[あのこは貴族] | 力道の映画ブログ&小説・シナリオ

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岨手由貴子監督・脚本。山内マリコ原作。佐々木靖之撮影。渡辺琢磨音楽。21年、東京テアトル、バンダイナムコアーツ配給。


ABEMAにて鑑賞。山内マリコのベストセラーの映画化。キネマ旬報日本映画第6位。[同じ空の下私たちは違う階層(セカイ)を生きている]これはこの映画のキャッチ・コピーだが、世界観をよく表現できている。


五章立ての構成で、主人公の榛原華子(門脇麦)は三十手前で家族に紹介する席で、彼氏と別れたと伝える場面から始まる。いかにも東京生まれ不自由なく生きてきたお嬢様。映画的ツカミもOKで、焦る彼女が婚活を始め、お見合いで二枚目顧問弁護士青木幸一郎(高良健吾)に出会う。お互いを探りながら、さらに上流階級の幸一郎の家族に紹介され、華子は婚約する。一方、地方出身で慶應に入学した時岡美紀(水原希子)は親の事情で、キャバクラでバイトを始め、結局中退する。そして華子の友達でバイオリン奏者相良逸子(石橋静河)が招かれた演奏会で、華子の婚約者幸一郎が美紀と関係を持ってることを知る。ふたりは慶應時代からの腐れ縁で、華子と美紀は対面することになる…。


主人公のふたりは争うわけでもなく、幸一郎のことをよくわからない華子は美紀から聞き出そうとする。同じ空の下で、同じ空気を吸いながら、違う階層を生きてきたふたりの邂逅が生む、微妙な女性心理の揺れ、自身の生き様、そして目的などを探しての彷徨いを岨手由貴子監督は丁寧に汲み取りながら、都会の冷たい景色の中に描き出していく。大きな感動があるわけでもない。やがて代議士の道を歩き始めた幸一郎と違和感を覚える華子が選んだ道は…。評論家は本作のように断定した結末は好まないが、この映画にはそれだけに逆にリアルな三十代の生き様が淡々と紡ぎ出され、彼女たちの息遣いまでもが、伝わってくるような作品に仕上がっていた。