【今日の1枚】Savage Rose/Dødens Triumf(サヴェージ・ローズ/死の勝利) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Savage Rose/Dødens Triumf
サヴェージ・ローズ/死の勝利
1972年リリース

ツインキーボードを中心に舞踏用音楽として
制作された一大コンセプトアルバム

 デンマークの国民的グループであり、現在でも活動を続けるサヴェージ・ローズが、1972年にリリースした7作目のアルバム。魂を揺さぶるソウルフルなアニセット嬢のヴォーカルで有名なサヴェージ・ローズだが、本アルバムではThe Royal Danish Ballet(デンマーク王立バレエ)の舞踏用音楽として制作されたインストゥメンタル中心のコンセプトアルバムとなっている。そのサウンドはコッペル兄弟によるツインキーボードを中心に、北欧らしい幻想的でノスタルジックな楽曲になっており、サヴェージ・ローズ史上もっともプログレッシヴな作品となっている。

 サヴェージ・ローズは、1967年にデンマークのコペンハーゲンで若者を中心に勃発した、政治運動や音楽ムーブメントの中で誕生している。そのムーブメントの中でダンディ・スインガーズにいた女性シンガーのアニセットとキーボード奏者のトーマス・コッペルの出会いから、サヴェージ・ローズが結成される。当初はトーマスの弟のアンダースが小説デビューしたTV放送で、コッペル兄弟が演奏するバックプロジェクトが出会いのきっかけだったらしい。そこにジャズ出身のドラマーであるアレックス・リエルが加わり、1968年5月にナポリで行われた野外ライヴでデビューしている。母国のデンマークだけではなくヨーロッパ全土やアメリカ、イギリスで多くのコンサートを行い、サヴェージ・ローズの人気は確実に高まっていったという。彼らの音楽はクラシックやジャズ、サイケデリックを融合したものであり、歌詞はボブ・ディランに影響されたものだったが、何よりもアニセットのソウルフルなヴォーカルが印象的なグループだったという。そんな中、ポリドールから1968年7月にリリースした、デビューアルバム『ザ・サヴェージ・ローズ』は、北欧チャートでザ・ビートルズの『サージェント・ペッパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』と1位を争うほどのセールスを記録し、アルバムは約40カ国で発売されたと言われている。後にローリング・ストーン誌のレスター・バングスに認められ、1969年7月6日にニューポート・ジャズ・フェスティバルに出演し、アメリカでもサヴェージ・ローズの人気が高まることになる。デビューアルバムからコンスタントにアルバムをリリースし、中でも1969年に『In the Plain』、1970年に『Your Daily Gift』といった衝撃作を生み出している。彼らは1955年頃から勃発していたベトナム戦争に一貫して反対しており、予定されていたベトナムの米軍基地への慰問ツアーから撤退している。これによってアメリカのレコード会社のRCAと険悪となり、アメリカで活動していたサヴェージ・ローズは母国デンマークに帰国することになる。本国に戻ったトーマスは、1970年に王立劇場のバレエ監督のフレミング・フリントと劇作家のウジェーヌ・イヨネスコによる前衛バレエ『Dodens Triumf(死の勝利)』のコラボレーションを開始する。その内容は人口を大規模に抑制してきた文明社会で奇妙な病気(伝染病)が蔓延し、最終的にすべての人々が死んでいくというシュールなものになっている。これは抑圧と軍事化によって復活しようとする欧州の古い植民地化制度、すなわち当時のドイツ鉄鋼産業を中心とした欧州連合が、まるでヒトラー構想の再現のようであると危惧した政治的なメッセージが込められている。『Dodens Triumf(死の勝利)』は最初にTV版が制作され、1971年春から多くの国に放送されたという。レコードも合わせてリリースしようとしたが、作品内容が政治的な問題をはらんでいたため、本アルバムは遅れて1972年にリリースされている。

★曲目★
01.Byen Vågner(目覚めた街)
02.De Unge Elskende(若き恋人達)
03.Borgerens Død(市民の死)
04.De To Gamle(二人の老人)
05.Bruden Pyntes(花嫁の装飾品)
06.Bryllup(結婚式)
07.Soldaternes Død(兵士の死)
08.Den Døde By -Modebutikken Plyndres-(死の街-略奪されたブティック-)
09.Dear Little Mother(親愛なるリトル・マザー)

 本アルバムは王立バレエ用の楽曲のため、インストゥメンタルを中心とした内容になっている。メンバーはアニセット・コッペル(ヴォーカル)、トーマス・コッペル(ピアノ、ハーモニウム、パーカッション)、アンダース・コッペル(オルガン、ハーモニカ、フルート、パーカッション)、アレックス・リエル(ドラムス、パーカッション)、ルドルフ・ハンセン(ギター、ベース)、オレ・モリン(ギター)の6人編成で演奏している。1曲目の『目覚めた街』は、ピアノとハーモニウム、多彩なパーカッションを中心とした哀愁の楽曲になっている。情熱的なギターが加わるとより異国情緒漂う雰囲気となり、どこかノスタルジックで幻想的ですら思えてしまう。2曲目の『若き恋人達』は、静寂なオルガンからアコーディオンやハーモニカを中心とした、フランスのシャンゼリゼ通りを思わせるロマンティックな楽曲になっている。3曲目の『市民の死』は、一転して重々しい深いエコーのかかったオルガンとパーカッションによる楽曲。どこか夢見のような音からアコーディオンのソロが始まり、悲しげなピアノの音で終わっている。4曲目の『二人の老人』は、ジャズ風のパーカッションと美しいピアノによるライトでメロディアスな楽曲。まさに夢の世界に誘うかのような優しさで包んでくれるサウンドである。5曲目の『花嫁の装飾品』は、ギターとアコーディオンによる華やかな花嫁を祝うような美しい曲。アコーディオンの音色が、まるでフランスの街角を思わせるような雰囲気にさせてくれる。6曲目の『結婚式』は、1曲目のアレンジバージョン。多彩なパーカッションと流麗なピアノで、優雅な結婚式を演出している。ここではアニセット嬢のコーラスを聴くことができる。7曲目の『兵士の死』は、パーカッションを中心とした楽曲となっており、そのパーカッションの音がまるで銃声のようである。8曲目の『死の街-略奪されたブティック-』は、今までのサヴェージ・ローズらしいR&R風のアンサンブルを聴かせてくれる楽曲。ギター、ピアノ、アコーディオン、手数の多いドラミングが一体となって、哀愁に彩られた美しいサウンドが紡がれていく逸品である。9曲目の『ディア・リトル・マザー』は、啓示的ともいえる歌詞を綴る可憐なアニセット嬢のヴォーカルが聴ける楽曲。オルガンとピアノの2台のキーボードによる演奏になっており、夢心地のままフェードアウトしていく。こうしてアルバムを通して聴いてみると、人々の死をテーマにしているものの、優雅でどこか夢見がちな雰囲気に包まれた楽曲が多いことに気がつく。これは後に訪れる死の前に対する一時の幸せを描いているほかにならない。最後の曲の『ディア・リトル・マザー』は、まさに人間の持つ貪欲と戦争、破壊といった個人主義が台頭する現代社会の警告ともいえるメッセージとなっており、自然と寄り添いながら小さな幸福を甘受してきた人間の終わりを告げているようである。

 当初、アルバムの初回プレスは500枚程度だったが、1972年に王立劇場で行われた王立バレエ団によって、100回以上も上演されることになり大ヒットとなった。特にダンサーが裸で踊るなどこれまでにはない前衛的なバレエの踊りが話題となり、公演の回数に応じてアルバムのセールスが伸びたと言われている。最終的にチャートでトップ20に1年間留まり、アルバムは25万枚以上売り上げ、北欧でもっとも売れたインストゥメンタル作品となったという。このアルバムでサヴェージ・ローズは、本国デンマークで人気を決定付けてトップアーティストとなっている。王立バレエ団はこの『死の勝利』という楽曲と共に、1990年ごろまで継続的に200回以上の公演を行い、メトロポリタンオペラを含むアメリカのツアーなど、王立バレエ団にとって最大の成功となっている。一方のサヴェージ・ローズは、1989年にはデンマークサッカー100周年記念曲を制作したり、1996年にリリースした『Black Angel』でデンマーク音楽賞を獲得したりと、デンマークの国民的グループへと登りつめることになる。自由と平和、愛、そして解放された精神を歌い続け、常に魂を揺さぶる音楽を提示してきたサヴェージ・ローズは、2017年までにライヴアルバムを含む25枚のアルバムをリリースしている。2006年2月25日にメインメンバーだったトーマス・コッペルが病気のために亡くなってしまったが、現在でもアニセット嬢を中心に精力的に活動を続けている。また、2017年にはサヴェージ・ローズ結成50周年を記念して、王立劇場で本アルバムの『死の勝利』の公演を果たしている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はデンマークの国民的グループであるサヴェージ・ローズの7枚目のアルバム『死の勝利』を紹介しました。サヴェージ・ローズといえば、女性ヴォーカリストであるアニセット・コッペル嬢のジャニス・ジョプリンを思わせるソウルフルなヴォーカルが印象的ですが、本アルバムは王立バレエ用のインストゥメンタルを中心とした楽曲になっています。もし、サヴェージ・ローズの名盤を指すのであれば、アニセットの素晴らしいヴォーカルが聴ける1973年の『Wild Child(野生児)』と、インストゥメンタルナンバーの本アルバム『死の勝利』をオススメします。本アルバムは行き過ぎた文明社会への警鐘として作られたバレエ曲でありながら、サヴェージ・ローズの数あるアルバムの中でも、もっともプログレッシヴな作品になっています。コッペル兄弟によるツインキーボードと繊細なパーカッション、叙情的なギター、そして何よりもノスタルジックで幻想的な雰囲気にしてくれるアコーディオンやハーモニカが、いずれ死が訪れゆく街角の人々の小さな幸せをロマンティックに描いていると思います。アニセット嬢のヴォーカルが抑えられているので、ちょっと物足りない感じもしますが、最後の曲で披露されます。少し子供っぽく歌うアニセット嬢のヴォーカルですが、歌詞はまさに警告ともいえる壮絶な内容になっています。ここで作曲したトーマス・コッペルの深い信念に基づく音楽思想が、アニセット嬢の歌に乗せられている感じがします。

 本アルバムは時代に合わせて様々な音楽スタイルを追求するサヴェージ・ローズが、王立バレエのコラボレーションによって生み出されたプログレッシヴロックの傑作となっています。コッペル兄弟の楽曲センスが直に味わえる美しいサウンドを、ぜひ堪能してみてください。

それではまたっ!