※ 司法書士試験用です。

 

Ⅰ民事執行の種類

民事執行とは、国家権力による民事上の強制手段である。

①強制執行、②担保権の実行としての競売、③換価のための競売、④債務者の財産開示の4つを併せて民事執行と呼ぶ(民執1条)。


(1)強制執行

(ア)意義

強制執行とは、給付判決で確定された請求権を、国家権力によって強制的に実現することを目的とする手続きである。判決を無視する者に対して判決の内容を実現するためには、この場面でも自力救済は禁止されているので、国家の手による特別な手続きが必要になる。  


(イ)個別執行

強制執行は、債務者の個別財産に対して、債権者の個別的請求権の満足を目的としてなされる。債務者の総財産に対してなされる破産が「一般執行」と呼ばれるのに対して、強制執行は「個別執行」と呼ばれる。同一の執行手続に複数の債権者が競合する場合でも、個別的な執行手続が独立に行われる点で一般執行と異なる。


(ウ)強制執行によって実現される権利

強制執行ができる権利は(給付判決に表示された)給付請求権に限られる

これに対して確認判決や形成判決については強制執行手続が行われない

確認判決は、権利義務の確定自体を紛争解決の最終目標とするものである。

形成判決は、執行を待たずに判決自体の効力として判決の内容を実現してしまうものである。 

 

判決が確定する前でも、仮執行宣言が付されれば強制執行が可能となる。


(2)担保権の実行としての競売

担保権の実行とは、不動産を目的とする担保権(抵当権・質権・先取特権)に基づき、その目的不動産を強制的に換価することによって被担保債権の満足を図る手続きである。担保権の実行にも強制執行に関する規定の多くが準用される。


(3)換価のための競売

換価のための競売とは、財産価値の保存・転換を目的としてなされる競売である。

手続上、担保権の実行としての競売によるので形式的競売と呼ばれる。共有物分割のための競売(民法258条2項)・弁済供託をするための競売(民法497条)・商事売買における自助売却としての競売(商法524条同527条など)が、形式的競売である。


(4)債務者の財産開示

財産開示とは、裁判所が債務者に対してその財産の開示を命ずる手続きである。金銭執行の債権者は、債務者の財産を特定して差押えの申立てをしなければならないのを原則とするが(動産執行は例外)、債務者がどこにどのような財産を持っているのかを突き止めるのは債権者にとって困難な場合が多いため、この手続きが設けられた。


※「金銭執行」とは、請求権が金銭の支払を目的とする場合の強制執行である。

金銭債権の満足に充てられるべき財産の種類に応じて区分される。不動産に対する金銭執行、動産に対する金銭執行、債権その他の財産権に対する金銭執行、船舶・航空機・自動車・建設機械等に対する金銭執行がある。

 

--------------------------
Ⅱ執行の方法

(1)原則

・金銭執行は常に直接強制、すなわち執行機関が債務者の協力を待たないで、直接に請求権の目的を実現する方法による。

 

・金銭執行の手続は、まず債務者の財産を差し押さえて債務者の処分権を奪い、

次いで差押財産を換価し、それによって得た金銭を債権者に交付あるいは配当する。

差押え → 換価 → 満足という共通の基本パターンがある。

 

※「執行機関」は裁判所と執行官である(民執2条)。少額訴訟の場合は、裁判所書記官が執行機関である(同167条の2)。

執行機関としての裁判所を「執行裁判所」という。執行官が行う執行処分に関しては、その執行官が所属する地方裁判所が執行裁判所である(同3条)。

 

(2)例外

扶養義務などに係る金銭債権についての強制執行は、直接強制の方法により行うほか、債権者の申立てがあるときは、間接強制の方法によって行うことができる。

 

・債権者が扶養義務などに係る確定期限のある定期金債権を有する場合において、その一部に不履行があるときは、将来分の定期金のうち、六か月内に確定期限が到来するものについても、間接強制の申立てができる。

 

---------------------------
 Ⅲ民事執行手続の基本構造  

(1)迅速性の要求

(ア)執行手続は、私人の権利(請求権)の実現を目的とするものであるから、第一に配慮されなければならないのは債権者の利益の保護である。したがって、できる限り簡易・迅速に執行手続が行われることが重視される。このことは、執行手続の基本構造に反映されている。

 

次のような仕組みにすることで、手続きの機動性を確保している。

① 執行を行う国家機関(執行機関)を、裁判を行う機関(裁判機関)から分離する。

 

② 執行機関は、執行すべき請求権の存在を債務名義その他の文書を手掛かりとして

形式的に審査するに止めて、請求権を現実に実現するための行為に専念する。

 

③ 事実的な強制力を行使する場面では、裁判官以外のそれにふさわしい執行官が手続きを担当する

 

(イ)執行対象財産の帰属の判断にあたっても、形式的な審査方式が採られている。例えば、不動産は登記、動産は占有といった外形のみで債務者の責任財産に属すると判断して執行手続を進める構造となっている(債権の存在についての確認すら行われない)。

 
(2)債務者および第三者の保護  

執行手続は、他面で債務者その他の者の利益にも配慮するものでなければならない。

そこで、債務者の財産のうち生計を立てるのに必要最小限のものは執行の対象外とされている(民執131条参照)。  

 

・執行手続は、必ずしも実体法的な正当性を完全に確認してから行われるとは限らないので、解決のための手続が当該執行手続の内部または外部に用意されている(執行抗告・執行異議・請求異議の訴え・第三者意義の訴えなど)。

 

---------------------------

Ⅳ執行抗告・執行異議

 (1)執行処分の瑕疵  

執行機関の行なった執行処分に瑕疵がある場合や、執行機関が成すべき執行処分をしない場合、当事者その他の利害関係人は、国に対してその是正を求めることができる。ここで「執行処分の瑕疵」という場合、次の2つが区別される。


(ア)違法執行 

 違法執行とは、執行処分または執行処分をしないことが「執行法上」違法な場合である。「執行抗告」と「執行異議」は、この場合の救済手段である。

 

(イ)不当執行 

不当執行とは、執行処分は執行法上適法であるが、執行処分の結果が実体法上、

是認されない場合である例えば、執行債権が債務名義の存在にもかかわらず実体法上存在しない場合や、執行対象財産が債務者の責任財産に属さない場合などである。

 

・この不当執行の救済は、執行手続とは別の訴訟手続によるのであって(請求異議の訴えなど)、執行抗告や執行異議の手段によることはできない(執行抗告と執行異議は、執行手続きの内部に用意された救済手段であるから、執行法上適法である場合には使えない)。

 

・しかし違法執行と不当執行の区別は、債務名義を要件としない担保権実行の手続については必ずしも貫かれていない。担保不動産競売においては開始決定に対する執行異議の理由として、また担保不動産収益執行においては開始決定に対する執行抗告の理由として、担保権の不存在・消滅を主張することができる。


(2)執行抗告(民執10条同12条 

・執行抗告は、執行裁判所の執行処分としての裁判に対する、上級審への不服申立て(上訴)であり、法律に規定されている場合に限って許される。

 

※ 抗告とは、(民事訴訟法では)裁判所の決定および命令に対する上訴をいう。


執行抗告は、裁判の告知を受けた日から1週間の不変期間内に、抗告状を執行裁判所に提出して行う抗告状を執行判所以外の裁判所へ提出した場合は、移送はされず、不適法な申立てとして却下される(判例)。

 

(3)執行異議(民執11条 

執行異議は、執行裁判所の執行処分で執行抗告の対象とならないものにつき広く許されている。執行異議は、執行処分をした当該執行裁判所に対する不服申立て(上訴)である。 執行異議の申立てについては、特に期間の制限はない。 

 

--------------------------- 

Ⅴ執行訴訟

(1)請求異議の訴え(民執35条

(ア)請求異議の訴え」は、第一に、債務名義の存在を前提とし、その債務名義に表示されている権利の存否・内容を訴訟手続によって審理し、その結果、権利の不存在が明らかになった場合(不当執行の場合)には、判決により債務名義の執行力を排除し、執行手続を中止・防止することを目的とする。

 

第二に、裁判以外の債務名義(執行証書など)については、 その成立の有効性を訴訟手続によって審理することを目的とする。  


(イ)「請求異議の訴え」は、債務名義の執行力の排除を目的とするものであるから、債務名義の成立後であれば、強制執行手続の開始前であっても提起できる。

 

(ウ)請求異議の訴え」は原則として債務名義の種類を問わない

 

(エ)担保権実行手続は債務名義を前提としないので、「請求異議の訴え」は提起できない 


(2)執行文付与に対する異議の訴え(民執34条 

「執行文付与に対する異議の訴え」は、条件成就または承継を理由に執行文が付与された場合に、これらの事実を争う債務者に許される救済手段である。執行文が付与されなかった場合に債権者に許される「執行文付与の訴え」(同33条と対照をなす。

 
(3)第三者異議の訴え(民執38条 

「第三者異議の訴え」は、債務名義の執行力の及ばない第三者の財産、または債務名義に表示された責任財産以外の債務者の財産に対して執行がなされ、第三者または債務者の権利が違法に侵害される場合に、これらの者が訴訟手続によって執行を排除することを目的とするものである。

 

 

<参考文献>

民事執行・保全法概説(有斐閣双書) 

民事執行・保全法(有斐閣アルマ)