作とは思えない質の高さに驚きっぱなしです。

 さて、そんなザ・オールド・マン&ザ・シーは惜しくも本アルバムを1枚を残して解散してしまいますが、2003年に1972年から1975年までの曲を収録した『ザ・オールド・マン&ザ・シー 1972-1975』がリリースされています。どの楽曲も本アルバムと同じようにトミー・ハンセンのアグレシヴなオルガンプレイが堪能できるスケール感のある内容になっています。その中にはトミー・ハンセンがセカンドアルバムとして用意していた楽曲もあり、よりプログレッシヴな要素が強めた逸品となっています。こちらも気になった方は合わせて聴いてみてくださいな。

それではまたっ!