オリーヴ・キタリッジの生活

エリザベス・ストラウト

アメリカ、メイン州クロズビー。

小さな港町に暮らす人々の何気ない日常を描く13編の連作短編集。

ずっと気になっていたこの作品。

ようやく読めた。

舞台となるクロズビーはアメリカの架空の街。

私の好きなFBIとかSWATが出てくるようなドラマの舞台になるニューヨークやLAのような都会的でスタイリッシュな街(独断と偏見によるイメージ)では多分ない。

地方の州のさらに郊外の街。

私の周りにいても違和感のない、ごくごく普通の人たちの人生が描かれる。

『オリーヴ・キタリッジの生活』というタイトルだけど、オリーヴ・キタリッジだけの物語ではない。

もちろんオリーヴがメインで登場する話もあるが、ほんの通りすがり程度に登場する話も多い。

オリーヴは、数学教師。

夫のヘンリーと共にクロズビーで暮らしている。

第１編「薬局」では40代で登場し、最終編では70代になっている。

その間、様々に辛いこと悲しいことを経験していく。

それでも、他の人物に焦点を当てたエピソードでは、その人の人生とほんのひと時の交わりを持つ傍観者でしかない。

皆がそれぞれ、自分の人生の主役であり、他人の人生の脇役である。

次々に入れ替わる主役たちの物語はそう教えてくれる。

正直なところ、13編全部が楽しく読める話ではない。

こんなはずじゃなかった、

何で私ばっかり、

何を間違えたんだろう、

というやり場のない想いに、ひとり歯を食いしばって涙する。

そんな物語ばっかりなのに先を読み進めてしまうのは何でだろう。

それでも前を向かなくちゃ、というわかりやすい希望が示されるわけでもない。

朝が来てしまうから、しゃあなしに今日一日生きてみるしかないか、って話なのにね。

自分より悪い境遇の人を見て安心するような負の感情からではなく、共に人生に挑む同志を見ているような、励まし合いたくなるような気持ちが湧き上がる。

ハッピーエンドだったり良い人ばかりが出てくるような作品は心を温めてくれはする。

でも個人的に、それだけでは読書体験としては物足りない気がしてしまう。

第９編「旅のバスケット」に、

誰がいるのか？

旅のバスケットを持たない人なんているのか？

という台詞がある。

苦しい時に、心の支えや心の拠りどころとなってくれる「旅のバスケット」。

私にとってはお気に入りの本たちが「旅のバスケット」かも。

繰り返し何度も読むかはわからないけど、お守り代わりにバスケットに忍ばせておきたい、そんな作品だった。

オリーヴ・キタリッジをめぐる短編集はもう一冊刊行されており、その他にもエリザベス・ストラウトの作品で気になっているものがいくつかある。

文庫化してくれたら嬉しいんだけど、、、

【書誌情報】

『オリーヴ・キタリッジの生活』

エリザベス・ストラウト

小川高義訳

ハヤカワepi文庫、2012(原著2008)