特定秘密の保護に関する法律案のパブコメがそろそろ終わります(提示されている案 )。色々と思ったことがあるので、あまり頭の整理が十分ではありませんが、五月雨式に書いていきたいと思います。


 なお、私はかつて断片的に秘密保全関係の仕事をしたことがありますし、口外してはならない秘密を幾つか知っていることもあり(したがって、漏えいは国家公務員法の処罰対象になります。)、守るべき秘密はあるという立場の人間であります。その前提で読んでください。


● 「安全保障」の定義

 外交、防衛関係だろうと思われるでしょう。基本的にはそうです。しかし、実は日本は「安全保障」という言葉をかなり広範に使う国です。法令から省令、規則まで下がっていくと、実は「食料安全保障」、「エネルギー安全保障」なんてのは普通に使われていますし、それ以外にもよくつかわれる言葉として「人間の安全保障」なる用語もあります。パーっと見てみた感じでは、例えば「空港法」にも「安全保障」という言葉が出てきます。


 昔、経済産業省が貿易管理を行う課の名に安全保障という言葉を入れようとして、外務省が大抵抗したことがありました(けど、押し切られました。)。今では普通に使われています。農林水産省にも「食料安全保障課」という課があります。


 さて、法令案をよく読んでみると、必ずしもこれらが排除されているわけでもないように読めます。ケチ付けのように思えるかもしれませんが、日本において「安全保障」という言葉をどう使ってきたのかということが問われるように思います。別にそれは意義のあることなのですけど、この法律が掛かるとなると結構広範なものになる可能性があるということだけは知っておくべきだろうと思います。


● 外交・防衛だけではない

 もう一つ言うと、別表の第一号から第三号までは基本的に外交防衛関係ですけども、第四号のテロについては純粋に国内事例でも適用が出来そうです。第四号イの「テロ活動による被害の発生・拡大の防止のための措置又はこれに関する計画若しくは研究」は、純粋に国内事例でも適用可能でしょう。私は「テロリストに人権などない」という考え方の人間ですが、それでももう少しここは絞り込んだ方がいいのではないかなという気がします。


● 「秘密」の定義

 日本には今、こういう感じの秘密関連法制 があります。国家公務員法の秘密というのは、特段の指定行為を要するものではなく、最高裁判決によって「非公知の事項であって、実質的にもそれを秘密として保護するに価すると認められるもの」ということになっています。役所がどんなに「秘密」だと言い張っても、この要件を満たさないものは秘密には該当しません。それ以外の自衛隊法の防衛秘密、日米相互防衛援助協定等に基づく特別防衛秘密は、それぞれ一定の要件を経たものを秘密に指定するというプロセスです。

 

 基本的には、一定の厳格な要件を定めた上で行政機関の長が定めるということしか方策はないのですが、この要件をどう定めるかです。案では「別表に該当する事項(公になっていないものに限る。)であって、その漏えいが我が国の安全保障に著しく支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であるもの」となっています(別表は提示されている案の下の方にありますので見てください。)。


 気になるところと言えば、やはり上記の「安全保障」の定義と、あとは「おそれ」ですかね。恣意性を可能な限り排除するような文言を最後の最後まで追及すべきだと思います(最後は言葉ですから、解釈の余地が残ることは分かっています。)。


● 違法に集めた情報

 そういう情報ってどうなるんだろうと思います。故意、過失にかかわらず、結果として違法な手法で集まった情報ではあるけども、たしかに情報としてはとても有益であり、守るべき秘密に指定してしまったら、完全にお蔵入りです。具体的には、法律上認められない盗聴行為をやった結果、とても重要な秘密が得られてしまい、内部で「特定秘密にしておこう」となった時は怖いものがあります。


 まあ、これは現行法制下における「防衛秘密」でも同じ議論があるはずですから、何らかの前例的な対応が確立しているのだと思いますが。


● 口の軽い存在

 私が経験した中で口が軽い人種の一つに「国会議員」というのがあります。外務省時代、何度も痛い目に遭いました。しかし、実は国会議員は、日本国憲法第五十一条で「両議院の議員は、議院で行つた演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない。 」となっていまして、仮に得た秘密を国会の質問で暴露してしまったらどうなるんだろうと思います。


 普通は政治生命を問われるわけです。しかし、国会内で暴露された情報を「特定秘密」だと指摘すること自体が国益を損なうということもあり得るわけです。特定秘密だと指摘した瞬間から、その情報が真実であることを認めなくてはならないわけです。それを嫌がる力学というのは常にあります。


 よく官僚OBが秘密事項に当たるような暴露話をメディアに垂れ流すことがあります。基本的に出身官庁は相手にしないことが多いのですが、あれは「相手にすると、その事実の真贋を争わなくてはならない」ということがあるのです。これは法制度の問題点というよりも、この手の秘密法制に伴うポリティクスとして常にあり得るわけですが、その中でも無答責である国会議員は厄介な存在になったりしないかなと思います。


 色々と書きましたけど、まだまだ十分に読みこめていないので、ポイント外れもあるかもしれません。繰り返しになりますが、私は「守らなくてはならない秘密はたしかにある」という考え方の人間です。その中で、基本的人権とのバランスをきちんと取りながらやっていく必要があると思っています。それは「本法の適用に当たっては、これを拡張して解釈して、国民の基本的人権を不当に
侵害するようなことがあってはならない」と法律の最後に書くだけでは不十分でして、各条項に十分な気配りをしなくてはならないということです。