エドアルド・ムニョス・バッシと映画ポスター | MARYSOL のキューバ映画修行

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【キューバ映画】というジグソーパズルを完成させるための1ピースになれれば…そんな思いで綴ります。
★「アキラの恋人」上映希望の方、メッセージください。


革命後のキューバでは、あらゆる分野で、それまでとは全く異なるコンセプトでの創造が要求されました。

ポスターしかり。コンセプトの中心は、常に“人間”で、“精神的充足”、周囲との調和(公共精神)、緊密なコミュニケーションに主眼が置かれたようです。


それまで主に米国など外国系の広告企業で仕事をしていたグラフィックアーティスト達は、新しいコンセプトに沿うべく、ゼロからの出発を余儀なくされましたが、彼らにとって新しいスタイルの模索は、すべてが手探りでありながらも、大きな可能性を秘めたチャレンジでもありました。


『レボルシオン革命の物語』で、映画ポスターの先駆者となったエドアルド・ムニョス・バッシ:Eduardo Muñoz Bachs 1937~2001)

スペインのバレンシア出身。6歳のとき両親と共にキューバに移住。下は自画像

blog Munoz
もともとは子供向けのイラストを描いていたのですが、アレア監督が『レボルシオン』の映画を撮ったとき、自ら「ポスターを描いてくれ」と頼んできたそうです。


「自分にとっても、初めてのポスターの仕事だった。ティトン(アレア監督の愛称)とは革命前からの知り合い。僕が絵を描いているのを知っていたから、ポスターを頼んだってわけさ」

「映画を観て、黒が支配的な一コマを選んだ。わずかな隙間からひとりの人間が外へ走り出るのが見える。サンタクララの有名な装甲列車襲撃のときの、革命軍の銃眼もあんなふうだった。あのポスターのもつ強い表現力は、自分でも気に入っている」


「初めてICAICで、通常より大きめに印刷された自分のポスターを見た時、衝撃で目がくらみそうだった。それで今までやってきたイラストの仕事は一切やめて、ICAICのポスターデザイン部に入ったんだ」

「写真的な作品は他にもあったし、もともと僕は絵を描くのがすきだから、絵でメッセージを伝えようとした。60年代は、デザイナーひとり当たり月に4~5枚のポスターを描いていた。毎日のように映画を観たりシナリオを読んでデザインするんだから、大変な仕事量だったよ。でもICAICは僕たちの仕事に敬意をはらってくれていたから、比較的自由に製作できた」


「今まで手がけたポスターの数? 製品化されたものだけでも2200枚くらいあるかな?」

「最初のうち、僕の作品に対し拒否反応を示す人たちもいたよ。それまで(1940~50年代)のポスターといえば、セックスや人気スター、俳優陣の写真が中心で、監督や映画の内容などには無頓着。だから、僕のスタイルは新奇に映ったんだろうね。でも少しずつ受け入れられていき、やがて常に良い評判が得られるようになった(彼の作品はポーランドのポスターの影響を受けて、奇抜で自由なアプローチが特徴)


「当時シルクスクリーン印刷に使えた色は30~35色。その後インクが不足したり、紙が不足したり・・・80年代以降の問題は、組織内のサポートが足りないこと。それに刺激がないことだ。国外に出てしまった者もいるし、他の仕事に替わってしまった者もいる。映画の製作数も激減したし、正直言って、このままではポスターに未来はない」(1995年6月のインタビュー参考)

          Munoz

          『空手武道家』 1979年 ムニョス作


キューバの映画ポスターは“その映画のエッセンスを視覚化して人々に伝達する”という公共の場での機能のほかに、個人が買い求め、コレクションしたり、住まいの壁を飾ったりしてきました。公私両面で、環境を豊かにし、観る人の心に働きかけ、ときには微妙な変化を起こすきっかけにもなったでしょう。


芸術活動では、社会主義国ゆえの制約や不自由もある一方で、非営利的な創作ができるメリットもあります。商業的なポスターとは違う、自由で新鮮な発想とメッセージは、私たちの心を揺さぶる大いなる可能性が秘められているのではないでしょうか? なんとかまたその魅力を発揮してほしいものです。


ところで映画ポスターといえば、毎年12月始めに開催される「新ラテンアメリカ国際映画祭」では、ポスター部門のコンペティションも行われています。
私は昨年初めて同映画祭(第26回)に行ったのですが、シネ・チャプリンに併設されたギャラリーなどで、上映作品のポスターが展示されていて、映画と合わせて楽しむことができました。


ちなみに昨年のポスター部門の最優秀賞はコロンビア映画『ラ・ソンブラ・デル・カミナンテ』。ポスターも良いけれど、映画自体がしみじみと感動的で、すばらしい作品でした。

他にも優れたラテンアメリカ映画が数々あるのに、日本ではなかなか見られないのが残念です。

俳優も味のある人が多いと思うのですが・・・


興味のある方は、せめてネットでご覧ください。

“La sombra del caminante” (コロンビア映画)


ポスターを見るなら
http://www.aite.es/informacion/sector_it/asociados/2005/cc_estreno_co_sombra_caminante0405.htm

映画を知りたいなら(スペイン語)

http://www.pasaje500pesos.com/