No.515 通勤ゾンビーズ

テーマ:

 

午後10時46分....

私は今、赤羽駅4番線のホームにいる。

この場所に私が来てから、まもなく1時間が経とうとしている。

 

昨夜の台風襲来の影響を受けて、電車のダイヤは乱れまくりである。

 

今朝は、普段の倍の時間をかけて出勤した・・・

 

 

『流石に、帰りの電車に乗る頃にはダイヤの乱れもある程度は元通りだろう』と

たかをくくっていたのだが・・・

完全に裏切られた・・・・

 

 

新宿駅で、30分以上待たされた挙句に・・・

『本日の湘南新宿ラインの運転は、取り止めになりました。』

と場内アナウンスが流れて、慌てて埼京線で赤羽までやって来たものの・・・

 

このザマである・・・

 

かと言って、私が家に帰るには高崎線に乗る以外に術がない。

 

 

ここに着いた時、電光掲示板では高崎線は『5分遅れ』となっていた。

それが『10分遅れ』になり、『15分遅れ』、『20分遅れ』、『25分遅れ』........

 

『55分遅れ』

 

そして遂に『大幅な遅れ』になった。

 

この先、どれだけ遅れても、この『大幅な遅れ』の表示は変わることは無いのであろう。

 

 

 

コレといった、遅れの原因や現在の運転状況を説明するアナウンスが無い状態で、

唯一のJR側から表示された情報だったのに.......其れまでもが遂になくなった......

 

一体全体、私の知らないところで何が起きているのであろう?

 

 

 

向こう側に見える、大宮駅行きの埼京線のホームには人が溢れている。

午後11時近くのこの時間に不釣り合いな人の多さである。

 

ふと昨日見た、ゾンビ映画の事を思い出した。

 

もしかして・・・・

ゾンビの集団が、東京を襲っているのか?

だとしたら、ココに居ては危険だ‼

このホームにやって来る電車には、車内にパンパンに詰め込まれたゾンビが乗っているに違いない‼

幸い私の前には、何も知らないオジさんが二人立っている。

このオジさん2人がゾンビに喰われている間に、私はダッシュで逃げよう。

後ろを振り返らずにダッシュで逃げるのだ‼

 

『まもなく、4番線には遅れておりました高崎線がまいりま~す。』

 

来る。

 

果たして乗っているのは、人間か?それとも・・・?

 

『一瞬の迷いが命取りになる』私は自分に言い聞かせる。

 

『ヴォーヴォー』と不気味な汽笛を2度鳴らしながら電車はホームに入って来た。

中の様子は外からではわかりづらい。

 

しかし、パンパンに何者かが詰め込まれている事だけは、確かだ‼

少しづつ減速しながら、電車は止まる。

 

 

そして・・・・『シュッホー』という音と共に電車の扉が開いた。

 

その電車の中にパンパンに詰め込まれていたモノがはっきりと見えた。

それは、いきなり襲い掛かって来なかったが、こちらをジッと見ていた。

『喜怒哀楽』すべての感情をなくした虚ろな目で・・・ただ、こちらを見ていた。

 

飛び掛かって襲って来ると予想していたので、私は怯んでしまった。

 

逃げる事が出来ない‼

『蛇に睨まれた蛙』という表現は、この場合決して正しくはないが・・・・

私は動くことができない。

『恐怖で足がすくむ』のではなく、まるで催眠術にかけられたように。

 

 

周りにいる人達も誰1人として逃げ出すものも居なかった。

そして、私はさらに恐ろしい事に気が付く、ホーム側に並んでいた人達も電車の中の人達と全く同じ顔をしているではないか・・・・‼

 

状況を理解しているはずなのに・・・・

私の身体は、思うようには動かない・・・

 

 

不意に誰かが私の背中を押した。

それが合図だったように、そのまま一気にゾンビパンパンの電車の中に押し込まれる。

隙間が無いくらいにゾンビでパンパンの電車の中に・・・・

 

『ギッシッ、ギュルググ、ギッシッ、ギュルググ』・・・。

 

奇妙な音が聞こえる。

誰も悲鳴をあげる者は居なかった。

やはり、私以外は全員が感染者なのだろう・・・・・。

 

ホーム側にいた、ゾンビ達は電車の中にたちまち吸い込まれて来る。

 

私は無意識に流れに身を任せていた。

或いは、流れに飲み込まれていたのかもしれない。

 

 

一気に乗車口の反対側のドアまでたどり着いた。

 

もはや、ここから逃げ出す事は困難である。

次の停車駅で、私の側のドアが開くであろうか?

否‼ 浦和駅はこの駅と同じ側のドアが開く。

その次の駅は・・・

 

と考えを巡らせている間に、窓から見える風景が右から左へ動き出した。

駅を抜け電車の窓から見える外の風景は、いつもと変わらない平和な日常に見える。

私は、このゾンビでパンパンな電車の中、襲われる事なく、感染もする事無く、

あの日常に戻ることが出来るのだろうか?

 

『誕生日に動物園に連れて行く』とや約束した娘とまた会う事が出来るであろうか?

 

 

最後に妻と娘にメールを送ろうと、ポケットのスマホを取り出そうとする。

何しろゾンビでパンパンの電車の中では、こんな簡単な動作も困難を極める。

 

やっとの思いで、胸の位置まで待ってきたスマホは、自撮りカメラが起動していた。

スマホに写る自分の顔を見て、私は驚愕した。

受け入れ難い事実が、そこには映し出されていたのだ。