[東京の女] | 力道の映画ブログ&小説・シナリオ

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小津安二郎監督。エルンスト・シュワルツ原作。野田高梧、池田忠雄脚本。茂原英明撮影。33年、松竹蒲田配給。


youtubeにて鑑賞。次作の[非常線の女]を製作していた、 小津にスケジュールの空きが出来たので、依頼が舞い込み、シナリオすら出来てない状況で僅か9日間で撮影したやっつけ仕事的な作品で、原作はエルンスト・シュワルツの『二十六時』と明示されているが、これは小津のジョークですべて架空のもの。『その夜の妻』で外国小説の翻案映画化したように、この映画も四人の登場人物で、一日一室の出来事を描いている点では似ており、外国小説の映画化を思わせるような映画になっている。


学生の良一(江川宇礼雄)は、姉のちか子(岡田嘉子)と2人で暮らしていた。ちか子は会社勤務のタイピストだが、退社後は大学で翻訳の手伝いをしていると聞かされていた。ところがある日、良一の恋人春江(田中絹代)が兄から、ちか子が退社後に翻訳をしていると言うのはウソで、実際は警察にもマークされ、酒場で水商売をしているという噂を聞かされた。春江はそのことを良一に話したが、良一は噂を否定し、喧嘩になってしまった。良一は噂を否定したものの気になり、ちか子を問い詰めた。噂は事実だったが、ちか子は良一には関係のないことだと言い、良一はちか子を殴って家を出るが…,。


ちか子は酒場で水商売だけでなく、警察が事情聴取に来るように政治的な地下組織に繋がった危険な仕事をしているのだが、この時代でははっきりと表現は出来なかった。カメラによる移動やパンを使わず、緻密なカット割りと積み重ねで限定の場所と時間で、緊迫感を持続させていく。結末はかなりの衝撃を感じさせる。小道具や手のクローズアップの多様。カメラのローアングル。後の小津映画のスタイルがこの小品では試されている。


作品内でアメリカのオムニバス映画『百万円貰たらを良一と春江が観る場面があるのだが、やっつけ仕事だけにかなり小津個人の好みが入れられている


良一を演じた江川宇礼雄は、前作の『青春の夢いまいずこ』でも起用されているのだが、日本人離れした外人のようなマスクをしており、この映画に似合っていた。


小津安二郎。[東京物語]など。