(献花に向かう人たち(増上寺横)東京タワーを間近で見るのは久しぶり)
安倍元総理が凶弾に倒れてちょうど1年経つ。
この日行われた一周忌法要の献花のため、昼前に家を出た。なんせ会場の増上寺は東京西北部住民にとっては都内で最も行きにくい場所のひとつなのである。
国葬の際の苦い経験が学習効果となって、まずは近所のスーパーで花をゲット。
(ちょっとショボいが気持ちだからサ)
今回早出したのは距離だけのせいではない。ついでに芝大門の名店「味芳斎」で久しぶりに同店名物「牛肉麺」を食おうという算段である。
私が芝大門にある子会社で勤務したのは2007年のこと。
同僚に案内されて初めて食った牛肉麺の旨いことといったら。食ってしばらくすると胃から始まって視神経、網膜、脳の奥の方まで、あらゆる細胞が活性化していく。
以来週に3回は牛肉麺を食うことになったのだが、上には上がいた。
当時私が勤務していた会社の広告は大手広告代理店便通に委ねられていたが、そこの担当営業マンA氏が文字通り毎日牛肉麺を食っていたのである。
「あれ、今日打ち合わせ?」
「いえ、飲み過ぎでちょっと辛いもんですから」
「サウナ代わり?」
「あはは、そうなんです」
当時の便通はパワハラ企業として夙に高名であった。
私も職務柄同社の接待を受けることがあったが、二次会が終わる頃になるとやおらA氏の上司がささやく。
「Aがとことんお供しますので朝までご存分に飲んでください」
A氏の立場もあるので上司を見送ってからA氏行きつけのホテルのバーでチビチビやってから、彼が呼んでくれたタクシーで深夜に帰宅したこともしばしば。
午前3時の東京ベイは
港の店のライトで揺れる~
そんな感じ。
驚くのは翌朝である。
8時頃にオフィスに行くと、入り口にAが立っているのである。
「おはようございます。昨晩はありがとうございました!」
「あのさ、こんなことしなくていいからさ。少しは寝たの?」
「はい、少しだけ」
ウソつけ。
スーツは昨晩のままである。おそらく上司から「そのまま朝挨拶に行って誠意を見せてこい」と命じられているのだ。近代資本主義恐るべし。
過当競争の闇は深い。
業界の雄電通で新入社員の自殺事件が起きたのは8年後の2015年のこと。A氏はお元気なら50歳前後の働き盛りだが、今どうしていらっしゃるのだろうか。
そんなことを思い出しながら「味芳斎」へ。同店を訪れるのは6年ぶりだ。
「味芳斎」はかつて芝大門に薄汚い本店とややきれいな支店とがあったが、今はどちらも近所に移転したらしい。私が向かったのはグーグルマップで指示された方である。
(以前本店にあった看板がかかっている どうやらこっちが本店らしい)
(かつての本店 2017年8月撮影)
店は土曜日ということもあって満員だった。私と同様、献花のついでに寄っちゃおう、というお客さんも多いのかもしれない。
カウンター席に案内されて待つことだいぶ、ようやく牛肉麺が登場した。
旨い。相変わらずのパンチ力である。
ただ値段は驚きの1800円。6年前に1300円になったのも驚きだったが、味芳斎はさらに高価格路線をひた走っているようだ。
腹も膨れたところで増上寺へ。
国葬の時と同様の行列を覚悟していたが、国葬と一般献花では格が違うせいなのか、「去るもの日々に疎し」ということなのか、意外なほど混雑していない。
(手荷物検査の所でホンの少し行列ができた)
献花の列も数人程度。
それでも献花台には溢れんばかりに花束が載せられていた。
(3か所の献花台は花が溜まると片づけのために順次閉鎖される)
安倍さんありがとうございました。
心からご冥福をお祈りします。
一礼して会場を後にした。
安倍晋三行年67歳。無為に馬齢を重ねた私も来年67歳になる。
増上寺を訪れることも、牛肉麺を食うこともこれから先の人生では二度とないだろう。










