日豪EPAについて、交渉が行われています。なかなか、交渉の実相というのは見えてきませんが、現時点でちょっと感じたところを書き残しておきます。


 先日、党内の関連会議で、私から「ところで、EPAの関税障壁撤廃については、GATT24条で実質上すべての貿易について撤廃ということになっており、その『実質上すべて』というのはEUは『概ね9割』としていると承知している。これを踏まえ、日本としてはこの『実質上すべて』というのをどう解釈しているかを伺いたい。①金額ベースでの計算か、品目ベースか、②貿易総額か、日→豪、豪→日の片道での計算か、③撤廃の割合は何パーセントか、についてご教示いただきたい。」と発言しました。


 これをもう少し分かりやすく説明すると、次のようになります。


 ①ですが、「品目」と「金額」の違いは、撤廃分を計算する時に大きな要素なのです。例えば、高関税で守られている「こんにゃく」というのはオーストラリアからの輸入実績がないはずですから、「金額」で計算すると撤廃としては「ゼロ」です。ただし、こんにゃくの関税を撤廃すると輸入実績が出てくるでしょう。品目ベースでの撤廃の計算をすると、多くの品目を撤廃対象にしなくてはならなくなるので「潜在的な輸入可能性」までをも出せということになるでしょう。


 ②は、貿易全体だと、例えば、全体で9割撤廃だと仮定すると、豪州の撤廃分が95%である代わりに、日本の撤廃分を8割台後半に収めるといった操作ができるようになります。片道ベースでやると、そういうことができなくなります。ただ、日豪について言えば、下記の通り、豪→日(日本の輸入)の方が圧倒的に大きいので、総額ベースで計算しても、オーストラリアの撤廃分を9割超にすることで、日本の撤廃分で9割を下回れる割合はあまり大きくないでしょう。


 ③は「9割」とか「9.5割」といった数字のことです。


 そして、外務省からのお返事は「金額ベースで、総額で9割」が日本の基準とのことでした。一方、私が想像するに、オーストラリアは「品目ベースで、片道で9.5割」くらいのことを言っているのではないかと思います。農林水産省は「現時点では個別品目については議論に入っておらず、どの程度の(削減分についての)柔軟性が可能なのかを調整中」と言っていました。これは分かりにくい表現ですが、上記の①~③について詰めているということなのではないかと推察しています。


 ところで、日豪貿易について2009年の統計を見てみました。以下は非常に雑な計算ですので、よく知りたい方は財務省の貿易統計にでも当たられてください。


・ 輸出入総額: 約4兆3,774億円
・ 輸入(日本→豪州) 約1兆1,351億円
・ 輸出(豪州→日本) 約3兆2,423億円


 外務省が言っていた「金額ベースで、総額で9割」という基準をそのまま適用すると、日豪貿易全体で4370億円分の貿易については除外可ということになります。


 ちなみに、日本の農林水産関係の輸入品目は今は牛肉が一番多いです。以前は小麦だったのですが、BSEでアメリカからの輸入が止まってしまったため、オーストラリア産のシェアがグンと高まりました。それでも輸出全体のシェアは4%とのことですから、とても雑な計算をすると、1300億円程度かなと思います(違っていたらすいません)。


 そもそも、農林水産物全体で50億ドル弱の輸入があります。その中には、チップみたいな無税品目(8億ドル)もあり。なんとなくですが、上記基準で押し切れれば、交渉で農林水産物は泳ぎ切れないわけではありません。


 まあ、おいそれとオーストラリアが簡単にこのゲームに乗るとは思えませんから、こんなに簡単にはいきません。一番の鍵は、上記で触れた牛肉でしょう。小麦は既にシェアをオーストラリアに相当に出していますし、砂糖は国産と外国産で品質の差がなく、簡単に障壁撤廃を言える分野ではありません。オーストラリアが怖いのは、BSEの問題が一定の解決を見た時に折角拡大した日本での牛肉のシェアを、またアメリカに持っていかれるのではないかということです。日本で消費される牛肉は若干の特殊性があるので(例:吉野家)、日本以外の国への輸出で投資が回収しにくいということがあります。


 牛肉については、私は「関税番号で品目を細かく見ていって、高級牛肉のところを守り、そうでもない所は関税撤廃する」というのがいいように思います。そもそも、国産牛は安い牛肉のところで競いあっていませんから、この国内産への影響は相対的に抑えることができるのではないかと思っています。


 なお、そうやって安い牛肉のところでオーストラリアに関税撤廃を約束すると、アメリカが腰を抜かすでしょう。アメリカの畜産業者は日本の市場のシェアを取り戻したいと思っているはずですが、関税で差をつけられるともう現在のオーストラリアのシェアが固定化されてしまいかねません。そうすれば、自ずと日米FTAなのか、TPPなのかは知りませんが、アメリカのポジションがとても緩んでくるはずです。日米FTAをやろうと言ってくるかもしれませんし、TPP参加へのハードルを下げてくるかもしれません。これは同期当選のある俊秀の方のアイデアです(名前を明記すると、ご本人に迷惑が掛かるので止めておきます。あくまでも私から出たアイデアではないということを記すだけです。)。


 最後に、やっぱり交渉が縦割りだよなあということを痛感します。オーストラリアは非関税のところでは痛いところがあります(例:政府調達)。こういうところでガンガン攻めて、相手がギブアップしそうになったら、農林水産の関税の交渉をするみたいな、交渉全体での利益の均衡を図ることも必要でしょう。「司令塔は何処にあるのか。」、これが日本の交渉の大きな課題です。