『NADIE(ノーバディ)』MoMA上映後のトーク映像とコユーラ近況 | MARYSOL のキューバ映画修行

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【キューバ映画】というジグソーパズルを完成させるための1ピースになれれば…そんな思いで綴ります。
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今年3月にニューヨークの近代美術館(MoMA)で開催された「検閲下のキューバ映画上映会」

こちらの記事の最後にある『ノーバディ』の上映後のトークと質疑応答のシーンをミゲル・コユーラ監督がFacebookで公開しました。

 

 

『Nadie(ノーバディ)』は、詩人ラファエル・アルシデスの〈革命や芸術をめぐる独り語り(証言)〉に、コユーラ監督が様々な細工を施した映像を組み合わせた“ドキュメンタリー”作品です。

 

コユーラのトーク内容
1.画像のマニピュレーション(コユーラのスタイル)の例
  a.豪華クルーズ船にアメリカ合衆国の国旗を加える。
   b.ノートPCを使う女性の横にフィデル・カストロの看板を置く
   c.解像度の低い画像は印刷物風にして動画に加工
     d.Antonia Eirizの絵をコラージュして用いる。

 

2. 製作の動機と上映トラブル
   a.アルシデスの魅力:ジェスチャー、歯に衣を着せぬ物言い
   b.ハバナで公安に上映会を妨害される。

      参考記事はこちら: https://ameblo.jp/rincon-del-cine-cubano/entry-12266188164.html
    その後も何度か上映会を試みるが阻止される。
   c.海外の映画祭における検閲(キューバ政府への忖度)
    ・マル・デル・プラタ映画祭(アルゼンチン)に招待されたが、

     bの事件のあと上映プログラムから外された。
    ・ハバナ・フィルムフェスティバル(N.Y.)やマイアミでも外された。
   d.アルシデスの発言が反発を招く場合もある。
     例:「自分は今も社会主義者である」「今もチェ・ゲバラを尊敬している」
     コユーラ本人は「北欧の社会主義に好感を抱く」し、「アルシデスの矛盾に興味がある」。

 

3. 質問「キューバの若者は、何も変わらないから国を出たいと、状況にウンザリしている?」
 コユーラ:「確かにそうです。若い世代はイデオロギーをほとんどもっていない。映画を撮る人間として一番反発を覚えたのは、奨学生として約10年N.Y.に住んだあとキューバに戻ったら、皆から「頭がおかしい」と思われたこと。自分としては商業映画を撮ることに興味がないだけ。その点、キューバの方が自分の映画を撮る時間がある。N.Y.に住んでいたら週末しか時間がないだろう。それに僕のストーリーはキューバで撮らなければならない。それが最も重要な点だ。結局のところ、自分が気持ちよく眠りにつくにはこれしかない。自分のやりたいことを実行する。幸い僕は政治家じゃない。独裁者かもしれないが。でも映画を撮ること、スクリーンという限界の中で実験することに僕は人生を捧げる。生活のためではない。映画を撮るために生きているんだ。(拍手)

 

4.観客:貴方が今撮っている作品について情報を共有したい。
 コユーラ:実はこのあと5分だけ皆さんに残って欲しい。というのも、今撮っている映画(注:『ブルーハート』)のシーンに使いたいから。皆さんの頭を後ろから撮影させて欲しい。
次作は遺伝子ビジネスに関係あるサイエンス・フィクションで、フィデル・カストロが晩年に携わった実験という設定。“新しい人間”を創造して社会主義を救おうとする。もちろん実験は失敗。我々はオーターナティブの現実にワープする。そこは社会から拒絶された人々が造ったアナーキーな世界で、体制を壊し始める。
今、ここに俳優が立つ。彼はフィデルに協力する米国人の科学者で活動家でもあり、キューバ侵攻を防ごうとする・・・・

 

*このあと無事に撮影できたようです。
   
参考情報:
昨年の「グローバル・シネ・フェスティバル」にて『ノーバディ』最優秀賞受賞
https://ameblo.jp/rincon-del-cine-cubano/entry-12244288464.html


『ノーバディ』の素材になった『シリーズ:ラファエル・アルシデス』
第1章について
https://ameblo.jp/rincon-del-cine-cubano/entry-12168992858.html
  動画はYoutubeでご覧ください。日本語字幕付きで見られるはずです。

第2章について(動画は今、再生不能。せっかく字幕を付けたのに…)
https://ameblo.jp/rincon-del-cine-cubano/entry-12173083084.html

第3章(動画は今、再生不能。字幕も付けたのに…)
https://ameblo.jp/rincon-del-cine-cubano/entry-12180854354.html

第4章:https://www.youtube.com/watch?v=I4ol5DITSEo

第5章と第6章:Youtubeから削除された模様

第7章:https://www.youtube.com/watch?v=jSak9DgDTYU

 

製作中の長編フィクション『ブルーハート』について

https://ameblo.jp/rincon-del-cine-cubano/entry-11559235885.html


Marysolより
ミゲル・コユーラと出会ったのは2005年。
キューバ映画の傑作『低開発の記憶』の原作者エドムンド・デスノエスが紹介してくれました。
昨年12月には4年ぶりに再会しましたが、そのときは街中で落ち合いました。
というのも、ハバナ映画祭と並行して、彼は連日自宅で『ノーバディ』の上映会を行っていて、「もし要注意人物となった彼の家を訪ねたら、CDR(革命防衛委員会)に写真を撮られたり、面倒なことになるかもしれない」と忠告されたからです。
いつもなら家を訪ねたはずでしたが…。

 

ところで、上のミゲルのトークのなかで2cに付け加えると、サンダンス映画祭で『ノーバディ』がノミネートされなかったのは、キューバと米国の関係修復後、同映画祭とICAICが協力関係を結んだから(忖度した)だそうです。

 

そんなこんなで昨年はミゲルにとって不遇の年でしたが、彼とパートナーの女優、リン・クルスはメゲることなく、むしろ攻めの姿勢を強化。大胆に映像を駆使して闘っています。

 

不当解雇に抗議する女優、リン・クルス (映像:ミゲル・コユーラ)

英語情報:https://www.havanatimes.org/?p=132550