月村了衛
一気読み間違いなしの下巻。
ライザの物語は壮絶さを増す。
テロリスト養成キャンプでの生活は本当に過酷だ。
訓練の中で当たり前のように人が死んでいく。
毎日のように流れる世界各地の紛争のニュースの裏に、こんな闇が広がっていると思うと恐ろしい。
テロリストの道を選び、多くの血で手を汚したライザの生き方を肯定することはできない。
しかし、生まれた時から不条理な暴力と抑圧に晒され続けた少女が、こういう道を選んでしまうであろうことは理解できなくはない。
だからこそ、彼女を待ち受ける悲劇はあまりにも悲しい。
現在のライザが生きる屍のごとく感情を失ってしまったのも頷ける。
自己責任や自業自得という言葉で、ライザ個人にだけその責めを負わすことはできないはずだ。
それでもライザの後悔や罪悪感は一生消えることなくライザを縛るだろう。
この先ライザの生き方に変化があるのかどうか、シリーズの続きが気になってしまう。
特捜部の面々の群像劇も複雑な模様を見せる。
仲間の警察官からの冷たい視線に耐えながら、信念を持って職務に当たってきた由起谷と夏川の想いが報われる場面に思わず涙しそうになる。
しかしその時間はあまりに短かった。
これまた残酷すぎやしないか。
彼らの努力が報われる日は来るのか。
家族を奪ったIRFとの対決に、鈴石緑の心も揺れる。
特に、元IRFのライザへの複雑な心境。
緊迫の場面で、緑のライザへの本音が溢れ出る。
この2人がもう少し歩み寄れば案外面白いかもしれないと微かな期待をしてしまう。
そして終盤で明かされたタイトル「自爆条項」の意味。
緑を驚愕させた事実は、姿俊之とユーリ・オズノフとの間に微妙なしこりを残す。
それぞれの思いを胸に秘める特捜部のメンバーは一枚岩ではない。
固い仲間意識で結ばれたチームものとは一線を画し、それぞれが淡々と職務に当たりながら見せる群像劇が逆に新鮮だ。
クライマックスは、IRFの機甲兵装と龍機兵・警察の機甲兵装との戦闘シーンが圧巻だ。
文字を追いながら脳内で鮮明にイメージできるような臨場感溢れる場面が続く。
映像化と相性の良さそうな作品だが、このスケールの大きな物語の魅力を余すところなく実写化するのは難しいだろう。
国際世界を舞台にした壮大な犯罪と、警察はじめ日本の官庁の内部事情を絡めたストーリー展開のバランスが絶妙だ。
引き続き、黒幕である「敵」の正体は杳として知れず。
なるほど、こういうスタイルでシリーズが進んでいくのかという展開が見えた第2作だった。
第3作は1年も空けることにならないよう早く読みたいところ。
【書誌情報】