夜の荒木町でコーヒーを飲む  | 八ヶ岳ゆるふわ日記

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八ヶ岳南麓大泉と東京を行ったり来たりの毎日。日々のよしなしごとを綴ります。

 私はかつて荒木町でよく飲んだ。今から25年程前のことである。

 そのころの荒木町はばあちゃん達がやってる店が並んでいて、暖簾をくぐって黙ってカウンターに座ると小ざっぱりした肴を適当に出してくれるという趣で、かつての花街の風情がそこここにあった。

 

 どの店も狭いが、ばあちゃんは黙って肴を出すだけで余計な会話はない。客もピンかせいぜい二人連れ、店と客がなれ合うこともないし、客同士で盛り上がることもない。

 昔は店も客も品格があったのだ。

 

(荒木町のメインアイコン見番跡(現とんかつ屋のとこ) 見番は1981年荒木町三業地組合の解散と

 ともに閉鎖された)

 

 その後20年程足を運んだことがなかったが、今回久しぶりに荒木町で飲むことにした。旅のお供は

以前お茶の水から神楽坂までぶらり旅をした九州氏である(その時の記事は→ ここ)。

 

 「荒木町」とは、「車力門通り」と「杉大門通り」に囲まれた界隈の通称である。住所でいうと荒木町+舟町だ。 

 

(左 車力門通り 右 杉大門通り 杉大門通りの方が繁華街、という感じ)

 

 四谷三丁目交差点付近のステーキ屋で待ち合わせて腹拵え。特にこれというものもない店でコースをそそくさと済ませ、荒木町に繰り出した。

 

 

 まずは杉大門通りを北上、かつてしょっちゅうお世話になった「おちあい」を覗いてみた。土曜日で休みのようだが店は続いている様子(おそらく代は替わっていると思う)。

 ここはカウンターとテーブル席が一つに小あがり、というこじんまりした店だが、奥に出入り口が別の離れ座敷があってそこで飲むとなんだか学生時代の合宿気分になるのが楽しかった。

 肴はお任せのみ。

 豆の煮たの

 畳いわしとシシャモ、ゲソ揚げ

 タコ刺身

 手羽先焼き

 里芋、きのこと油揚げの鍋

という構成で、これは春夏秋冬変わらない。

「大将、今日2軒目だから軽くね」

「ハイヨ!」といって同じものがでてくる。

 私の上司の役員昇進内祝いをやった時も、わざわざ事前に、

「大将、おめでたい席だからさ、ちょっとそういう風に鯛とかさ」と頼むと、

「ハイヨ!」という返事はよかったが、当日出てきた食い物はタコ刺しが鯛刺しに代わっただけで、あとはいつもと同じだった。

 

(店舗前の路地から離れ座敷の出入り口方面を望む)

 

 杉大門通りから車力門通りへとつながる路地に入ると「四谷こくている」、「与太呂」と懐かしい店が

並んでいる。「与太呂」は日本酒バーで、ここに寄ると翌日の午前中は何もできなかった。

 

(昔はこんな看板はなかったような)

 

 さらに進むと、あんこう鍋と穴子の店「たまる」。

 ここはかつては予約不可の店で、私はアンコウなんぞ食いたいと思ったことは生涯一度もないが、たまたま店先を歩いていて扉越しに席が空いているのが見えると、「限定モノ」にはとことん弱い性分、つい

フラフラと吸い込まれてしまうのであった。

 

(いせ源は「都内唯一のアンコウ専門店」と称しているが、「たまる」は穴子もやってるから専門店では

 ない、ということなのだろうか?)

 

 車力門通りに出て、見番の脇の路地にフグの「しほ瀬」。ここも健在である。

 私はフグを食いたいと思ったことはこれまた一度もないが、誰かが「フグ食いたい」と騒いだ時はここに来ることにしていた。安くて良心的な店である。

 

(座敷が狭いので身体の大きい方にはつらい)

 

 ボチボチ九州氏が飽きてきたので、今は懐かしいバーTerry'sへ。ところが既に店は変わっていた。

 田中美佐子似のママはどこでどうしているのだろうか?

 

 もう一軒行きつけだった「マンマミーア」も影も形もない。

 この店で私は生まれて初めて「トマトとモッツアレーラのカプレーゼ」を食ったのだが、その旨さに感激してマスターにレシピを訊ねたところ、「『丸正』で買ったトマトとモッツアレーラを丸正で買ったドレッシングであえるだけです~」とのことであった。

 ワインは5,000円の「メガボトル」が定番だったのだが、ある日マスターが「丸正」に買い出しに行った隙に私の部下が厨房の仕入れ伝票をチェックしたところ、わずか800円の粗悪品であった。

 丸正から戻ったマスターに部下がボリ過ぎをなじると、気のいいマスターは家探しされたことを怒るでもなく、「えへへへ~」と笑うのであった。

 又吉直樹似のマスターはどこでどうしているのだろうか?

 

(違う店になっていた)

 

 ああ、天地は万物の逆旅にして光陰は百代の過客なり・・・

 

 しばし茫然としていると、九州氏が「コーヒーの店ありますね」と目ざとく店を見つけて夜のコーヒーを

楽しむことになった。九州氏は九州もんのクセばして、酒の弱かですもんね。ツヤつけとう。

 

(あざとい書斎風の装飾)

 

 私はゴテゴテと飾り散らした店は嫌い、主人と常連がワーワーやっている店も嫌いだが、ここは二つともヒットしているので当然嫌いである。

 ところが蓼食う虫も好き好き、九州氏はヤケに気に入って「私、ここに通いそうです」とぬかすではないか。彼との付き合いもかれこれ10年以上になるが、およそ人間の心理ほど不可解なものはない。

 

 そうこうするうちに、興奮した九州氏、

「本は誰のものね」、

「あなたの(従業員風の女性)のメガネは近眼用ね」等と根ほり葉ほり聞き散らかし始めた。

 ちょっとキナ臭くなってきたので、グズるのをなだめすかして店を出たが、興奮醒めやらぬ同氏は鼻の穴を広げながら、

「学芸大学に同じような店があります。そこ行きましょう~」と咆哮する。今日の飲み場所を決める際、

日比谷線以南には行かない。帰りが面倒だから」と私が言ったのを記憶にとどめているのだ。聞くまでもなく、その店は駅の北側にあるに違いない。

 頭のいい男というのは緻密にして不可思議、ややこしいものなのである。

 

 あ~でもない、こ~でもない、珈琲屋の前の路地で小競り合いをした挙句、歩いて四谷まで行くことになった。

 四谷しんみち通りのいつものバーで軽く2、3杯、やがて1時を少し回ったころ荒木町ツアーも無事終了したのであった。

 

(遅かったね~)